Ep:71 姉弟
今回から少しの間、敵側のお話を投稿します。
豪華な装飾の施された馬車の御者が、その移動車に乗る男に言う。
「剣聖様、間もなく王都で御座います」
「了解した。そのまま屋敷まで頼むよ」
「承知しました」
そう言うと御者は、少し先に見える城壁目掛けて、馬の速度を上げた。濃紺の髪の剣聖トイフェルは、頬杖を突いて窓の外を眺めていた。
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豪華な装飾が金や銀に輝く屋敷の食堂の白いテーブルクロスの掛かった長い机で、優雅に紅茶を嗜む女が一人。そこに、しっかりとしたタキシードを身に着けた執事らしき老人がやって来た。
「お嬢様、ご令弟がお帰りになられます」
執事が女にそう言うと、女は少し動揺しながらも、落ち着きを取り戻し紅茶の入った器を皿の上に置く。
「ようやく王都から離れたと思えば、もう帰って来るのですか…?」
「はい、既に王都内に入ったと聞いております」
「兵を数名寄越して頂戴。私が出迎えるわ」
「畏まりました」
その言葉を聞き女は席を立つ。執事は女の残した食器を片し、食堂を出た。
「何を考えているの…トイフェル…」
そう呟き、女は食堂を後にした。
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トイフェルは馬車を降り、御者に礼を言う。そして、大きな鉄柵の門の中へと入って行く。石畳の道を歩き、トイフェルが屋敷の前まで着くと、扉が開かれる。
「お帰りなさい、トイフェル」
「お元気で何よりです姉上。連日の雨で帰還が遅くなりました」
トイフェルは跪き、仰々しく言う。護衛を兵を引き連れ出て来た女は数段上からトイフェルを見下す。
「二度と帰って来なくても良かったのよ…?」
「ハハッ、御冗談を」
女の渾身の嫌味を、トイフェルは一蹴する。それが気に食わず、女は下唇を噛んだ。女は兵の一人に手を伸ばし、木剣を二本受け取る。
「久々に剣の稽古はどうかしら?」
「喜んで」
女は木剣の片方をトイフェルに投げて渡す。トイフェルは軽くそれを取り言った。
「中庭に移動しましょうか」
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中庭に移動した二人は、大きな噴水の前で木剣を構え対峙する。
「貴方と剣を交えるのは何年振りかしら…?」
女は思ってもいない微笑みを浮かべて言う。
「さぁ、私も覚えていませんよ。軽く五年と言った所でしょうか――」
「四年二か月と九日よ」
「流石は姉上、覚えが良い」
「それは貴方も同じでしょう…?英雄の子孫同士、受け継がれているのは同じものよ」
トイフェルは「そうでした」とわざとらしく言う。
「まぁ良いわ、始めましょう。勝てるかしら?」
「大丈夫ですよ、姉上はお強いですから」
トイフェルは不敵な笑みを浮かべて言う。
「そう…なら安心したわ」
その瞬間、女の姿が消える。更に、瞬きよりも速く女はトイフェルの背後に現れる。女は木剣を振るう。それは、通常ならばトイフェルの首を捉えていた。しかし、相手は剣聖。トイフェルは瞬時に木剣を自分の背に移動させ、女の攻撃を防いでいた。
「くッ…!」
女は声を漏らす。トイフェルは女の木剣とぶつかっている自分の木剣を、速く、そして力強く振り上げた。その勢いで女は後ろに弾き飛ばされる。間合いを離したトイフェルは、余裕を持って振り返った。




