第三章⑥【羅馬三十六景】~チルコ・マッシモ~
037_第三章⑥【羅馬三十六景】~チルコ・マッシモ~
【チルコ・マッシモの宿】
「あら?旅人さんかい?そちらの方は見慣れない顔つきねぇ。」
女店主が北斎の顔をマジマジと眺めている。
「俺ぁの顔に何かついてるか?」
「あ、この人は他国からの旅人だ。俺が案内している。」
「あらあら、お二方もパラティーノ居残り組かしら?景色に見惚れて街に戻れなくなる旅人さんがたまにいるのよねぇ。私たちの商売になるから助かってるのだけど(笑)旦那が料理人やってるわ。夕飯食べるでしょ?予約が無かったので私たちと同じものでいいかしら?」
トリッパの煮込みとパン。
懐かしい。
「これは牛の胃袋、トリッパだな。トマトソース?塩味の煮込みしか食べたこと無かった。」
「あら?珍しいローマ人ねぇ。」
「いやな、他国にいて最近戻って来たんだ。」
「ん?よくわからないけどたくさんあるから食べてね。」
北斎は当然描いて……いねぇじゃねぇか(笑)
「うめぇ!うめぇ!女将さん!この料理うめぇ!」
食ってやがる(笑)そりゃそうか。朝から何も食べて無かったもんな。俺も食べてみるか。アトランティスでは現代のイタリア料理を食えるが……現地で食べるのはまた違うな。美味い。牛の胃袋が胃袋に染み渡る。
「いやぁ!美味かった美味かった。で、女将さん!描いていいかい?」
「え?描く?」
おい!北斎!いきなり描いていいか?ってそりゃねぇって。
「コイツは北斎って言って似顔絵描きだよ。」
「ぁあ!似顔絵描きさんね!最近、スペイン広場にも他国の画家さん達が集まって来てるわよ!描いてもらおうかしら?アンタ!アンタ!似顔絵描きさんだって!アンタも描いてもらいなよ!」
「……俺はいい。」
奥の厨房?から旦那さんの声がした。この家の力関係が見える気がするぜ……頑張れ。旦那さん。
さらさら。さらさら。
「ほい。女将さん。」
【散駒霜宿女将図】
「あら?美人に描けてるわね?!葡萄酒サービスしちゃおうかしら?♪」
「……俺の……晩酌。」
奥からまた旦那さんの声が聞こえる……。
俺は慌てて止める。
「お支払しますので葡萄酒もつけて下さい。」
「わかったわ。夕飯と朝食込みで一泊50バイオッコ。葡萄酒は10バイオッコね。部屋で飲めるようにチーズサービスするから葡萄酒を部屋へ持っていくといいわ。部屋は2階には一部屋しかないからそこを使ってね。」
♢♢♢【客室】♢♢♢
……ベッドが??二つあった!ホッとしたぜ。
ベッドが二つとサイドテーブルが一つ。窓際に小さなチェスト。その上には一輪挿しが飾ってある。掃除が行き届いた居心地良い部屋だ。
俺はガィから受け取った資料に目を通す。北斎はうめぇ!うめぇ!とチーズを頬張って葡萄酒をがぶ飲みしてやがる!
政情が不安定か。教皇軍、フランス軍。検問もあちこちで行われているんだな。市民は?普通に生活がおくれているようだ。観光客や他国の旅人も一定数は来ているそうだ。物流も人流もちゃんとあるんだな。俺が生きていた頃の建物や場所が観光地とは少し複雑な気分だよ。
「おい!北斎!チーズを口に入れたまま寝るな!窒息するぞ!」
「ぐへっ!ゲホゲホ。ぷっはーーっ。死にかけたぜぃ!もう死んでるけど。」
「寝ろ。」
「へぃ。」
翌朝、俺たちはチーズの挟みパンと水で朝食を済まし宿を後にした。
【チルコ・マッシモ】
何も無い。楕円形の空き地が広がっているだけだった。早朝だからか人影も無い。
広大な、とても広大な、チルコ・マッシモ跡地が広がっていた。
その跡地のど真ん中に俺たちは立っていた。
「北斎、ここは描く所ないんじゃないか?」
俺は北斎に目をやる。北斎の様子がおかしい。
「痛い!痛ぇえええ!頭が割れる。イタイーー!うっうっ。」
「どうした?北斎?回復薬を飲め!!」
「グォォ。いてぇいてぇ。頭が頭がァア。」
北斎が頭を抱えてうずくまっている。
「北斎!!北斎!しっかりしろ!」
北斎を虹色のオーラが包み込んでいく。北斎がすくっと立ち上がる。北斎の帽子が吹き飛び髪が逆立つ。眼光が鋭くなって辺りをギョロギョロ見渡す。
さらさら。さらさら。
「北斎!北斎!」
俺は北斎の両肩を持って力を込める。
「戻ってこい!北斎!」
辺りが一瞬暗くなる。
次の瞬間。
ぶぁっと視界が開ける。
観客席を埋め尽くす25万人の群衆。
パラッパバッパラパー
ラッパの音が響き渡る。
『うぉおおおおおおおおおおお!』
俺のすぐ横には巨大なオベリスクが聳え立ち、その回りをたくさんの神の像像が囲む。
コース沿いには周回を示す卵形やイルカ形の標識が並んでいる。
「なんだ……ここは。」
「チルコ・マッシモでぃ。チルコ・マッシモだよね?チルコ・マッシモだろ?」
北斎がケロっとした顔でこちらを見ている。
「いやね、描きてぇと思ったらこうなっちまってよぉ。」
頭をカキカキしながら舌をペロリと出す北斎。
これは幻影か?それにしては音も感触もリアルだ。俺はオベリスクにそっと触れて確かめてみる。ならば異空間へと飛ばされたのか?
ドドドドドドドド。
キキーーッ。
二頭立ての戦車が何台も一斉に走り出す。
ドドドドドドドド。
キキーーッ!キキーーッ!
『うぉおおおおおおおおおおお!いけーーー!』
「すげぇ!描くぞ!!!」
さらさら。さらさら。
「北斎、これが何かわかるか?」
俺はオベリスクを指差す。
「名前まではわかんねぇけど……。」
「ん?なんだ?」
「見えた。この景色が見えた。そしたら現れた。」
「ちょっとお前の事を鑑定していいか?」
「俺ぁを丸裸にしよってかぁ?グレンになら見せてやってもいいぜ。」
ニヤニヤしてんじゃねぇ!!!気持ち悪い!
「鑑定。」
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【葛飾北斎・スキル】
・実体化
・記録再生(グレンと共有再生)
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記録?記録再生?
俺の記憶にはない「記録」か。
再生?
実体化とは違うな。実体はないが感じる、聞こえるってことか。
俺と共有?!気持ち悪い!!
気持ち悪いが悪くないな(笑)
さらさら。さらさら。
さらさら。さらさら。
「んー群衆が多いねぇ!こりゃ時間がかかりそうでぃ。グレン!最高傑作描くからよぉ!待っててくれぃ!」
さ、ら、さ、ら
さらさら。さらさら。
「出来たぜぇ!!」
【散駒霜戦車競争図】
群衆の一人一人の表情までわかりそうな、戦車が今にも動きだしそうな。そんな絵が完成した。
「俺ぁ、夢だったんでぃ!思わねぇか?今は何にも無い場所にも人が生きていた。その人々が描けたらおもしれぇじゃねぇか?見えたらどんなにいいかって、ずっと思ってたんでぃ!!」
「見えたんだな?」
「あぁ、見えた!生きてるみてぇに動く人間と景色が全部見えたぜぃ!!」
「北斎、この景色は俺たちにしか見えてない。次に行く場所でも見えるといいな。また描いてくれよ。」
「あたぼうよ!!!」
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【チルコ・マッシモ】
古代ローマの大競技場。二頭立て、四頭立ての戦車競技が行われていた。
【羅馬三十六景】
一景 【ドワーフ羅馬鍛冶図】
二景 【羅馬牌羅呈野丘全景図】
三景 【散駒霜宿女将図】
四景 【散駒霜戦車競争図】
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次回~フォロ・ロマーノ、コロッセオ~へ続く。




