第三章⑮【羅馬三十六景】~カラカラ浴場と江戸の湯屋~
046_第三章⑮【羅馬三十六景】~カラカラ浴場と江戸の湯屋~
「次何処へ行こうか?」
「そうだねぇ。グレン、テルマエに行ってみてぇ!!」
「……テルマエか。今は遺跡しか無いぞ?」
「ほんとうかぁ?俺ぁが風呂好きなのを知ってて隠して意地悪してるんじゃねぇのか?でっけぇ浴場があるんだろ?楽しみだねぇ!」
「……はぁぁ。聞いてないな。まぁ久しぶりに行くか。」
カラカラ浴場まではコロッセオ前から乗り合い馬車が出ていた。
「カラカラ浴場行きの馬車が出ますよー!最終便です。」
午後3時過ぎ、コロッセオ広場の出店でフォカッチャとレモネードを買って急いで馬車に乗り込んだ。
郊外へ行くにつれ少しずつ風景が変わる。
「むしゃむしゃ。ごっくん。フォカッチャうめぇ!家が少なくなってきたなぁ。これは葡萄畑か?」
実がつき始めた緑色の葡萄がキラキラと宝石の様に輝いている。
「ふぇぇ!これが葡萄酒になるのか。」
この辺りはあまり変わってないな。俺の家はこの先にあったはず……若くして家を出て騎士団に入った俺はあまり覚えてはいない。
葡萄畑の村で何人かが降りて荷を積み込んだ。早摘みの葡萄だ。
ここで、一時間ほどの休憩。
北斎と畑を見て回る。
葡萄畑を出てしばらく進むと城壁が見えてきた。
「あれがカラカラ浴場だよ。」
「へ?」
「カラカラ浴場だ。」
「ん?レンガの城壁しか見えねぇ。中にはあるんだろ?湯屋が!!」
「ないよ。だから遺跡だってぱ。」
北斎の肩が地面に着きそうなぐらいにガックリ落ちている(笑)
「お客さん着きましたよー。これから遺跡を見に行くんでしょ?暗くなると危険ですからあちらの宿に一泊なさってから明日行かれると良いですよ。帰りの馬車もありませんし。」
そこにはポツンと一軒家の宿屋があった。二階建ての小さな宿。
♢♢♢♢♢♢♢
【カラカラ浴場の宿・カラ屋】
「お客さん泊まりかい?一人一泊二食で20バイオッコ。前金だよ。」
「ここはアレだろ?浴場の近くなんだろぉ?風呂はあるか?風呂!風呂!」
……北斎さん?あるわけないでしょうが!
「は?あるわけないだろ?湯を使いたいなら、外に湯沸かし場とタライがあるから勝手に使ってくれ。部屋は一階のそこだ。」
店主が指差した先にはボロボロの木戸があった。部屋の中には二つのベットの木枠。それだけ。
「グレン……布団がねぇ……。」
「あるよ。」
俺はアイテムボックスから布団を2組取り出した。
「俺ぁの!万年床!!!!」
北斎には内緒でクリーンの術式刻んであるがな(笑)
俺たちは部屋を整えると湯沸かし場へと向かった。
薪、薪、釜、薪、薪、そしてタライ!
「北斎、俺が薪割りをするからその釜に井戸から水を汲んで貯めておいてくれ。」
「……がってん。」
辺りが夕焼けに包まれる頃。
湯が沸いた。
湯をタライへと移し……。
おい!北斎!もう素っ裸じゃねぇか!!
「北斎!ゆっくりとゆっくりとタライに入れよ飛び込んだら湯が溢れてもったいない。」
ざっぽーん!
「……グレン。腰までも湯がきてないんだけど……。」
ギチギチにタライに挟まってる北斎。
「ギャハハハハ!俺が絵描きだったらその北斎の絵を描いてるわ!」
「でもねぇ、グレンが割った薪で沸かした湯ねぇ。おつだねぇ!」
夕暮れに染まるカラカラ浴場を眺めながら俺たちは語り合った。
カラカラ浴場の上の空には一番星が輝いていた。
♢♢♢♢♢♢
【カラカラ浴場と江戸の湯屋】
「グレン、江戸には湯屋がアチコチにあったんでぃ……。俺ぁ毎日通ってたぜぃ。」
「テルマエもな、市民の憩いの場だったよ……。」
「行きてぇなぁ。湯屋。」
「俺もあの頃のテルマエにもう一度行きたいよ。」
俺はタライの横に転がっていた石に腰かけて星空を見上げた。
「北斎、アルフレッドから英国産の高級茶葉を貰っていたんだ。紅茶飲むか?」
「うぉーーっ!紅茶!今夜はホットがいいなぁ。」
「アトランティスのフジヤマクッキーもあるぜ♪」
【空々浴場星空下】
「ぶぇっくしょん!」
「北斎、夏だからって冷めた湯に浸かってたら風邪引くぞ。そろそろ部屋に戻ろう。」
「がってん。」
♢♢♢♢♢♢
翌朝、俺たちはカラカラ浴場へと歩いていた。
「うへへへ。グレンに見せてぇもんがあるんでぃ!ちょいとそこの道の脇に座らねぇか?」
カラカラ浴場を見渡せる道の脇には木製のベンチがあった。
「うへへへへへぃ。これでぃ!」
《しん板くミあけとうろふ ゆやしんミセのづ》
「江戸の玩具だぜぃ。これを切って組み上げると湯屋の模型が出来るんだぜぇ!俺ぁが能力で作ったフィギュアがあるだろ?あんな感じでぃ!」
「これはバラして組み立てるのか?ここでは出来ないな。アイテムボックスに入れておくから、アトランティスに帰ってから一緒にやろうぜ!」
「へぃ……。」
♢♢♢【カラカラ浴場】♢♢♢
「でっけぇ!でっけぇー!これが全部湯屋なのか?」
巨大なレンガのアーチを潜ると、広大な敷地に建物の残骸があった。高い塔、城壁、アーチが点在している。あれだけ豪華だった彫刻群も壁画も水の流れも人々の歓声も「なにも」無かった。一部の残った床のモザイクタイルだけが当時の繁栄を語るのみだった。
「ん?北斎?あーこれが全部浴場だったわけではないんだ。図書館や、庭なんかもあってな、庭には出店があって大道芸人なんかも来てた。一度に1600人程も集まれたんだよ。入場料も安くてね、市民が日々の疲れを癒しにきていたんだよ。ここでは身分も貧富の差も関係が無かった。」
「へぇ!すげぇな!江戸の湯屋は多い時で入れるの20人ぐれぇだったかなぁ。でけぇ湯屋もあったけどよぉ……。こんなにでけぇの造るローマ人はやっぱりすげぇや!」
浴室があった部屋に着いた。
「北斎、記録再生出来るか?」
「がってん!がってん!ぬぉお!」
さらさら。さらさら。ほわーん。
さらさら。さらさら。ほわーん。
【空々浴場照前図】
ホワワワーン。
俺たちは湯気に包まれていた。いる?
ざわざわざわ。
ガヤガヤガヤガヤ。
♢♢♢【テルマエの記録・再生】♢♢♢
湯気が晴れていく。
明るい光が差し込む天窓。豪華な彫刻。モザイクタイルの床。獅子を象った湯口からは絶えずお湯が溢れてくる。100人程入れるだろうか?巨大な浴槽が湯気の中から現れた。
ざわざわざわ。
ガヤガヤガヤガヤ。
「これ、湯に浸かれるかねぇ?タライじゃ満足出来ねぇ!!そぅれ!」
北斎が服をポイポイ脱いで浴槽へと走り出す。
「そこの者、テルマエはゆっくりと湯を楽しむもの。焦るでない。湯は逃げはせぬ。」
凄まじいオーラを背負った誰かがそこに立っていた。
「へ?どちら様で?」
「余か?余はハドリアヌスである。」
ハドリアヌス帝様!!!
「北斎!その方は皇帝様だ!失礼の無いように!!」
「へ?グレン?湯屋では身分も貧富の差も関係ねぇんじゃねぇのか?」
「ほぅ。ホクサイ、お前はテルマエが何であるかを良く理解しておるようであるな。」
「そうでぃ?湯屋は俺ぁの命でぃ!江戸っ子のなぁ!」
「エドッコであるか。覚えたぞ。ハーッハッハ。さぁ湯に浸かれ。ここは天国であるぞ。」
「俺ぁ死んでるけどな。」
北斎……それは言っちゃダメだろ。
「ふぃぃ。極楽、極楽。」
俺と北斎と皇帝は並んで湯に浸かったのである。
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二十七景 【空々浴場星空下】
二十八景 【空々浴場照前図】
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《しん板くミあけとうろふ ゆやしんミセのづ》(新板組上灯籠 湯屋新みせの図)
「組上絵」と呼ばれる浮世絵の一種。北斎は生前数多くの組上絵を描いてますが、五枚組であること、バラバラにしてから組上げるために現存しているものはほとんどありません。
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次回~羅馬の休日再び・真実の口~へつづく。




