Ep:74 魔王
団長の執務室に向かう為、僕達は本部の廊下を歩く。途中、何人も騎士とすれ違う。執務室に近付くにつれ、階級の高い騎士が多くなって来た。
執務室に着くと、アカネがその扉を叩く。
「失礼します」
アカネが言い、執務室の扉を開ける。執務机を挟んだ奥の椅子に、アードラー団長が座って待っていた。
「第5小隊小隊長ダギル、只今馳せ参じました」
「同じく二等兵ライト、参りました」
「同じく二等兵エル、参りました」
僕達は敬礼をし、アードラー団長の前に立つ。
「急な呼び立てに応じてくれた事、感謝する。お前達を呼んだのは他でも無い。ライト、エル、お前達の事だ」
アードラー団長は真剣な眼差しで僕とエルを交互に見やる。
「先ずは第5小隊員として聞いてもらいたい事がある。ダギル、君もだ」
「はッ…!」
「そこに居る二人、一色 茜と一色 葵を、正式に第5小隊に配属する。階級こそ上だが、彼らは一応お前達の後輩だ。それは伝えておく」
団長は今度はアカネとアオイを交互に見る。
「そして、本題だ。一つ目は、お前達の事を調べていたグラマー=ミシオネルの事だ。グラマーの遺体の側に、学園の所有する魔導書が幾つも散乱していた。遺体の倒れていた場所や、下敷きになった魔導書の状況から、倒れる拍子に机の上に積んでいた魔導書にぶつかり雪崩たと考えるのが妥当だと報告を受けた」
団長は一拍置いて、言葉を続ける。
「これは起こっても可笑しくは無い。むしろ妥当だ。私が気になったのは、散乱していた魔導書に混じって、一冊だけ古文書の様な物があった。内容はこうだ」
そう言って団長は手元の書類に視線を落とす。
『その昔、飢饉に苦しむ集落があった。その集落では、とある神が信仰されていた。集落の人々は、飢えで死んだ少女をその神に捧げた』
「これがその本の一節を要約したものだ」
「まるで御伽噺や子供の読み物の様ですね…」
ダギル中尉が呟く。
「あぁ。しかし、何か引っ掛からないか?」
ダギル中尉はその言葉に黙り、考え込む。
「どこかで聞いた事があるような…」
「英雄譚」
「…!?それです!」
ダギル中尉は驚いた様に声を上げる。国の事に詳しくない僕とエル、そして一色姉弟はよく分からないまま聞いていた。
「続きを読もう」
『神はその生贄を拒んだ。やがて、神は己が身の為に他人を犠牲にする人間を嫌い始めた。そして、その心は病んでいき、悪意に蝕まれた。そうして生まれたのが世界を混沌に貶めた存在、後に魔王と呼ばれる存在、災厄の神 ディザストである…』
団長は語尾に連れて声を小さくする。
「魔王…」
「魔王…?ちょっと待って…何でかは分からないけど聞き覚えがあります…何処で…」
「私も…どこかで…」
僕は剣聖様に褒められたこの記憶を遡る。そして、ある人物を思い浮かべた。
「ヴェルインさん…!」




