Ep:85 慢心
ヘルツは自分の手にある札を机の上に投げ出して言う。
「フラッシュだ」
対するクロウヴは、その手札に嬉々として自分の手札を見せて言った。
「ざんね~ん!」
そう言って出された札は、♣の4~8のストレートフラッシュだった。
「また負けか…」
「これで俺の42戦34勝6敗2分っすね!」
ヘルツは、そのフードの下で唇を噛みながら銀貨を親指で弾いてクロウヴに渡す。騒がしい酒場の一角で、トイフェルの部下であるヘルツとクロウヴはポーカーの賭けに勤しんでいた。
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剣聖様は木剣を握り、しっかりと構える。
「剣の基本は構えだ。構えがしっかりしていないと、剣筋が安定しない。かと言って、構えばかりに集中して敵を見ないのもいけない」
そう言うと剣聖様は頷き、目の前に居る僕とエルに目線を送る。それを合図に、僕とエルは剣聖様に肉薄する。そして、木剣で斬り込んだ。
「ふむ…剣筋は悪くない。だが、目線を剣先に向けすぎている」
剣聖様の声が聞こえた瞬間、僕の木剣は弾き飛ばされた。
「え…!?」
エルの木剣も宙を舞う。
「全く見えなかった…」
僕は剣聖様の剣筋が目で捉えられなかった事に驚き、思わず呟いてしまう。
「流石は剣聖様と言った所ですか」
「…自分の身分に物を言わせただけの一般人が…」
ダギル大尉は剣聖様を褒め、逆にアオイは悪態をつく。
「ん?何か言ったかな?」
剣聖様はアオイに問い返す。
「言っておくが、私は自分の身分に物を言わせている訳じゃ無い。私は君達と何も変わらない、只の一般人さ」
「…嘘だな」
アオイは頑なに自分の非を認めない。
「ならば、私と君で手合わせしよう。私が負ければ、私は身分に物を言わせた一般人。君が負ければ、私は自称一般人。それで良いかい?」
「…好きにしろ…」
「そう来なくては。君はそのカタナ、私はこの木剣で戦おうじゃないか。お互いに手慣れた武器の方が平等だ」
「おちょくっているのか…!?」
「いいや、本気さ」
「つくづく気に入らない…!」
そう言ってアオイは剣聖様との距離を取る。
「合図を頼めるかな、ダギル君」
「も、勿論です!」
剣聖様は視線をアオイに戻して言った。
「一つ言い忘れていた。技、魔力の使用は勿論ありだ。準備は良いかい?」
「…いつでも良いぞ…!」
「ダギル君、頼むよ」
「そ、それでは、始め!」
ダギル大尉が合図を出すと同時に、アオイがカタナの鍔を弾き跳躍する。
「宵刀流、宵闇の閃…!」
アオイは剣聖様が動くよりも早く、その眼前に現れる。そのままカタナを引き抜き、剣聖様に切り上げた。
「…貰った…」
アオイは呟く。
「その慢心が命取りになる」
剣聖様はいつの間にかアオイとの間合いを半歩離し、カタナを木剣で受ける。木剣の刃は上半分が斜めに切り取られた。
「なっ…!?」
剣聖様は、切り取られ尖った木剣の先をアオイの腹に向けて突く。アオイは咄嗟に体の正中線をずらし、ぎりぎりの所でそれを躱した。
「そう、それで良い。君の反応速度は人一倍優れている。それを上手く活用する事だね」
普段は冷静で、顔に全く出ないアオイだけど、今何を考えているかは大体分かる。アオイは少し俯いた視線を動かさず、口を半開きにし、その額には汗が伝っていた。




