第598話 宮廷を探れ! クロアちゃん、いきなり大ピンチ!?
「ーーークロア殿、いかがだろうか。
ぜひとも我が公爵家付きの騎士に……給金もヴィーナの領主家の倍額以上をお約束しよう!」
「私如き若輩者に寛大なる御言葉、痛みいります、公爵閣下。
ーーーしかし、ヴィーナの御領主家、とりわけナタリア奥様には、私は多大なる御恩がございます。
また、ヴィーナ家には我が親類であるソロアや、そのマスターであるスターレイム卿も出入りしているのもあって……実家のような安心感があり、私にとっても大変に居心地がよいのです。
……ありがたいお申し出ではあるのですが、何卒、ご容赦のほどを……」
「う、ううむ、しかし、そこを何とか……」
「(ちっ、うっせーな……さっさと諦めろってんだろ、このタコ!)」
公女メアリより充てがわれたゲストルームで休憩中のディケーとナタリアを残し、自分を勧誘しようという腹の有力貴族達に断りを入れるついでに、大公家の宮廷をそれとなく探るため、動き出したクロア。
まずはスカウト拒否の姿勢を示そうと宮廷内で宿泊中の各貴族の部屋を訪ね歩き、都度断りを入れているのだが……みな、かなり粘って説得を試みてくるため、時間がかかって仕方ない。
かつて魔術協会の大導師を務めたソロアに瓜二つの美貌と、英雄魔術師と讃えられるハルバード公爵家夫人のマリーに勝るとも劣らぬ強大な魔力を持つ可憐な騎士が突如として議場に現れれば、是が非でも自身の家に引き込みたいと思うのは分からない話でもないのだが……。
「(ソロアの奴が魔術協会とやらをさっさと辞めた理由がよーく理解るってもんだぜ!
こんな調子で見合いだの婚約だのの話持ってこられちゃ、そりゃ嫌にもなるわな!!)」
……それに、恐らくだが。
クロアを雇うコトに成功したあかつきには、自身の子や孫と結婚させるコトも視野に入れているのだろう。若くして強大な魔力を得るに至ったクロアの血統を自身の一族に取り入れ、更に盤石なモノにしたい……そんなトコロか。
「(……ったく、冗談じゃねーぞ。
アタシはこっちの世界にゃ修行に来てるんだっての!)」
いっそ目の前の公爵を殴り飛ばし、さっさと出て行こうかとも一瞬思ったが……それをやってしまうと、ナタリアやディケーに迷惑がかかってしまうコトも理解しているため……。
「(しゃーねえなあ……コイツにも使うか)」
意を決するクロア。
何とかクロアを引き留めようと、尚も好条件をいくつも提案してくる公爵をゆっくりと見据えるとーーー
"魔女の瞳"……発動!!!
「……アンタはアタシのコトを諦める。
だが禍根は残さない。
どちらも納得した上であきらめた。
あと、これ以上アタシのコトを詮索もしない……いいな?」
「わ、分かった……。
クロア殿をあきらめる……詮索もしない……」
「よし」
ーーーさすがは別世界の魔女ディケーの弟子にして、正規の魔女であるクロア。
難なく公爵に魅了をかけ、勧誘を諦めさせてしまった。
基本、貴族連合に参加を許されている議員はみな有力な魔術師の家の出の者が多く(タロット公爵やナタリアのような、魔術の才能があまりない商家の出の人間も例外的にそこそこはいる)、この手の魅了と言った精神干渉系の術式に対して耐性や抵抗力を持っているはずなのだが……正規の魔女として認められ、こちらの世界に来てからも魔力の鍛錬を欠かさなかったクロアの前では、丸裸同然だったーーー。
「(ちょろいな)」
ついでにナタリアが今夜探る予定の、邪教団やらについても聞いておこうかとも思ったクロアだったが……
「(……いや、もし『邪教団』やら『邪神』やらってワードが切っ掛けで、アタシらが探りに来たコトがバレるのも面倒だな)」
仮に、この公爵が既に何者かに操られていて、該当するワードを聞いた途端に魅了が解けたり、探りに来た人間を始末しようと自爆でもされたら困るーーー。
ここは魔術で発展を遂げたアーメリア公国の首都であり、何百年と治世を続けてきた大公家の宮廷内……何が仕掛けられているか、分かったものではない。
宮廷内部で既に邪教団の信仰が浸透してしまっているのだとしたら、尚更である。
……リスキーな真似はできない!
「(念のため、部屋に入る前に魔力感知で調べはしたが……気になるような怪しい仕掛けは特になかった……が、特にないのが、逆に怪しいコトもあるしな)」
一応、公爵との会話を盗聴や録音などされないよう、防音と隔絶の術式も施しているが……幾度も別世界にて異界の魔物との死線をくぐったクロアは、大雑把に見えて、意外と慎重派なのであった……。
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「……失礼。
ソロア・ボッチチェリ殿の御親類、クロア・ボッチチェリ殿とお見受けしたが」
「……私に相違ありませんが」
「こんな所で、御一人で何を?」
「……奥様が初めての貴族連合の会議でお疲れのようでしたので。
治癒の術式にも優れるスターレイム卿にお任せをして、私は先に諸用を済ませていたのですが……大公家のお城は広く、迷って仕舞っていたところなのです、騎士の方々」
ようやく全ての貴族からの勧誘を("魔女の瞳"を使って)円満に断り、少し宮廷内を探ろうと、庭園や騎士の鍛錬場などを見回っていたクロアを呼び止める者達の姿があった。
その出で立ちから察するに、アーメリア大公家に仕える騎士団員であるコトはクロアの目にも一目瞭然であったがーーー
「(……オイオイ。
もしかして早速バレたか?
アタシが宮廷の中をそれとなく探ってんのが……できれば荒事は起こしたくねーんだが……)」
数人の騎士らに呼び止められたコトで……クロアに僅かながら、緊張が走る。
もし既にアーメリア騎士団の中にも邪教団を信奉している者が居たとして、それを探りに来た者を始末しに来たのだとしたらーーー
「(……闘るか!)」
いつでも魔力剣を展開し、呼び止めた騎士らを切り捨てられるよう、静かに臨戦態勢を取るクロアだったがーーー。




