Ep:87 意味
目の前が明るくなり、訓練場の床が目に映る。
「ハァ…!ハァ…!」
僕とエルは肩で息をする。やっぱり時間は経っていない。目の痛みもそうだけど、あの空間は何か君の悪いものがある。
「どうしたんだい?」
剣聖様は僕に声を掛け、背に手を置いてくれる。
「何かしたんですか…?」
僕は呟く。それは、独り言でもあり、質問でもあった。
「何の事だか分からないが、兎に角顔色が悪い。一度休んだ方が良いだろう」
そう言われ、僕達は一旦部屋に戻った。
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段階が上がったと思われる日の翌日。小さな会議室に入って来たダギル大尉は、先に居た僕に聞く。
「話って何だ?」
「…何も言われずに来たんだ…どうでも良い事だったら許さない…」
アオイが便乗して言う。
「昨日、前に段階が上がった時と、同じ様な事が起こった…」
「それは本当か!?」
「うん、それで気付いた事があって…」
「それで呼び出したって事か」
僕は頷く。
「…なら、あの剣聖とやらも呼べば良かったんじゃ無いのか…?」
「その理由も、今から説明する。まずは、前に段階が上がった時の事を説明します。それが起こったのが、叙任式の日。王様の激励を受けている時になった」
ダギル大尉も、エルも、一色姉弟も、僕の話を真剣に聞いてくれている。
「そして今回、今度は剣聖様と話している時に起こった…最初は何でと思ったけど、一つだけ共通点を見つけました」
「それが今回の鍵だと?」
アカネの質問に僕は頷きで答える。
「その共通点が、目を合わせていた事」
「ちょっと待て。剣聖様の時は分かるが、叙任式の時は跪いていた筈じゃないのか?」
ダギル大尉は尤もな質問をする。でも、ちゃんとそれにも意味がある…
「あの時、僕とエルは一瞬だけ顔を上げたんです。王様の言葉に驚いて…」
「一瞬でも目を合わせれば段階が上がるだと…?馬鹿馬鹿しい…」
「ちょっとアオイ…!」
確かにそうだ…それだけがまだ分からない…
「確かにそれは分からない…でも、確かに共通点はあったんだ。だから――」
「一つ忘れていないか…?団長はあの戦いの直前、この国の王が敵かも知れないと言った…国王が敵なら、剣聖だって敵の可能性だって有り得る」
「それは…!」
「無いとは言い切れない…陛下が敵の可能性が高ければ高い程、剣聖様も敵の確率も高くなる…」
ダギル大尉は、僕の言葉を遮って言う。
「…剣聖は今どこに居る…?」
「恐らく御自分の屋敷だろう。だからって、乗り込むとかは言うなよ…?ちゃんと調べてからじゃないと違法になる。それにもし間違っていたら取り返しが付かない。団長が遺したこの団を、そんな事で潰す訳なには行かない」
アオイはその返事に少し黙る。
「……分かっている…」
アオイはそう言うと席を立ち、そのまま出て行ってしまった。
「あ…」
エルは引き留めようとして手を伸ばしたけど、間に合わなかった。
「放っといて下さい。ああ見えて、物事の順序は間違えませんから」
アカネは、エルに対してそう言った。
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アオイは会議室を出た後、そのまま資料室へと向かった。そこは、アードラーが謎の女と戦い、敗北した場所。アオイは、アードラーが落ちた窓のすぐ目の前の棚から、一冊の本を抜き取った。
「騎士団の成り立ち…」
背表紙、及び表紙に書いてある題名を、アオイは呟く。そして、目次を開いた。
「…!やはりか…!」
目次には、ストゥール王国に存在する騎士団が、幾つも書き連ねられている。その一番最初に、碧竜騎士団の名があった。
「Emerald…dragon…」
アードラーは窓から落ちる間際に、この本を見ていた。そして、女の正体に気付いたアードラーは、メッセージを残そうとして息絶えた…




