Ep:35 流派
構えられた木剣の剣先が相手の方を向いている。
「行くぞ!ライト!」
「望むところ!」
その瞬間、ブルートさんは駆けた。そして僕の前まで来ると、掛け声と共に木剣を振った。
「おりゃあッ!」
遅い…!ヴェルインさんはもっと速かった…!僕は容易くその攻撃を止める。
「成程…!もっと行けるって訳か!」
ブルートさんはそう言って一旦飛び退く。その寸前に振り出した僕の木剣は、ブルートさんの鼻先を掠めた。
「ッ…!惜しかったな。結構やるじゃねえか」
「ヴェルインさんに下っ端の兵士なら余裕で倒せるって言われた」
「ヴェルイン…お前の師匠ねぇ…生憎、俺は下っ端の兵士じゃないんでね!」
そう言うとブルートさんは何処からかもう一本木剣を取り出した。ブルートさんは僕に向かって駆けて来る。
「おらあッ!!」
声と共に、両手に握られた二本の木剣が同時に振られる。僕は一本の木剣で両方を防ぐ。よし、防ぎ切った…!そう思った瞬間、ブルートさんの持っている内の、片方の木剣の力が一気に緩んだ。
「おらよッ!」
僕の木剣から離れ、体に目掛けて振られた木剣は、がら空きの胴に向かって来る。これはあくまで剣術の訓練…だけど…!
「なっ!?ぐわぁっ!」
僕は跳び上がり、ブルートさんのお腹に目掛けて蹴りを放った。振られていた木剣ごとブルートさんは吹っ飛ぶ。
「ゲホッ…!ゲホッ…!蹴りかよ…」
ブルートさんが起き上がりながら言う。
「お前…!――」
「良くやったな!ここに居る中じゃ、あれを破ったのはお前だけだぜ!」
驚いた…反則だって怒られると思ってた…
「ここの訓練は大体何しても許されるんだ。勿論、大怪我させたら問題になるし、殺しは論外だけどよ。蹴りだろうが二刀流だろうが、自分が強くなれるならそれでいい。そんな感じなんだ」
ブルートさんは淡々と語る。
「それにしてもお前、そのヴェルインさんとか言う師匠から教わったのって基礎だけなんだろ?それにしちゃ型が整い過ぎてる。他に王都剣聖流を教わった相手は居ないのか?」
「王都剣聖流…?」
「何だお前…!?流派の名前も知らずに教わってたのか!」
僕は頷く。
「へぇ…珍しいな…分かった、説明してやるよ。簡単に言えば王都剣聖流はその名の通り、剣聖と呼ばれた人が、自分の作った剣の型を一般兵でも扱いやすくした流派だ。まぁ、俺もそれくらいしか分らねえけどな」
そう言ってブルートさんはもう一回木剣を構えた。
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同時刻。豪華な造りの執務室に二人の人間が居た。肩まで伸ばした茶色い髪の女、アードラー=スィルヴァは、執務机に座る銀色の長髪の男に言う。
「あの子供と手合わせしたところ、やはり力を制御できている様です。この私が一撃で弾き飛ばされました。想像以上の力を引き出せている様です」
「ふむ…引き続き監視をしておいてくれ」
「はッ…!」
スィルヴァは執務室を出て行く。
「ライト…我々の求める力…」
男は誰も居ない空間に向けて呟いた。




