Ep:114 暗器
屋敷の最も高い階層の一室から、煙の上がる屋敷の一角を見下ろすトイフェルの元にヘルツが現れる。
「我が主、屋敷の南東部が一部焼けました」
「あぁ、見えている。これはまた随分とやられたものだね…」
「申し訳ございません。スペードのVthの術が破られました」
「いや、何ら問題は無いさ。彼らを屋敷に入れさせさえすれば対処はどうにでもなる。それより、例の物を一本持ってきてくれ。それと紙を何十枚か」
「畏まりました」
そう言うとヘルツは一瞬で消える。トイフェルは再び窓に頬杖を突き、外を見下ろす。そこに、消化された後に残った火の粉が風に乗ってやってくる。火の粉はトイフェルの頬に小さな火傷を作る。
「ん…」
トイフェルは頬の火傷を親指で撫でる。親指が退くと、小さな火傷は跡形も無く消え去っていた。
「そろそろ第13大隊も突入して来るかな…?」
トイフェルは門の外に集まりつつある騎士を見て呟いた。
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「そっちはどうだった?」
ダギルは一人一人分かれ周囲を捜索していたアカネとアオイと合流し聞く。
「こちらは問題ありませんでした」
「こっちも異常は無かった…」
「そうか。俺も特に情報は無いな…」
ダギルは呟く。
「分かっているな?俺達の目的はエルの救助だ。敵の殲滅じゃない。それは第13大隊がやってくれる」
「無論だ…何度も言う必要は無い…」
「ですが、肝心の情報が全く無いのでは話になりません…」
アカネは少し俯いて言う。その時、廊下の奥から誰かの歩いて来る足音が聞こえた。
「誰だ!?」
ダギルは即座に振り返る。
「あ、見つかったすか?」
「男…?」
ダギル達の視線の先には、深緑色の髪の男が立って居た。
「だから屋敷の中は薄暗い方が良いって言ったのに…」
「貴様、何者だ!」
アカネは男に向かって言う。溜め息を吐き俯いていた男は顔を上げ、頭を掻きながら言った。
「俺はクロウヴっす。え~と…クローバーの暗示で、No.sを束ねる内の一人っす」
「No.s…?」
「え~とほら、居たじゃないですか、Istとかって。あれっすよ」
「そのNo.sを束ねているのであれば、かなりの手練れですね…!?」
そう言ってアカネはカタナに手を掛ける。
「ちょ、ちょっと待って!俺に戦う気は無いっすよ!ここに居たのだってたまたまで…!」
クロウヴは慌てた様に手を振る。しかし、アオイはそれを見て言った。
「気に入らないな…その飄々として態度…!現に――」
アオイはカタナを抜き振る。金属音が響き、何かが弾き飛ばされた。
「なっ…!?いつの間に…!?」
ダギルは弾き飛ばされ落ちた物を見て驚く。
「投擲型の暗器ですか…葵が気付かなければ死んでいたでしょうね…」
「ハァ…戦う気が無かったからさっさと終わらせようと思ったのに、これじゃあ本末転倒っすよ…」
クロウヴは溜め息を吐いて言った。




