第608話 公爵夫人&領主夫人、疑惑の扉の先へ……!
一方その頃……。
「あらあら、まあまあ。……厄介ですわね」
「ちょっと、どうしたの?」
貴族連合の晩餐会に乗じ、首尾よくアーメリア大公家の宮廷内部に潜入、それぞれの方法で姿と気配を消し、見回りの兵士や侵入者迎撃用トラップを回避し、順調に渦中の人物である第三太子の部屋の前までやって来たナタリアとマリーだったがーーー
「……さすがに一筋縄ではいきませんわね。
扉にカギがかかっているようです……それも物理的なモノではなく、魔術的な」
「……なら、さっさと解除すればいいじゃないの」
「んもう、ナタリアさんは簡単に言ってくれますわね♪」
口では困った素振りを見せつつも、マリーは何処か嬉々としているようにもナタリアには思えてならなかった。
恐らく、こういう事態も最初から全て想定してのおふざけなのだろうが……
「こういうのは本来、私の専門外なのですけれど……やむを得ませんわね。
何とか施錠の術式を解読して、カギを開けるとしましょう……扉を吹き飛ばすのが本来でしたら、一番楽なのですけれど……♪」
「そんなコトしたら、すぐに見回りの兵士やら魔術師が飛んで来るじゃないの……いいから早くして」
「はいはい♪」
言うが早いか。
マリーは指先に魔力を集中させるとーーー
ズ ズ ズ …… !!!
「ふむふむ……多少は複雑な術式が組まれていますが、構造を理解できれば単純明快……これなら帰る際にカギをかけ直しても、まずバレはしないでしょう♪」
「……なによ、専門外とか言っといて仕事が早いじゃないの。
没落したら女怪盗として食べていけるかもね?」
とまあ、ナタリアなりに恋敵であるマリーへのエール兼嫌味であったのだが、
「うふふ、それもよいかもですわね♪
私とディケーさんとで、美女怪盗コンビとして夜な夜な首都をお騒がせするのも、また一興かもですわ♪」
「……ちょっと、怪盗やるなら一人で勝手にやって。
あの子まで巻き込むんじゃないわよ。
……ディケーは私の護衛として、一生こき使うんだから」
「あらあら♪」
と、こんな感じでナタリアの憎まれ口をマリーが軽く流している間にも。
ガチャッ
「!」
「……開きましたわね」
マリーの解錠の術式が成功し、閉ざされていた第三太子の部屋のカギは無効化された。
さすが英雄魔術師と言うべきか、このような分野であってもそつなくこなすマリーなのだった。
さて、ここからはーーー
「中に誰も居ないのは事前に私の魔力感知で既に分かっていますが……それでも、何が出てくるか分かりません。
侵入者迎撃用の魔導具やドローンなどがご登場のパターンも、なきにしもあらず……ナタリアさん、十分にご注意を♪」
「……ええ」
「決して何も触らないで。
声を出したり、光らせたりするのも無しです。
……ここから先の会話は全て念話でいきます、明かりがないので暗視メガネも忘れないで」
「(注文が多いわね)」
「(……うふっ、それでよいのですわ♪)」
即座に指示通り念話での会話に切り替えるナタリアに、マリーも内心、称賛を送っていた。
魔術の才能はほとんど無いという話だったが……ナタリアの念話にはまったくノイズらしいノイズもなく、とてもクリアで流暢なコトからも、相当の鍛錬を積んで習得したであろうコトがうかがえる。
決して口だけでなく、実際に努力を怠らないナタリアの姿勢はマリーにとっても好ましいモノであり……
「(ディケーさんが頑なにヴィーナ家付きの冒険者であり続けるのを固辞する理由が、何となく分かりましたわ♪)」
「(今はそんなコト言ってる場合じゃないでしょ……)」
切迫した状況でありながら、それを楽しむコトを忘れないマリーは頼もしくもあるのだが……同時に、とても危なかっかしいのも確かであり……自ら宮廷に潜入し、共に内偵を行うコトを承諾したナタリアとしても「大丈夫かしら……」と不安を覚えるのも、無理のない話であろう。
がーーー
「(……ナタリアさんも薄々お気づきではなくて?
この潜入作戦、ちょっとスムーズにイキ過ぎじゃないかしら? って♪)」
「(……それは。……まあ、ね)」
「(タイミング的に、そろそろ一難あるかもです……重ねて、お気をつけあそばせ)」
ーーーそう、つぶやいて。
それまでの嬉々とした様子から一変し……戦場に立つ武人の如き、険しい様相となったマリーが周囲を警戒しながら、ゆっくりと第三太子の部屋の扉を開けると。
「(ッ……これは……!?)」




