Ep:24 犠牲 *
ヘルハウンドの襲撃から暫くすると、ようやく外が静かになった。
「終わったか……念の為確認を頼む」
「はっ!」
ダギルさんの命令で騎士の一人が天幕の外を確認する。
その瞬間、一匹のヘルハウンドが飛び込んで来て騎士の人の頭を噛み千切った。
更にその後ろにも何匹もヘルハウンドが並んでいた。
「どういう事だ! 他の者達は――っ?!」
ダギルさんが目を見開く。
視線の先には他の騎士達が倒れていた。一部の騎士は四肢を千切られ、何処へ行ったのかも分からない物もあった。
「総員! 突撃開始!!」
ダギルさんの号令で、雄叫びを上げた騎士達がヘルハウンドに肉薄する。
騎士達が振るった剣は、ヘルハウンドの胴を切り裂き弾き飛ばす。
「キャン!」
ヘルハウンドの甲高い鳴き声。
弾き飛ばされたヘルハウンドは、地面に叩きつけられる。だけど次の瞬間ヘルハウンドの切り裂かれた傷が塞がり、再び立ち上がった。
「何が起こっている……!? ヘルハウンドに再生能力は……」
ダギルさんは立ち尽くしている。
「ダギル中尉! 何者かによって魔法的な治癒がされています!」
「そんな事は分かっている!!」
戦闘中の騎士の言葉をダギルさんは一括する。
「僕が戦う!」
このままじゃエルにも危害が及ぶ……だったら戦わない手は無い……!
僕は剣を拾ってヘルハウンドの方へと走る。
「おい! 無茶だ!」
ダギルさんの制止を無視して僕は騎士に飛び掛かるヘルハウンドに斬り込む。
「ガァルルッ!!」
僕の隙を突いたヘルハウンドが噛み付きに来る。
その瞬間、僕の首の痣が勝手に移動してヘルハウンドの牙を受け止めた。
僕の腕に噛み付いたヘルハウンドの、容易く騎士の兜を噛み砕いた牙が折れて飛ぶ。
その隙にそのヘルハウンドを切り伏せた。
「何なんだ……?」
ダギルさんが折れた牙を拾いながら言う。
「俺はお前の力を見くびっていた様だ……俺も戦わなければな……倒れていった者達に顔向けが出来ない」
ダギルさんはそう言って剣を抜く。
その剣は他の騎士の物よりも強い輝きを発していた。ダギル中尉はその刃に魔力を流した。
すると、刃が黄色い光を纏った。
「死ね! 野良犬ども!!」
ダギルさんはその剣を横に薙いだ。僕と他の騎士達は慌てて飛び退く。
稲妻の軌跡が、十数体のヘルハウンドを薙ぎ払う。傷を負わせてもすぐに回復してしまうヘルハウンドを、ダギルさんは一撃で黒焦げにした。
「元より俺が相手取っていれば仲間達が倒れる事は無かった……中級モンスターだと侮っていた、不覚だ……!」
そう言ってダギルさんは剣を地面に突き立て、片膝を着いた。
銀鷲騎士団の野営地を見下ろせる丘に、二つの人影があった。
「へぇ、あの量の犬を一撃、か……大した事では無いけれど……」
そう言ったのは濃紺の髪をした男。瞳の見えない糸目で確かにその場の状況を読み取っていた。
「流石は魔王の力、と言った所でしょうか……?」
傍らに居た雀色のフードの人物が、凛々しく透き通る女の声で言う。
「いや、あれは魔王の力では無い……粗方、魔鋼の剣に魔力を流した程度だろう」
「私とした事が、不覚でした」
フードの女は男に向かって跪く。
「体の内から焼かれたら再生のしようが無い。子供の回収は後にしよう」
そう言って男は黒く揺らめき、陽炎の様に消え去った。
フードの女は、男が去った後も俯いて跪いていた。




