Ep:83 困惑
王都を見下ろす時計塔の上に、雀色のコートを羽織った女が現れる。
「お帰り、ヘルツ」
濃紺の髪の男トイフェルは、その女に言った。
「あれ?ヘルツさん、フード取ったんですか?」
深緑色の髪の男クロウヴは聞く。
「あぁ、直すのを忘れていただけだ…」
そう言ってヘルツはフードを被り直す。
「そんな事より、アードラーは始末しました」
「あぁ、見ていたよ。よくやってくれた」
「恐縮です…」
ヘルツは少し頭を下げる。
「それよりも、死んだNo.sはどうしたんすか?」
クロウヴはヘルツに問う。
「全員顔は潰しておいた。思った以上に手間取ったが…少なくとも身元が割れる心配は無い」
「へぇ…」
クロウヴは興味が無さそうに呟く。
「第二段階を超えた所為で、IVthすら凌駕する力を手に入れた…早急に第三段階に進行させなければ…」
「また彼に頼みますか…?」
「…いや…私がやろう…それと、Xthの準備を頼む。可能であれば一気に第四段階まで進める」
「了解しました…」
そう言ってヘルツは姿を消す。
「さぁ、私達も動こうか…子供の回収には失敗したが、何…問題は無いね」
トイフェルはそう言うと、その細い目を少し開けて呟いた。
「事実上の時を統べる者…」
そして、音も無く、魔力的な痕跡を残さずして二人の男はその場を去った。
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謎の集団からの襲撃をうけてから一週間後、まだ団長が残したEmerの意味は分かっていない。只一つ分かったのは、それが書きかけだったと言う事だけ。
「Emergency、Emery、Emerson…」
ダギル大尉は考えうる可能性を呟く。ダギル大尉は、今回の活躍を買われて昇進した。僕とエル、アカネとアオイも上等兵まで昇進した。
「警告…金剛砂…人名…どれも当てはまりそうにないな…」
ダギル大尉は顎に手を当てて呟く。
「…いや…警告は辻褄が合いそうだが…?」
アオイはダギル大尉に聞く。
「俺もそう考えたんだが、死の間際に何かに注意しろと言う長文を書く筈が無い。書くんなら、もっと短く、そして分かりやすい言葉を書く筈だ…」
「…言われてみれば…」
「じゃあ、人名、エマーソンはどうですか?」
今度はアカネが聞く。
「何故あの女の名前が分かった?」
「そうですね…」
「残りは金剛砂…」
「コランダムやガーネットを粉末状にした物…あの状況下で書こうとした意味が分からない…」
「あとEmerがつく言葉…」
思いつかない…そもそも、候補に出された三つすら、僕は思いつかなかった。
「もう一週間…団長は何を伝えようとしたんだ…?」
ダギル大尉が呟く。その時、部屋の扉が叩かれる音がした。
「失礼します。残留魔力調査の結果を報告しに参りました」
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「何!?残留魔力が見つからなかった!?」
入って来た騎士の報告に、ダギル大尉は驚き、大声を出す。
「は、はい…三日前に妨害魔法が解けてから、細部まで調査したのですが…どこにも団員以外の魔力が発生した痕跡が見られませんでした…」
「どういう事だ…正面から入って来た報告は無い…かと言って瞬間移動魔法でも無い…奴らはどうやって侵入した…?」
ダギル大尉含め、元から部屋に居た僕達五人は、考え込み沈黙した。




