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ただの子爵令嬢ですが、なぜか王子の恋愛相談役になりました  作者: はくまいキャベツ
第三章 ただの子爵令嬢ですが、王子と他国の姫の仲介役をする事になりました

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「エマリエル殿下の話し相手に?」


 それから一週間が経過した頃、エマリエルとの茶会の招待の手紙が届いた。

 今回は正式な招待のため、ダリアはグラムに報告していた。


「デイビット殿下が仰っていた話か…。まさか本当に来るとは」


 グラムは困惑したように招待状へ目を落とし、ひと通り読むと「そうか…」と静かに呟いた。

 ダリアが窺う様にグラムを見ていると、その視線に気付いたグラムが優しく笑った。


「そんな顔をするな。光栄な話だ。楽しんできなさい」


 内心複雑だろうが、快く送り出そうとしてくれる父親にダリアは感謝した。


「こっちにする?

 でもやっぱりこっちの方がいいかしら?」

「……」


 リリアンヌに報告するなり、どのドレスを着て行くか品評会が始まってしまった。

 ダリアにドレスを充てては、ああでもないこうでもないと言っている。


「ねえ、あなたはどんなのがいいの?」

「お母様が選んだものでいいわ」

「もう…そういう所、本当に父親にそっくりね」


 しばらく悩んでいたリリアンヌだが、一枚のドレスを手に取り「着てみてくれる?」と言った。

 ダリアは渡されたドレスを着てリリアンヌに見せた。


「うん、あなたの髪の色にぴったりだわ。これにしましょう」


 そしてダリアを鏡台の前に座らせると、メイドに髪を結わせて再びああでもないこうでもない、の時間が始まった。

 ダリアはただ身を委ねて、鏡に映る自分を見つめていると「ねえ、ダリア」とリリアンヌが言った。


「何?」

「お父様はね、あなたに良くない噂が立つことも心配しているけれど、それ以上に、あなたがまた傷付くんじゃないかって案じているのよ」

「ちょっと待って、何の話?」


 てっきり髪型の話かと思いきや、まったく違う内容に思わずダリアは振り向いた。


「あら、動いちゃダメよ」

「だ、だって…」


 するとリリアンヌはメイドに「席を外してくれる?」と言った。メイドは礼をすると、部屋から出て行った。

 そしてリリアンヌは櫛を手に取ると、ダリアの髪を梳かし始める。


「ほら、あなたハノーヴァー卿と仲が良いでしょう?」

「…だから何の話なの!?」


 そんな名前が出てくるとは思っていなかったダリアは、思わず声を上げる。


「あの方とはいい雰囲気なんじゃないの?」

「そんな訳ないじゃない!」


 ダリアが全否定すると、リリアンヌはつまらなさそうに「ふうん」と言って続けた。


「一緒に会場へいらしたから、てっきりそういう仲なのかと思っていたわ」


 リリアンヌの言葉に、ダリアは呆れた様に言う。


「そういう仲って…案内して下さっただけよ」

「そういえば講師を務めていた時も、あなたが移動する時は必ずハノーヴァー卿が案内していたわね。

 随分と過保護ね、と思っていたのだけど」

「お母様だって、誰かに案内されていたでしょう?」

「いいえ?あれだけ通っていれば部屋がどこにあるかなんて分かってるし、一人で行き来してたわ」

「そ、そうなの?」


 ダリアはてっきり、案内されるのが当たり前なのかと思って、何も考えずにブレーデンの後をおいかけていた。

 驚くダリアにリリアンヌは続ける。


「ハノーヴァー卿は、王家に代々仕えるハノーヴァー伯爵家の方。爵位だけではなく、王家から特別な信頼を寄せられる家柄なの。

 あなたは恋愛で一度深く傷ついた過去があるから、またそうなるんじゃないかって心配なのよ」

「…知っていたの?」


 ダリアは鏡越しにリリアンヌを見つめて言った。

 リリアンヌが悲しそうに微笑む。


「勿論よ。あなたが触れてほしくなさそうだったから、知らない振りをしていただけ」


 そう言ってリリアンヌは、後ろからそっとダリアを抱きしめた。


「あの時はこうやって、あなたを抱きしめてあげられなくてごめんなさい」


 ダリアは自身の体を包むリリアンヌの腕に、そっと触れる。


「ううん…あの時はああするのが一番だったの。むしろとても心配だったろうに、私の気持ちを優先してくれてありがとう」

「そんなことを言ってくれるなんて…本当にあなたは優しい子ね」


 リリアンヌは最後にぎゅっと抱きしめて腕を解くと、髪飾りを手に取り、ダリアの髪を結い始めた。


「私達もね、身分の差があったから一緒になるのはそれなりに大変だったのよ。生まれた国も違ったから尚更。

 だから、あの人は自分と同じような苦労をあなたにはさせたくないのよ」


 グラムのダリアを案じている気持ちを知って、心がじんわりと暖まる。


「そうだったのね…でも安心して。本当にハノーヴァー卿とは何もないし、もうこれきりにしようと思っているの。

 それよりも今は、エマリエル殿下のお話し相手を無事に務めれるかどうかで頭がいっぱいだわ。だから心配しないで」

「…そうね。応援してるわ」


 髪を結い終えたリリアンヌは満足そうに頷く。


「これでどうかしら?」

「うん、素敵」

「じゃあ、あとはアクセサリーと…」


(まだ続くんだ…)


 ダリアは内心そう思ったが、今日はリリアンヌの好きなようにさせておこうと思った。


 そして茶会当日。ダリアはリリアンヌとメイドの手によって着飾ってもらい、城へと向かった。

 到着すると、迎えの騎士が立っていた。


「ダリア・バッケン子爵令嬢でございますね?こちらにどうぞ」

「はい」


(そうか…あの人な訳ないわよね)


 こうして考えてみると、入城時は必ずブレーデンが付き添ってくれていた事を思い出す。


(もう、お母様のせいで変に意識しちゃうわ)


 ダリアは軽く頭を振って雑念を取り払い、エマリエルが待つ部屋へ向かった。


 付き添いの騎士が扉をノックすると、エマリエル付きのメイドが出てきた。


「ダリア・バッケン子爵令嬢が来られました」

「かしこまりました」


 一度扉が閉まり、どうやら本人から了承を得たらしいメイドが再び扉を開けて、ダリアは入室した。


 窓際に茶会の支度が整えられたテーブルが置かれ、その席にエマリエルが静かに腰掛けている事に気付く。

 ダリアはカテーシーを見せた。勿論リーズリー式だ。


『本日はお招きいただきありがとうございます。グラムバッケン子爵が娘、ダリア・バッケンです』

『こちらこそわざわざ来て頂いてありがとう。あなたとは一度話してみたかったの。さあ座って』


 相変わらず表情から感情を読み取ることはできない。だがきっと本当にそう思ってくれていたのだろうと思いながら、ダリアはエマリエルと向かい合う様に座った。


『あなた、歳はいくつ?』

『18になります』

『あら、近いと思っていたけど、私と同じなのね。

 リーズリー国に住まれていた時期はあるのかしら』

『いえ。ただ一年に一度、一か月ほどリーズリー国で過ごすことはあります』

『そうなのね。ずいぶんとリーズリー語が堪能でらっしゃるから』

『このリーズリー語は母から教えてもらったものです』

『そう…あなたのリーズリー語は本当に美しいわ。きっとお母様も、その様にお話しされるのでしょうね』


 ダリアは嬉しくて思わず笑みが溢れる。


『こちらに来て半月が経ちましたが、いかがですか』

『とても良くしてもらっているわ。

 周りの方達が私達の国の事を学んでくれているから、戸惑いが殆どなくて思っていたよりも快適に過ごさせてもらっているの。

 あなた達が正しく伝えて下さったからね』

『それは良かったです。ただ私達は殿下からご指示を頂いて、指導させて頂いただけの事。全て殿下のお気遣いの賜物です』

『…そうね』


 わずかにエマリエルの声が沈んだ事にダリアは気付く。やはりジョシュアの話になると、エマリエルは一歩引いてしまう様だ。


 ジョシュアの話を無理に入れない方がいいと判断したダリアは、その後は他愛のない話に花を咲かせ、穏やかな時間を過ごした。


『今日はありがとう。とても楽しかったわ』

『私もです』

『また呼んでもいいかしら』

『勿論です。お待ちしております』


 そしてあっという間に茶会は終了した。

 エマリエルの部屋を出て、ダリアはほっと息をつく。


(何だか普通に会話を楽しんでしまったわ。

 想像していたよりも…気さくな方だった)


 表情が豊かな訳ではない、声を出してよく笑うという訳でもないが、穏やかに流れる小川の様な口調で、とても心地の良い時間を過ごせた。


(殿下が懐疑的になるのも分かるわ。理由もなしに距離を置くような方には見えないもの)


 ダリアはますます分からなくなる。

 エマリエルはなぜジョシュアだけを避けるのだろうか。


 それからまもなく再びダリアは茶会に誘われた。

 そこでダリアは前回の会話で少し話題になった、ノルヴェイン国のお菓子を持っていく事にした。


 エマリエルの部屋に入室すると、覚えのある香りを感じた。


『ご機嫌様、ダリア』

『本日もお招きありがとうございます。この香り…カルダモンティーですか?』

『ええ、持参してきたの』


 カルダモンティーはリーズリー国では良く飲まれている紅茶だ。カルダモンの少し爽やかでスパイシーな香りが広がり、一口含めばすっきりとした後味で、ダリアも好んでよく飲んでいる。


 ダリアがカルダモンティーの香りに気づいてくれたことが嬉しかったのか、リリアンヌは口角を少し上げて言った。


『数あるものの中でも、一番私が気に入ってるものなの』

『それは楽しみですわ。実は私も、前回の茶会でお話しさせて頂いたお菓子を持って参りました』

『もしかして色々なフィリングがサンドされているというクッキー?

 嬉しいわ。気になっていたの』


 二人は楽しげに席につき、お茶とお菓子が運ばれてくるのを待つ。

 最近あった事をそれぞれ話していたら、ガチャン!という音が部屋に響いた。驚いて目を向けると、お茶を淹れていたメイドが、誤ってポットを落としたのが分かった。


「大丈夫!?」


 ダリアは一瞬、誰が言ったのか分からなかった。今聞こえたのは、間違いなくノルヴェイン語だ。


 だがそのメイドを案じた声を出した人物は、美しいプラチナブロンドの髪を靡かせてメイドに駆け寄った。


「申し訳ございません…せっかくのカルダモンティーが」

「いいのよ。多めに持ってきているし、無くなったらまた持ってきて貰えばいいのだから。

 それよりも怪我はない?」


 目の前の光景と、耳に届くノルヴェイン語が結び付かず、ダリアは混乱した。


 その視線に気付いたのか、エマリエルがハッとした表情を浮かべ、口元を押さえた。

 そしてダリアを見て、はっきりとしたノルヴェイン語でエマリエルは言った。


「…誰にも、言わないでくれる?」




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