Ep:69 書簡
僕とエルは用件を済ませ、剣聖様の部屋を後にする。宿屋を出て、騎士団支部に戻ろうと歩いていた。
「あ、そう言えば、折角出して貰ったのに、紅茶飲まなかったね」
「そう言えばそうだね」
勿体無い事をしたなと思いながら、僕達は大通りを歩いて行った。
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濃紺の髪に細目の男トイフェルは、先程まで少年と少女の座っていた席を見つめて呆然と立っていた。あるのは、机の上の紅茶だけ。
「……」
ふと我に返ったように唐突に動くと、トイフェルは机の上の紅茶の入った器を持ち、台所に向かう。その水面は、どういう訳かほんの少しも動かない。
バシャッ…!
トイフェルは器を逆さにし、音を立てて紅茶が捨てられる。中身の無くなった器と何もない流し台を見つめ、トイフェルは呟いた。
「本能的に回避したか、将又運が良いだけなのか…いや、後者だ。彼の私への疑いは晴れていた…」
トイフェルは、その後暫く虚無を見つめていた。
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「只今戻りました」
僕は支部の建物に入り、ダギル中尉を見つけて言う。
「おお、戻ったか。剣聖様は何と仰っていた?」
僕とエルはダギル中尉に剣聖様が言っていた事を伝えた。
「まぁ、幾ら剣聖様でもそう考えるか…」
ダギル中尉は顎に手を当てて考え込む。
「あの…」
すると突然、エルが口を開いた。
「どうした?」
「あの二人、私達の事知ってたと思うんです」
「どういう事だ…!?」
「私達を見て、例の子供って言ってたんです」
「それは本当か…!?そうなると、あの屋敷で何かを探していた事にも合点がいく…」
「僕達が関わった事のある場所だからですか?」
ダギル中尉は、僕の質問に頷いて返す。
「この事は、念の為迅速に王都の本部へと報告する。団長から返事が来るのは一週間前後後になるだろうが、早いに越した事は無い」
「お願いします…!」
僕とエルは、同時に言った。
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剣聖様に報告してから二週間が経った。団長からの返事は今だ来ていない。書簡を出してからの一週間、ずっと大雨が降っていた所為なのか。それとも、もっと重要な事が起こって、時間をそっちに割いていたからなのか。何にせよ、今日も昼だと言うのに薄暗く、今にも雨が降り出しそうな天気の中、僕達は業務に励んでいた。




