Ep:79 深緑
IVthの男は、鮮血が噴き出す切断された手首を抑えながら、苦悶の声を出す。僕は目と痣を元に戻す。
「ぐうぅ…!流石は魔王の力…」
そう言うと、男は音も無く姿を消す。跳躍では無く、魔法的な瞬間移動でも無く、高速移動でも無い方法で男は消え去った。只確かなのは、さっきの女と同じ様に、消える寸前、何かを呟いていた事だった。
僕は剣の血を振り払い、エルの方へ振り返る。少し離れた所でエルは血の付いた剣を持ち、心臓を貫かれたIIIrdの死体を見ていた。
「エル…」
僕はエルの側に近付く。ダギル中尉やアカネとアオイも集まる。
「人を…手に掛けた…」
エルは呟く。剣を持つ手は、微かに震えていた。
「エル…仕方無――」
「エル、お前は、敵を討つ事で自分の身を…いや、俺達の事も守ってくれた。意味が無く殺した訳じゃ無い」
僕の言葉を遮る様にダギル中尉は言い、エルの頭に手を置く。
「それよりも今は団長の事だ。まだ悔やむ時間じゃ無い」
ダギル中尉はそう言うと、更に続けて言った。
「三手に分かれて団長を探せ!ライトとエル、アカネとアオイ、俺は一人で探す!良いな!」
「はッ!!」
僕達はそう返事をし、別々に行動を始める。僕とエルは、本部の建物の中へと入り探し始めた。
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襲撃を受ける銀鷲騎士団本部を、王都の時を刻む時計塔の上で眺める者が二人。一人は濃紺の髪に細目の男、トイフェル=クレアシオンである。
「主~、酷くないですか?ヘルツさんったら、戦う意思がないのなら貸せって俺の部下何人か持ってっちゃったんですよ。そりゃあまぁ、俺も良いって言った手前、そこに関しては許すとしても、折角のIVthがあの有様ですよ?」
トイフェルの隣にしゃがんで居る深緑色の短髪の男が言う。
「問題無いさ。ヘルツなら、それに見合う活躍をしてくれる筈だ」
「そんなもんですかね…」
深緑色の髪の男は、不満そうに言う。
「(戦いなんて何の意味があるんだよ…主に恩が無かったら、確実に裏切ってるぜ、俺…)」
「クロウヴ」
「へっ?はい!何でしょう!?」
「君は強い。君に足りないのは戦う意思だけだ。単純な剣術の強さなら、この国の誰よりも強いと言い切れる。何せ、剣を持った初日に、私に傷を付けたのだから」
その言葉に、クロウヴと呼ばれた男は溜め息を漏らす。
「(まぐれなんだよな~…たまたま躓いて、その拍子に剣の先が掠めて…あぁ~!何でこうなるんだよ!)」
クロウヴはその髪を掻きむしる。その時抜けた一本の髪の毛が、クロウヴの鼻の上に乗る。
「へっくしょい!!」
クロウヴは勢いよくくしゃみをする。その前のめりになった瞬間、クロウヴの背後に鳥が糞を落とす。
「ん?わあ!危ねえ!良かった~」
そう言いながらクロウヴは上を見る。その視線の先には、飛び去ろうとする鳩の姿があった。
「このッ!」
そう言いながらクロウヴは木の枝を折り、鳩に向かって投げつけた。弧を描いて飛んで行った枝は飛んでいる鳩に当たり、地上に落ちて行った。




