第603話 ハルバード公爵家VSヴィーナ領主家VSダークラ……またしても何も知らないディケーさん!?
「(ったく、別世界の自分とこんな小芝居する日が来るたぁな……)」
「(こ、これも、ナタリアお姉様とマリーさんの内偵作戦成功のためですので……)」
「(わーってるけどよぉ……どーにもアタシの性に合わねーっつーかさ……)」
「(そ、それは私もですよ、クロアさん……こっ、こんな大勢の人の前で演技なんて……き、気を抜くと、い、今にも吐きそうです……っ!)」
「(……頼むから、姫様の前で床ゲロまみれにするのだけは勘弁な)」
にこやかに、互いに手を取り合う二人のボッチチェリ。
晩餐会の出席者らは、この奇跡のツーショットを前にーーー片や、大導師の職を辞しても尚、未だ当時以上の洗練された強大な魔力と純粋な少女然とした可愛らしさのままのソロアにうっとりとし……。
片や、領主夫人の護衛騎士として凛とした精悍な佇まいを見せ、ソロアに負けず劣らずの研磨された鋭さの魔力を感じさせる、野生に生きる獣の如きクロアのキリリとしたワイルドさに恍惚とし……。
「(ううむ……ソロア嬢とクロア嬢……どちらも捨てがたい……!)」
「(若輩者のスターレイムなどの従者でなければ、すぐにも我が家が声をかけたのだが……ぐぬぬ)」
「(まったく、ヴィーナのような地方の自治領にばかり、何故あのような逸材が集うのか……!?)」
「(ソロア様は可愛らしく、クロア様は凛々しく……でも御親戚だけあって、本当にそっくりですこと……)」
晩餐会の会場に集まった貴族らも、よもやのソロアの登壇に驚きつつも……ソロアの親戚だというクロアと対面したコトで、今宵二人のボッチチェリが第一公女メアリの前に集うという最大のサプライズに感嘆し、拍手を送る他なかった。
……無論、胸中穏やかでない者もちらほらと見受けられたが、少なくともメアリが参加しているこの晩餐会において、ソロアに自分の息子との婚約や見合いなどの話を今さら未練がましく持ち掛ける無粋な輩は、さすがに居ないであろう(無論、それはクロアに対しても言えるコトではあるが……)。
「ソロア様、お久しぶりですわね♪
娘のエリザはキンドラーで頑張っているでしょうか?」
「ま、マリーさん……。
は、はい……お久しぶりです……。
エリザさんは、とっても優秀で……わ、私も、将来がとっても楽しみな生徒さんですね……」
「そう、よかったですわ♪」
そうして、盛り上がりを見せる晩餐会の最中、ソロアに娘のエリザの近況を尋ねる、ハルバード公爵家夫人のマリー。
両者は魔術協会でも旧知の間柄であり、数年間だけとは言え、上司と部下の関係であったのは周知の事実である。
ソロアが魔術協会を去った後は、幾度も次期大導師にとマリーを推す声が周囲から上がるものの、その都度
『前線に出られないのは、私にとってつまらないコトですので♪』
このように、やんわりと断られているのだが……
「(ソロア様とハルバード公爵夫人の仲の良さは健在のようだな……やはり、次の大導師にふさわしいのは実力と知名度をおいて、彼女しかおるまい……)」
「(今のうちにハルバード家に付き、恩を売っておいた方が後々に繋がるやもしれぬしな……)」
「(それでなくともハルバード家は、ソロア嬢を従者に持つディケー・スターレイムに領地を貸与するコトで傘下におき、更にスターレイムはクロア嬢を雇っているヴィーナ家付きの冒険者……この状況で得をしているのは、どう見てもハルバード家!)」
「(ハルバード家の祖先も元々は一介の冒険者から身を起こして、今の公爵家まで登り詰めた現場からの叩き上げ……会議にしか顔を出さない口だけの議員などより、よほど人望も厚いというもの……)」
「(国民からの人気も高い第一公女のメアリ様とも親しい……やはり、ハルバード家だな……)」
ーーーとまあ、なごやかな雰囲気ではあるものの……みな一様にマリーやその他の有力貴族を見比べつつ、「次に自分が付くべきは誰なのか」をしっかりと見定めている、そんな側面もあるのだった……。
とーーー
「ヴィーナ領主夫人。
……初めての貴族連合の晩餐会、楽しんでいただけて?」
「これはハルバード公爵夫人。
……ええ、おかげさまで。
とても楽しく参加させていただいております」
渦中のハルバード公爵家夫人、マリー。
そして、ヴィーナ自治領・領主家夫人ナタリア。
アーメリア公国を騒がせる、今一番ホットなオンナ達が、ついにアーメリア大公家の宮中にて遭遇ーーー!!
そして、
「スターレイム卿、うちの娘が貴女のファンでしてな……どうか、ボケカ(冒険者カード)にサインをと……」
「う、うちの息子のためにもぜひ!」
「わたくしの孫も貴女の大ファンで……」
「あ、は、はい……いいですよ、サインくらい……あはは」
ーーーまたしても何も知らない、大泉洋……もとい、ディケーさん!!!




