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第三章⑱【羅馬三十六景】~ローマ人の胃袋~

049_第三章⑱【羅馬三十六景】~ローマ人の胃袋~


「北斎、羅馬(ローマ)三十六景もそろそろ終わる。」


「そうだねぇ。そろそろ終わるねぇ。俺ぁ、そろそろアトランティスが恋しくなってきた。」


俺たちはいつもの宿の部屋でこれまでの絵を眺めていた。出会った人に渡していたはずの絵もここにある。北斎が出会った人を忘れないようにと後からもう一枚書いていたらしい。


「そろそろ帰るか?」


「あと五景。最後の二枚は描きてぇものがある。あと三景だねえ。それが終わったら帰ろう。アトランティスでやりてぇこと、描けきてぇものもまだまだあるしねぇ。」


「行ってみたい所があるんだ。北斎付き合ってくれるか?」


「がってんしょうちのくらのすけ!」


♢♢♢♢♢♢


【オスティア港跡地】


「……。野原だ。」

「野原だな。」

「港じゃなかったのか?」

「ああ、港だった。」

「野原だねぇ。」

「野原だ。」


そこは「陸地」になっていた。何故陸地になったのか。心当たりがある。オスティア港にはテヴェレ川から運ばれた泥がたまる(堆積)俺の時代にも港の水位を維持する工事が一年中行われていた。


「北斎!確かあっちの方に人口港があったはずだ!行ってみようぜ。」


【ボルトゥス】


「沼だ。」

「沼だな。」

「港じゃなかったのか?」

「ああ、六角形のでっかい港だった。」

「沼だねぇ。」

「完全に沼だ。」


ローマの技術の粋を集めて作られたはずの人工港が六角形の沼になっていた。


あちらの方では貴族が鴨狩りを楽しんでいる。」

グランドツアーの貴族だろうか?大声のポエムが聞こえてきた。


「かつての繁栄も今や沼。鴨が優雅に泳いでおります。」


北斎がそれにつられて俳句?

「鴨鍋や。ああ鴨鍋や。鴨鍋や。」


俺は現実逃避するように呟いてしまった。

「ぶつぶつ。鴨串、1本100アトってところだな……。」


頭の中で俺は子供の頃を思い出していたんだがな。

港には危ないから近寄らせては貰えなかったけれど……。

港からテヴェレ川へ荷下ろし場へと向かうたくさんの小麦を乗せた船。商人たちの活気のある声を覚えている。


「俺の時代は栄えていた……。ローマっ子の胃袋はこの港に支えられていたんだ。エジプトナイル川の方から小麦が運ばれて来てて……。」


「へ?港が埋まっちまったらフォカッチャが……。食べられ……。なく。」


さらさら。かもかも。

さらさら。かもかも。


【北斎鴨鍋欲図(ほくさいかもなべたべたい)】


「北斎、頼みがある。俺は生前にはこの港には入った事がないんだよ。俺にオスティア港を見せてくれないか?」


「がってんしょうちのぐれんのすけ!記録再生!オスティア港かかってきやがれってんだい!」


【オスティア港・記録再生】


石(ローマンコンクリート)で積まれた外壁。

海底の泥を汲み出す工事。

職人達の姿。職人達の声。


「おーい!そっちの泥が深い!人を集めるから掻き出すぞ!これじゃ船が着けねぇ!」


商人達のざわめき。穀物以外の商談をしているようだ。


たくさんの船が行き交い、六角形の辺に横付けされた大型船。

大型船から荷が降ろされ中型船に積み替えられて川へと向かっていく。


港の高床式の集荷場(ホレア)には小麦が積んであり、品質確認の担当者が走り回る。ここは厳重に警備されていてローマ市内へと運ばれる穀物の量を調整している。


「……アンノナ。」

「へ?餡の名?」

「北斎、なんでもない、独り言だ。」


別の船には大理石が積み上げられていて木製のクレーンが待機している。


「北斎、あの大理石はサン・ピエトロ大聖堂やパンテオンで使われてる物だよ。」


「どこから運ばれてくるんでぃ?」


「俺も良くは知らないが……穀物や

他の品物、ありとあらゆる物がアフリカ北部から運ばれてんじゃなかったかな……。詳しくなくてすまんな。」


あちらの船からはアフリカ象とライオンがエジプトの商人により運び出されている。


「おお!動物だーーー!コロッセオで見た熊みてぇなもんか?」


「そうだな。コロッセオの猛獣狩りに使われるんだろう。」


「えへへ!グレン!聞いて驚け!俺ぁも象は描いたことあるぜぃ!本物は見たこと無いけど……。ぐすん。」


「今、見れたんだからいいじゃねぇか?能力使ったかもしれんが目の前にいるみたいだろ?」


さらさら。どしん。

さらさら。のしのし。


【象拝見北斎歓喜図(ぞうみるほくさいうれしい)】


「北斎、ちょっと待ってろ。アレが使えるかもしれない。」


ごそごそ。俺はアイテムボックスをあさる。


「あった。嫌だが、嫌なんだが北斎……手を繋いでくれ……嫌なんだがな!アイテムが一つしかねぇ……。」


「うへへー登戸以来だねぇ!うへへーうへへー。」


「いいから手を繋げ!行くぞ!」


俺と北斎の体がフワリと浮かぶ。


「うわぁあ!なんでぇ!浮いてる!!」


「浮遊の魔道具だ。」


数百メートルは上昇しただろうか?眼下に広がっていたのは……。


【オスティア全景】


外海と隔てる、外壁。

内側に六角形の港。

河口には赤れんがの建物や倉庫が建ち並び、小道が張り巡らされている。

人々と馬車が行き交っている。

港には荒波を超えてアフリカからやってきた巨大な貨物船。

水路には中型、小型船がひっきりなしに行き交っている。


「すげぇ!街じゃねぇか!」


「オスティアの街だ。な……。北斎、この魔道具はそんなに持続しない。降りるぞ。」


「……。へ、へぃ……。」


名残惜しいのはわかるけどな。北斎の能力だってそんなに長くはもたないだろう。


地上に降りた俺たちは、沼と野原に戻ったオスティアを眺めていた。


「トラットリアの宿に帰ろうか?」


「ちょっと待ってくれぃ!忘れねぇうちに描くぜい!」


さらさら。さらさら。

どーん。でっけぇ。

さらさら。さらさら。

どーん。でっけぇ。


「出来たぜぃ!」


【オ素丁亜全景図(オスティアぜんけい)】



────────────────


【羅馬三十六景】


三十二景 【北斎鴨鍋欲図(ほくさいかもなべたべたい)】

三十三景 【象拝見北斎歓喜図(ぞうみるほくさいうれしい)】

三十四景 【オ素丁亜全景図(オスティアぜんけい)】


────────────────


次回~旅の思い出~へ続く。



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