第606話 では装着プロセスをもう一度見てみよう!(CV:川澄綾子)
「おや、ハルバード公爵夫人。どちらへ?」
「ヴィーナ領主夫人が少しお酒を飲みすぎたようですので、席を外すところですの。
お誘いしたのは私ですし、責任を持って休憩室までお連れいたしますわ♪」
「おお、そうでしたか」
「ヴィーナ領主夫人は今日が初めての貴族連合の会議への参加でしたからな。
気疲れなどもあったのでしょう、今夜はゆっくり休ませてあげるコトです」
「会議は明日もありますからねえ」
ーーーいよいよ……アーメリア宮廷内偵作戦、実行の時。
マリー様からお酒に誘われ、少し飲みすぎた体を装い、ナタリア様と二人で一旦休憩室まで行きアリバイ作りをし……準備を整え、宮廷内に浸透しているかもしれない邪教団や、聖庁と何やら繋がっている大公家の第三太子について、調べる!
……晩餐会で要人が会場に大勢集まり、宮廷内の警備の目がココに集中している今夜こそが、作戦決行のベストなタイミング!
「ハルバード公爵夫人。
奥様でしたら、この私が……」
ナタリア様の護衛騎士であるクロアちゃんが、会場の出入り口付近で数人の貴族やらと話しているマリー様達におずおずと小走りで駆け寄るも、
「いいえ、それには及びません♪
クロアさんはどうか、初めての宮廷の夜を楽しんでいってくださいな。
せっかく御親戚のソロア様とも久々にお会いできたのですから」
「……ハルバード公爵夫人の仰る通りよ。
クロア、私は大丈夫だから……貴族のみなさんのお相手をしてあげて」
「……奥様方がそう仰るのであれば。
ハルバード公爵夫人、ナタリア奥様をお願いいたします」
「ええ、任せて♪」
ーーーもちろん、これも事前に取り決め済みのお芝居。
これでクロアちゃんも会場に残ってアリバイ作りが出来る……ナタリア様とマリー様のこの先の行動を知るのは、誰も居なくなるけれど「休憩室で休んでいたナタリア様、それに付き添うマリー様」という構図は崩せない!
「(マリー様は『ハルバードのうわばみ』の異名で知られる程の酒豪だし……)」
且つ、この大陸で最強の武力を誇る魔術師団を率いる英雄魔術師の公爵夫人を疑うなんて、そんな恐れ多いコトができる人が、果たしてこの会場に居るのか? ってハナシですよー!
「(んじゃ、マリーの姐さん。ナタリアの姐さんを頼むぜ?)」
「(ええ、任されましたわ♪)」
「(クロア、ソロアとしっかりアリバイ作りをしておきなさいな)」
「(おう、姐さんも気ぃつけてな)」
念話で会話しつつ、互いの健闘を祈り合う三人。
刹那、マリー様に肩を貸されて晩餐会の会場を後にするナタリア様と目が合ってーーー
「(……それじゃ、行ってくるから)」
「(ナタリア、無事に帰ってきてね)」
「(ええ)」
未だサイン攻めに合う中。
私はナタリア様の無事を祈りつつ、見送る他ないのだったーーー。
****
「……さて、これからどうする?
内偵を始めるんでしょ、グズグズしてられないわよ」
ーーー晩餐会の会場を出て予定通り、ゲスト用の休憩室へと入っていったマリーとナタリアの二人。
内側から鍵をかけ、まずはソファーに腰掛けると、
「ドアの鍵は閉めていますから、しばらくは誰も入ってこれません。
この部屋で私達は小一時間、休憩していた……そう装いつつ、まずは窓から部屋を出て、本格的に宮廷内の捜索を行いましょう♪
内部の構造は事前に把握済みですから、ショートカットも出来ましてよ」
「……はあ。
まあ、ここをいつも出入りしているアンタを信じる以外に選択肢は最初からないしね。
任せるわ、ハルバード公爵夫人」
「この際ですから、どうぞマリーとお呼びくださいな♪
私もナタリアさんとお呼びしますので♪」
「……分かったわ、マリー」
本来であれば、地方領主の夫人に過ぎないナタリアが公爵家夫人のマリーを呼び捨てにするなど、あり得ない話であるのだが……ディケーを巡る恋敵としてお互いを認識する内、奇妙な友情が芽生えた……というワケではないのだが、ライバル関係の延長で今回の協力関係に至った次第である。
閑話休題。
「ところで、酔いの方は大丈夫でして?
ナタリアさん、随分とワインを飲まれていたようですけれど」
「まあ、お芝居とは言え、ちゃんと飲んで酔いつぶれているように見せなきゃだしね。
事前にソロアに調合してもらった薬を飲んでるから、アルコールは最初から分解済みよ。
アンタの方はどうなのよ?
って、『ハルバードのうわばみ』に聞くまでもないんでしょうけど」
「うふふ、あれくらいは飲んだ内には入りませんわ♪」
ゴージャスな金髪を指先で払いつつ、正装の胸元を内側から押し上げるバストを揺らし、マリーはそう豪語する。
ディケーを巡る恋敵としてはナタリアとしても死妖姫のシェリル並に厄介な相手ではあるが……味方であれば、心強いのは確かなようであった。
「(……ま、ディケーを譲る気はさらさらないけれど)」
飽くまでも今夜限りの協力関係ーーーそういうコトなのだった。
「ナタリアさんはソロア様が事前に開発された潜入用の魔導具を持って来ているのでしょう?
確か、以前に魔術協会で試作が検討されたステルスコンバットスーツだとか……」
「ええ、あるわよ」
マリーに促され、ナタリアが腕に身に付けたブレスレットのスイッチを押すや、
「装着!」
瞬時にナタリアの体が光に包まれ、次の瞬間にはしなやかなボディラインを覆うラバースーツを身に付けた姿となっており……まさしく夜の闇に溶け込むような、潜入に相応しい姿となっていた。
「まあ、すごい!
目の前に居るのに、本当に魔力も気配もまったく感知できませんわね……さすがソロア様ですわ♪」
「まだ試作段階だから最低限の機能しか付けられなかった、ってソロア本人は言ってたけどね……」
ーーーヴィーナ領主夫人ナタリアがステルスコンバットスーツを装着するタイムはわずか0.05秒に過ぎない。
では装着プロセスをもう一度見てみよう!(CV:川澄綾子)




