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33話 先に見つけてやる

 



 国の栄華を主張する豪華絢爛な広大なパーティー会場に集まる帝国貴族達の視線は、アナウンスと共に入場した皇族の面々へ一斉に向けられる。皇帝リーンハルト、皇后ビアトリス、皇太子アルドルの順に先ずは入り。次に皇弟オルドー、先帝の弟フィデスが続いた。特にオルドーに向けられる視線の色には、先帝への敬意も込められていた。名君と言われた先帝と同じ黄金の髪を持つ皇族はオルドーしかいない。次期皇帝はアルドルという認識は強く広まっているも、一部の派閥はオルドーを次期皇帝の座に担ぎ上げたいと目論む。無駄な後継者争いが起きないようフィデスが引取り、大教会の次期司祭として育てている最中だというのに。小声で帰宅の希望をぼやくオルドーを叱責したフィデスも小声だった。


 定められた位置に着くと早速リーンハルトが声を上げた。



「長話は性に合わんのでな。皆、今宵の宴を思う存分楽しんでくれ」



 この一声によって会場中が沸き上がった。


 楽団の演奏が始まると筆頭公爵家からリーンハルトへ祝言を述べる。

 会場前で起きた騒動を知る貴族達は固唾を呑んで一人皇族の前に現れたクリストファーを見つめる。ローウェル公爵家は、当主のクリストファーしかいないことに当然リーンハルトやビアトリスは怪訝な面持ちをした。



「あら? 公爵夫人達はどうしたの?」

「会場に着いてすぐにダイアナが倒れてしまい、今レティーシャとジェイドが付き添いをしております。両陛下へのご報告が遅れてしまい申し訳ありません」



 先に報告をしようにもリーンハルトやビアトリスは最後の調整をしていて忙しなく各所に指示を飛ばし、確認をしていた。ダイアナは挨拶だけでもと立ち上がろうとしたが、パーティー中に倒れては元も子もないとクリストファーが説得し、心配するレティーシャとジェイドを付き添いの為残した。残念がるビアトリスだが、パーティー中に倒れられるのは避けたいという気持ちがあり、仕方ないと諦めた。リーンハルトも同様。



「そうだったのか。ダイアナの容態はどうだ」

「現在は落ち着いているかと。もう少し様子を見た後、屋敷へ帰します。ダイアナ一人では寂しいでしょうから、レティーシャやジェイドも共に帰らせます」

「其方だけでも残ってくれるなら良い。後程、見舞いの品を手配しよう」

「ありがとうございます」



 実の息子以上に可愛がる姪の容態を心配しつつ、クリストファーがいることに満足したリーンハルトにビアトリスも同意し、サポートをするつもりでいたアルドルやフィデスはその必要がなくなり安堵する。それはクリストファーも同じ。一礼をして立ち去ると次はアリアージュ公爵家の番になった。


 アリアージュ公爵が代表としてリーンハルトへ祝言を述べ、受け取ったリーンハルトが満足げに頷いた。通常なら此処で終わるのだが……。



「ミゲル。フィービー嬢についてウェリタース侯爵家から事情を聞いている。其方も心配であろう」

「……はい」

「見舞いには行っているのか?」

「一度会いに行きました。以降は手紙のやり取りを定期的に」

「そうか。其方等は不仲だと聞いていたが心配は要らんようだな」



 どの口が言うのかと一瞬表情に出そうになったミゲルは気配を悟られる前に気持ちを切り替え、激しい憤りを覚えながらも頭を下げると公爵夫妻と共に去った。



「可能ならダイアナをミゲルの婚約者にしてやりたいところなんだがな……」

「陛下。聞かれたら拙いですわよ」

「ああ。分かっている」



 普通より耳がいいと要らぬ言葉まで拾ってしまう。一瞬立ち止まりそうになったミゲルを後ろにいた公爵夫人が押した。



「耐えなさい。此処で声を荒げてはなりません」

「っ……分かっているつもりです」



 耐えろ。耐えろ。耐えろ。

 自身を呪う様に心の中で唱え続け、紙一重の理性を保って歩き出した。

 リーンハルトの呟きをしっかりと聞いていたアルドルはこっそりと溜め息を吐き、同じく聞こえていたフィデスはやれやれと肩を竦めた。オルドーにいたっては呆れの眼を向けていたがバレそうになると即違う方を見た。


 残り二家の公爵家の祝言が終わると次はウェリタース家の番となった。



「帝国の目出度き日に同席出来たこと、心よりお喜び申し上げます」



 ゴーランドの祝言を満足げに受け取ったリーンハルトは今夜病欠したフィービーに触れた。



「フィービー嬢が欠席なのは残念だった。領地で療養中と聞いたが治る見込みは?」

「それは……」



 フィービーの病欠は偽り。問われたゴーランドがまともに答えられないのを知っているエイヴァは発言の許可を貰い説明役を買って出た。



「現在は心身共に安定し、引き続き療養を続ければ雪が解ける頃には帝都に戻って来れるかと」

「そうか、そうか。夫人は元々医者として先代ホワイトゴールド伯爵と共に帝国全土を渡り歩いていたな。其方が言うのなら間違いはないのだろう」

「恐れ入ります」



 皇族のホワイトゴールド家に対する信頼度は圧倒的に高い。長きに亘り宮廷医師を務めた成果が認められているということ。不満げな気配を察したゴーランドが後ろにいるミリアンを睨めば、ビクリと肩を震わせ下を向いた。余計な口を開くなと牽制してのもの。二人の様子に気付かないリーンハルトやビアトリスに一礼をしてウェリタース家の番は終わった。



「私とエイヴァは行動を共にする。ミリアン、決して余計な口を開かないように」

「はい……」



 大いに不満そうなミリアンに不安はあれど、騒ぎを起こす真似はしないだろうとゴーランドやエイヴァは判断し側を離れた。一人になったミリアンは友人達の輪が何処にあるのかと周囲を見回し、見つけると動き出した。

 体面の為なら診断書の偽造等という規則違反をしていい理由にならない。父も義母も体面を守る為に嘘を重ねた。清廉潔白でありたいミリアンの嫌悪感は膨れ上がるばかり。けれど余計な口を開いてしまえば、見捨てられるのは自分。次期ウェリタース侯爵の地位も危うくなる。



「……そうだ」



 友人の一人がミリアンに気付き手を上げた。ミリアンも手を上げ、輪の中に入った。

 未だフィービーの行方は分からないまま。専属侍女を務めるハンナに聞いても行き先に心当たりがないと言う。フィービーを先に見つけ出し、連れ戻せれば父や母の信頼を得られる絶好の機会となり得る。

 絶対に先にフィービーを見つけ出してやると友人との会話に花を咲かせながらミリアンは決意したのである。


 


 ——医務室に運ばれたダイアナはベッドに寝かされ、医師による診察を受けた後、解熱剤を投与された。



「熱が下がり始めたら馬車に乗せても大丈夫です」

「ありがとうございます……」



 意気消沈しているジェイドが医師を見送ると先に手当てを済まされたレティーシャに歩み寄った。



「母上、お加減はいかがですか?」

「……」



 殴られた頬には傷薬が塗られ、上にはガーゼが貼られている。ジェイドが何度か声を掛けてもレティーシャは石像の如く動かない。諦めたジェイドは眠るダイアナの側に椅子を置いた。熱に侵されたダイアナの手はとても熱く、早く下がらないかとジェイドは待ちながら先程のクリストファーを思い出しては訳が分からず落ち込んだ。


 一方でレティーシャの方は、心の中が嵐の如く荒れに荒れていた。



「(何よ何よ何よ……!! あの女を野猿と言って何が何が悪いと言うのよ!!?)」



 裸足で森の中を駆け回り、木に登ってははしゃぎ倒した女を野猿以外の表現があるというのか。完璧な淑女と呼ばれているがあの女の本性は、それとは程遠い野猿だ。



『野猿だったダイが完璧な淑女と評されるなんてっ。……ああそうか、私は悪い夢を……痛っ!?』

『だーれが野猿よ! お姉様と同じこと言って。殴るわよ!?』

『殴ってるじゃないか!!』



 ダイアナを野猿と呼んでいたのはクリストファーだ。ダイアナを野猿と呼んでは殴られていたのをレティーシャは知っている。お茶会や夜会にクリストファーがいれば必ず彼の心を奪おうと常に付き纏うか、視線で追っていた。いつもいつも側にいたのはダイアナ=サンディス。婚約するのも時間の問題だと言われていた二人を見つめる周囲の目は温もりに溢れていた。


 許さない許さない許さない許さない……絶対に許さない!!


 ダイアナ=サンディスも、彼女に似たフィービーも。一番許せないのは、今も尚自分を愛してくれないクリストファー。



「……そうだわ……」

「母上?」



 ふらりと立ち上がったレティーシャに気付いたジェイドが話し掛けるも、復讐心に思考が染まっているレティーシャは聞こえていない。



「お姉様に言ってクリストファーに罰を与えてやらないと……私の顔を殴った男をお姉様は許さない……お姉様に早く会いに行かないと」



 瞳孔は開き、憎しみの感情を溢れさせるレティーシャに恐怖し、呼び止められなかったジェイドは腰を抜かしたように椅子に座った直後。扉を開けたレティーシャは部屋の前で待機していた見張りに止められた。



「ローウェル公爵夫人。皇太子殿下の命令により、この部屋を出ることは叶いません。どうか、大人しくしていてください」

「誰に向かって言っているの!? 私はレティーシャ=ローウェル! 皇后ビアトリスの妹よ!? そこを退きなさい! お姉様に会いに行くのよ!」

「申し訳ありません。皇太子殿下のご命令です」

「私の命令が聞けないと言うの!?」

「皇后陛下の妹であろうと貴女様はローウェル公爵夫人。皇太子殿下より、下のお立場だとご理解ください」

「っ!!」



 姉が皇后であろうとレティーシャは公爵家の者。立場が違うと無情にも切り捨てられ、扉はパタンと閉められた。呆然と立ち尽くすレティーシャは湧き上がる怒りと憎しみによって身体を震わせ、手を強く握り締めた。



「あの女が良くて、私が駄目なのはなんでよ!!」

「は、母上」

「あんな野猿に!! 私が劣ることなんて何一つないのに!!!!」



 憎い憎い憎い憎い。あの女ダイアナ=サンディスが。瓜二つなフィービーが。



「……そうだわ」



 良案を思い付いた。

 恐らくフィービーはウェリタース家の領地にいる。刺客を送り込みフィービーを誘拐させる。貴族の大きな屋敷には大抵地下が存在する。ローウェル家も然り。普段物置にしか使われない地下にフィービーを閉じ込め、一生飼い殺しにすればレティーシャの傷付いた心は癒える。



「そうなると……あの男に居場所を吐かせないと……」



 レティーシャがクリストファーと婚約したことによってダイアナと婚約出来た男——ゴーランド=ウェリタースにフィービーの居場所を吐かせられれば、無駄な手を使わずに済む。

 断られてもフィービーとミゲルのデートを散々邪魔していた件で脅せば此方の言うことを聞くだろうと算段をつけて。


 


 ——子供達を寝かしつけたフィービーはくしゃみをし、直後に襲った悪寒に身震いを起こした。



「どうしたんだい? 風邪でも引いたのかい?」

「分かりません……急に寒気がして」

「今日は早く眠りな。あ、寝る前にココアを作ってあげるよ。それで心も落ち着くさね」

「ありがとうございます」



 スザンナの気遣いに感謝しつつ、まだ治まらない寒気に嫌な予感がするフィービーであった。


 


 

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― 新着の感想 ―
この物語の終着点はどこなんでしょう。家出して周りのダメ大人達が破滅していけば終わり?レティーシャがザマアされて終わりなのか。フィービーがクリストファーの娘なら流れ変わりますね。
色々とロクでもない人物がいるけど、ゴーランドが最低
フィービーはもう国外へでたほうがよい。 国内は頭のおかしい連中しかいないし、物理的に距離を離した方がいい。 フィービーの祖父母もクリストファーに領地に来ないかって手紙書いてたし、祖父母のところへ行った…
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