第607話 元冒険者ギルド受付嬢と星妖精、緊迫のモニタリング!?
「! ナタリア様とハルバード公爵夫人のマーカーが移動を開始しました……いよいよ作戦開始ですね」
『はえ〜、すっごい……。
遠隔でそんなのも分かるんだねえ……ディケーの魔力感知でもせいぜい半径30mくらいまでしか分からないのに……』
「我々アーメリア公国が魔術で栄えた国なら、レギエス帝国は科学技術で栄えた国でしたからね。
戦後賠償で帝国から接収した科学技術が魔術と融合して、今ではこういうコトも可能になったんです」
『やりますねぇ!』
大公家の城から遠く離れたホテルの一室より、トランクを展開したモニター画面を食い入るように見つめるベルと星妖精のキラリ。
事前に登録済みのナタリアとマリーの魔力の波形パターンを宮廷外のドローンで感知し、両者が大公家の宮廷内の休憩室を密かに出て、移動を開始したのを固唾を呑んでモニタリングしている最中であった。
「この足取りですと……やはり、ハルバード公爵夫人が怪しいと睨んでいた、大公家の第三太子様の部屋に向かっているようですね……」
『それって、あれでしょ?
マリー様の娘のエリザの婚約者だけど、婚約したきり一度も挨拶に来ないばかりか、会いに行っても留守だのなんだので、ずーっと会えず仕舞いの、クッソ失礼な奴だよね?
……そんなのが義理の息子になっちゃうかもだなんて、マリー様ってばカワイソー』
「ええ、その失礼な第三太子様ですね(キラリさん、気のせいか、ここ最近ずいぶん口が悪くなりましたね……)」
ベルの肩に乗りつつ、腕組みしながらモニターを見つめるキラリに、思わずベルも心の中でツッコむ。使い魔は契約主の性格に強く影響されると言うが……まさにキラリは、ディケーの影響を受けまくりなのであった。
閑話休題。
『にしても、マリー様は身体強化の術式やらで飛んだり跳ねたり走ったりはお手の物だと思うけど……ナタリアも何だかんだですごい速度で移動してるね?』
「ソロア様の開発された魔導具……潜入用ステルスコンバットスーツの恩恵ですね。
暗殺者のように気配や魔力を消しつつ、短時間なら魔術の鍛錬を受けていない人間でも簡易的な身体強化の術式を発動させて、跳躍力や走力が向上する機能も備えていますから」
『そっか。それにナタリアは昔ダンスをやってたから、体幹は良い方だもんねえ。運動神経も悪くないし』
それに加え、ナタリアは魔女ディケーの従者でもあるので、いざとなれば主であるディケーからの緊急の魔力供給も見込める……それにより、ステルスコンバットスーツに備わった簡易身体強化を更にブーストさせるコトも可能だろう。
「ただ、まだ試作段階のため過信は禁物だとソロア様も仰っていましたから……極力、退却のためのエネルギーは温存してほしいところです」
『宮廷の外にはネリが待機済みなんでしょ?』
「はい。晩餐会が始まった辺りから、ネリさんもスタンバイしています。
もしもの時は救出、あるいは追っ手の撹乱をお願いするコトになりますが……」
『そうならないのを祈るだけだよねえ』
今回の宮廷潜入作戦の最大の目的は、アーメリア大公家の城の中で邪教団もしくはそれに準ずる何らかの組織が浸透しているという何らかの確たる証拠を掴むコトにある。
それと同時に、マリーの目当てでもある大公家第三太子が何やら聖庁と繋がりを持ち、何やら暗躍している実態も掴まねばならない。
「……ディケーさんも言われていたのですが。
私、今回のナタリア様とハルバード公爵夫人の探し物、どちらも無関係とは思えないんです」
『と言うと?』
モニターを見つめ続けるベルに、キラリが問い掛ける。
しかして、
「冒険者ギルドに勤めていた頃の話なのですが……犯罪者グループAを摘発、その次に犯罪者グループBを摘発してみたら、実はその両方のグループ同士には横の繋がりがあって、共同で悪さをしていた……そんなコトが結構あったんですよね」
『なるほどなー。
聖女をシンボルとして祀ってる聖庁が邪教団とどういう関係なのかはイマイチ分かんないけど、色んな事態を想定して動くのは悪くないコトだもんね。
実際、聖庁の聖女護衛団って、昔から聖女候補の女の子を誘拐じみた方法で、無理矢理に親元から引き離してたんでしょ?
何年か前にライアもさらわれそうになったし」
「ええ、まさしく。
レギエス帝国との大戦の際には、諜報や破壊工作などでも活躍していますが……後ろ指を指されるような強引なやり口が多いのも、また事実ですね。
なので、同じアーメリア国内の組織でありながら、聖女護衛団は魔術協会とは対立関係にあります。
聖女護衛団を擁する聖庁に関しても、イロイロと一般公国民には開示されていないような情報も多く……冒険者ギルドに対しても高圧的で、印象は決してよくありませんでしたね……」
『ディケーのうちに新年会で毎年遊びに来る魔女の先輩達も、ライアがさらわれそうになったって聞いた時、面白くなさそうな顔してたもんねえ。
何人かは「今すぐ乗り込んで報復すべき!」って、キレそうになってたし。
聖庁、聖女護衛団……"星の観測者"的にも何か感じるモノがある組織なのかも……』
それでなくとも、魔女達は未来予知や直感に長けている。
ディケーとしても邪教団が邪神をこの世界に召喚する前に壊滅させるコトを悲願としているし……邪教団、第三太子、聖庁……この三者に深い関わりがあるのだとしたら、まさに叩き潰すのであれば、千載一遇の好機の到来かもしれない。
ーーーもっとも、ナタリアとマリーが何らかの証拠を持ち帰るコトができたら、のハナシであるが……。
「あ……ナタリア様とハルバード公爵夫人が足を止めました。
既にスキャン済みの宮廷の見取り図通りであれば、まずは第三太子様の部屋の前に辿り着けたようです」
『やっぱり、今夜は晩餐会で警備の目が会場周辺に集まってるのが幸いしたねえ』
「ですね。
それに加えて、宮廷内に警備用のドローンが稼働していないのもラッキーでした。
……とは言え、アーメリアの政治の中枢。
ドローン以外の監視装置や感知システムは当然設置されているでしょうから、気は抜けません」
『光る点を見てるだけなのに、何だかこっちまで疲れて来るよ〜……私、ちょっと休憩』
そう言って、ベルの肩からふわりとキラリは飛び降り、いそいそと服の隙間から胸元に潜り込むと
『はあ〜。
ディケパイやナタパイ、ソロパイやクロパイとは、また違った趣があるぅ……』
「……クロアさんの仰っていた"ドスケベ妖精"の意味がやっと分かりました」
ベルパイの谷間にちゃっかりと収まり、特等席から、ナタリアらの潜入を見守るキラリちゃんなのであった……。




