第597話 アーメリア大公家、宮廷スパイ大作戦、目前!!
「はー、肝が冷えましたよ、ホント……」
「なによ、ディケー。
ヴィーナがただの片田舎の自治領だと思ったら大間違い……ってコトを、教えてやったまでのコトよ。
現に、あれ以降いちゃもんを付けて来る輩はいなかったでしょう?」
「はは。
ま、そこは確かにナタリアの姐さんの言う通りだな。
公女様も見てたし、公族の前で自分の立場を悪くしたくない小心者ばっか、ってコトが分かってよかったじゃねーか、マスター」
ーーーアーメリア公国の首都トワシン、大公家のお城で開催された貴族連合の会議、その第一日目が終了した。
夕方以降は大公家主催の晩餐会があり、出席した貴族達は夕食後は宮廷に一泊、明日の二日目の会議で全日程終了……こういう流れね。
今、私とナタリア様、クロアちゃんは議場を後にし……大公家より手配されたゲストの宿泊用のお部屋で、のんびりとくつろいでいるトコロだったりする。
「(メアリ様が気を利かせてくれたのか、貴族連合に初参加の地方領主の一行が宿泊するにしては、なかなか良いお部屋みたい……)」
南に位置するヴィーナに比べて、首都のトワシンはまだそこまで夏の暑さが厳しくない感じだし、過ごしやすそう。
……まあ、ゆっくりできる時に、しておかないと……ね。
「(……本番は夜からだもの!)」
ナタリア様とマリー様による、宮廷の内偵作戦……!
ナタリア様は邪教団、マリー様は第三太子と聖庁の関連について……調べ物はそれぞれ異なるんだけれども……。
「(どうしてかしら……どちらも深く関係しているような……?)」
……ミア姉様の見た未来予知だと、大公家もしくは貴族連合の誰かが邪教団の創立に深く関わってる、ってハナシよね。
仮に大公家の第三太子が創立者だとして、聖庁とも関わってるとしたら……。
「(いや、でもおかしくない……?)」
……聖女を擁立して、世に安寧をもたらすはずの聖庁が、世界を破壊する邪神を喚ぶために創立された組織なんて……容認するはずないじゃんね?
……でも、マリー様の調べでは大公家の第三太子は聖庁と繋がっている、と。
うーん、事実は小説より奇なり、っていうし……こればかりは実際に調べてみないと、何とも言えないか。
「予定通り……まずは晩餐会で、それとなく邪教団について探ればいいのよね?」
「はい。あ、でも……」
「分かってる。
邪教団の"じゃ"の字も出さないわよ。
それとなく世間話のついでに今、首都でどんなモノが流行ってるのか、聞くだけだから」
「……頼みます」
ソファーに腰を下ろし、私の肩に頭を乗せて、目を閉じてうなだれながら。
「ヘマはしないわ。
……公女殿下やハルバードの公爵夫人、それに貴女のためにも、ね?」
ーーーそう、ナタリア様がつぶやく。
「……晩餐会まで、少し眠るから。
その間、肩貸して。何処にも行っちゃダメよ。
分かった、ディケー?」
「……ええ、ナタリア」
……さすがのナタリア様も、初めての貴族会議への参加で少し気疲れしてる感じはあるわね、無理もないけど。
商家のお嬢様だから商談や交渉に慣れてるとはいえ……政となると、精神的な重圧も違ってくるでしょう。
夜に備えて、今は休ませてあげましょう。
「マスターが姐さんを見てるなら、アタシはちょいと席を外すぜ。
何人かの貴族に呼ばれちまっててさ、断れなかったんだわ」
「えっ……もしかして、スカウトかしら?」
「んー、かもな」
ヴィーナ家から、うちに鞍替えしないか……ってコト!?
そうよね、地方領主のヴィーナより、公爵家や侯爵家の方が待遇もお給料もいいでしょうし……何より、かつて大導師だったソロアちゃんの親戚、って設定だし……そりゃ、雇えるものなら雇いたいよね。
……でも、
「クロアちゃん、あの……」
「わーってるって、ちゃんと全部断るからよ。
……ついでにちょいと、散歩がてら宮廷の中を探って来る。
マジで邪教団なんてモノが内部で蠢いてるなら、何か痕跡があるはずだからな」
「分かった……気をつけてね?」
「おう!」
ソロアちゃん同様、頭から生えた猫耳をピョコピョコと左右に動かし、腰から生えた水色の尻尾をフリフリさせて。
クロアちゃんはニカッと笑い、部屋を後にしたのだった。
「(……クロアちゃん、言葉使いはちょっと荒っぽいけど、世渡りは上手いし、人を惹きつける魅力があるからねえ)」
さすがは正規の魔女、と言ったトコロかしら。
実際、ヴィーナの町中をクロアちゃんと一緒に歩いてると老若男女問わず、うっとりしたような視線を向けてる人がちらほら居るのよね!
市場で食材の買い物してると、顔見知りっぽい店主のオジサンやオバサン達から、色々とオマケしてもらってたりするし……。
「(ライアとユティが小さかった頃を思い出すわあ……)」
『これも食べな、お嬢ちゃん達。
カニクリームコロッケだ』
『コロッケ! おいしー!』
『メンチカツもあるよ。お食べ』
『ウーン、ジューシー』
『『可愛いねえ』』
『美味しそうに食べるねえ』
『何だかこっちまで幸せになって来るねえ』
『ウチの子もあんな子達だったらねえ』
ーーーって。
魔女は万人から愛される存在……正規の魔女であるクロアちゃんなら、並大抵のコトは自力で何とかするでしょう……私よりも確実に死線も掻い潜ってきてるだろうし……。
「夜からはベルちゃん、ソロアちゃんもホテルからリモートで作戦に参加……ネリちゃんはもう暗殺者のスキルを使いながら潜入して、万一の際の宮廷の脱出ルートの目星を付けている頃のはず……!)」
ーーーさあ、スターレイム一家のスパイ大作戦……もうまもなく、幕開けね!




