~後日談・(元)剣聖グレン(現)串肉屋台グレン~
027_~後日談・(元)剣聖グレン(現)串肉屋台グレン~
北斎が俺の部屋の隣に住んでから数ヶ月。
アイツとは新しい異世界冒険はしていない。北斎に店番を任せて俺だけが異世界へ食材を取りに行くことはあるけどな。
北斎はというと、
「おもしれぇ!おもしれぇ!すげぇ!高けぇ!」
と、中央塔のスケッチに夢中のようだ。
「なぁ、グレン、この高っけぇ建物なんだけどよ、随分古そうに見える。」
「お?流石だな北斎。パッと見わからないぐらいに保存魔法かけているらしいが。お前にはわかるのか?これはな1万年以上前に建てられたんだ。」
「いち、いち、じゅう、ひゃく、せん、まん!いちまんねんまぇええ?」
「ああ、建替えの計画はあるみたいだがな。」
「たてかえだってぇ!まだ半分も描いてねぇのに……。」
「慌てることは無いって、早くて数十年後だろうよ。」
♢♢♢♢♢♢
中央塔は天に向かって真っ直ぐに伸びている。
下層には役場や子供達の教育施設などがある。
中央塔正面入口の前には広場があり、広場を囲むように商店が立ち並んでいる。
広場にはいくつかの屋台が出ていて、グレンのお店もその1つである。
♢♢♢♢♢♢
「あのさぁ、北斎、お前ずっとそこで描いてるつもりか?」
北斎は、俺の店の前にゴザを敷いて座り片膝を立ててやがる。
「へ?ここが一番見易いからねぇ。細部をスケッチし終わったら遠目から描くからよ、寂しいだろうが少し離れるぜぃ。」
「寂しくねぇ!!!!邪魔なんだよ、店の真ん前に陣取られちゃ。」
「そのわりには客増えてねぇか?」
「葛飾北斎っていえば今ではアトランティスの有名人だからな(笑)」
葛飾北斎。
不思議な男だ。強い力を持ちながら驕ることはない。
「絵が上手くなりたい」それだけの男だ。
北斎の周りには自然と人が集まる。ライガともよくダークエルフの店に行ってるらしいがな(笑)
「おい、北斎、毎日毎日中央塔描いてていいのかよ?東鳳屋の天井絵はどうした?」
「赤が決まらねぇ……。」
「赤?」
「赤ってもよ、色んな赤があるんでぃ!朱、べんがら、色々でぃ!色だけに。」
北斎はペロリと舌を出してからニカーッと笑った。
「お茶目に笑うなって!」
「んー。決まらねぇんだ……。」
「ダ・ヴィンチさんに相談してみたらどうだ?あの人ならこの世界の顔料について詳しいと思うぜ。」
「お?あのジジィか!ちょっと行ってくる!」
北斎が慌てて画材とゴザを片付け始める。
「ちょ、ちょい待てーい!ダ・ヴィンチさんの所へ行くのか?俺もちょっと相談があるからさ、一緒に行くわ。午後になれば暇になる。店じまいまで待っててくれ。」
「嫌だ!嫌だ!直ぐに行くっ!」
俺は威嚇のオーラを放ち北斎の首根っこを掴んだ。
「お前だけに行かせるとロクなことにならねぇんだよ。待ってろ。」
♢♢♢♢♢♢
【午後・ダ・ヴィンチ邸】
「ダ・ヴィンチのジジィ!赤が決まらねぇ!!!」
「誰だ?ノックもしないで。なんだ北斎か。また何か企んでおるのか?」
間に合わなかった。俺の身体能力をしても北斎の勢いに負けた……。
「ハァハァ。北斎!ノックぐらいしやがれ!ダ・ヴィンチさん例の件の相談に来ました。北斎もいるのでちょうど良いかってね。」
「ホホホ。あの件じゃな?北斎が首を縦に振るかの?」
「おーい!ジジィ!赤だ!赤!」
「北斎、ちょっとは口の聞き方ってもんが……。」
ん?なんか、ダ・ヴィンチさん嬉しそうなんだが?
ダ・ヴィンチさんはアトランティスに永住して400年は経ってる古株だぜ……(俺のほうが古いけど)
「ほい?赤か……どれでも好きな色を使うといい。」
よいしょよいしょと奥の部屋から顔料を運んでくるダ・ヴィンチさん。
「違げぇ!違うってどれも違う……。」
「難しいのぅ……じゃったら北斎、お前が作ってみるか?」
♢♢♢北斎、錬金釜の前に立つ♢♢♢
「なんなんでぃ?この不思議な鍋は?」
「これはな、錬金術師の使う鍋じゃよ。お前もやってみるか?」
「ん?錬金術師?よくわかんねぇ。何をすればいいんだ?」
ぬぉおおーい!北斎が錬金術だと?俺もやったことないぞ?
「ここにな、赤の原料を入れる。後はイメージじゃ?」
「いめー?」
「んー、思い描くんじゃよ。どんな赤にするか。を。」
(あのーダ・ヴィンチさん、北斎に錬金術なんて……。)
(グレンよ。心配するでない。錬金術は術式が必要じゃが、この釜は改良型でイメージで素材の配合がある程度出来るのじゃよ。正確なイメージが必要じゃがな。)
「いめー?じ?いめーじ?うーんしょっと!深い赤と、光を跳ね返すような勢いのある赤と……。」
「北斎!!一種類ずつじゃ!!!」
ポンッ。
容器に入った「赤」がズラリと並んで出来た。
『出来た(のじゃ?)(のか?)』
「この男、どこまで規格外なんじゃ?ちょっと頭の中を見せてくれんかの?」
ダ・ヴィンチ恐いこと言ってねぇか?
「いいねぇ!良い色だねぇ!」
北斎が満足そうならいいか。
「北斎、ちょっと聞いてくれ。ダ・ヴィンチ記念館の横にお前の美術館建設の話があってな。ダ・ヴィンチさんが推薦して直ぐに決まったんだが……。」
「そうじゃ!そうじゃ!お前の作品を眠らせとくのはもったいないかの。」
「……嫌だぜ。俺ぁ、まだ描いていてぇんだよ。そんな話は俺が死んでからにしてくんねぇか?」
「死ぬ……だって?お前不死になるつもり無いのか?」
「無いぜ!描ききったら輪廻へ戻るつもりでぃ!何年先になるかはわからねぇが。」
「残念じゃが、それで良かろうて。それまでたくさん遊ぶとするかの?なぁ北斎よ。」
……いつか、北斎がいなくなる。
想像も出来ねぇがそうなんだろうな。
俺が不死になって千年以上経ってる。たくさんの人間を迎え入れ送り出してきた。
それでも寂しいもんだな。
「グレン?なんか暗い顔してねぇか?お?その顔も良い男だね!描いていいか?」
「……ったく。好きにしろ。」
北斎との時間はもうしばらくは続くだろう。
また機会があれば話すかもしれねぇがな。
それまで串肉でも食って待ってな。
俺は元剣聖、今はただの串肉屋台のおやじだ。
~新章【剣聖グレン物語】~
【葛飾北斎が剣聖グレンを描く!】へ続く。




