第595話 やったぜ! デサロ公爵家、ハルバード公爵家の助け舟!!
「ちなみに10年近く前、ブランディルと都市同盟を締結した際……私の不用意な発言でシェリル女公爵の怒りを買い、危うく殺されかけたコトがあります。
……ですので、どうか、そちらもシェリル女公爵との懇談の際には、ご発言にお気をつけくださいな。
……御命と御領地、双方とも失ってしまった……などという結果になりませぬよう」
「ぬ、ぬうぅ……!」
うはー、今日もキレッキレだわね、ナタリア様のアドリブ!
そう言えば、確かにあったわね、そんなコトも……。
『……何度も言わせないで貰える?
嫌ったら嫌よ。
ディケーは渡さないわ。
……この子は私の専属護衛として、これからもずっとこき使うんだから』
『……ふぅん?
貴女、随分とディケーを買ってあげてるのねえ?
中途半端な気持ちで囲ってるようだったら、割と本気でブチ殺そうかと思ってたんだけどお……。
貴女は町の住人の命よりも、ディケーを選ぶという訳ね?
……ええ、ええ、そうでしょうともねえ。
私が貴女の立場だったら、やっぱり同じ事を言ってるわあ。
憶さず、言葉を濁さず、この私への畏れもなく。
ーーー「ディケーは渡さない」と言い切った度胸は誉めてあげる★』
……あれは本当に一触即発、ヴィーナが滅ぶかどうかの瀬戸際だったわあ。
「(ナタリア様ってば、売り言葉に買い言葉でシェリルに強気で言い返しちゃうんだからもう……)」
……だけど、あの頃に比べるとさすがにナタリア様も大人になったようで、自身の感情よりは、町の利を優先した物言いになってるのは成長が見て取れるわね!
……言葉にはだいぶ、いやかなりトゲがあるけども。
「(ちなみに……当然のコトながら、ヴィーナとブランディルの鉄道路線開通の周年式典にシェリルが出席するなんてのは、まったく予定にないワケでして……)」
またしてもナタリア様お得意の、その場しのぎのアドリブである!
「(まあ、この分だと後になって『そういうワケだからディケー、式典に来るように、あのイモ姫に言っといて』とか言って、私に投げっぱなしジャーマンかますんでしょうけど……)」
ムチャばかりする上司兼恋人ですこと、ホント!
……まあでも、
『(海千山千の貴族連合の重鎮っぽい議員相手に、ようやってるわ……さすがに場馴れしているし、肝も据わってるわね。最初からこういう事態になるって、ナタリア様自身も想定していたんでしょうけど……)」
初参加の会議でのあまりにも堂々とした立ち振る舞い……そうそう出来るコトじゃない!
現に、他の議員達もヤジも飛ばすコトなく経緯を見守る他ない、って感じだし……。
とーーー
「おう、ちょいといいか?」
一触即発のナタリア様と重鎮議員の間に割って入って来た人が……あれは、デサロの公爵様! 私が家庭教師をやったコトもある、城塞都市デサロの総督を務めてらっしゃる、エマちゃんのお父様ね!
髪に随分と白いものが混じられてはいるけれど、ご壮健そうで何よりだわ……。
「む、デサロ公……」
「今はタロット公が発言されている最中ですが……」
「なに、すぐ済むからよ」
他の議員達を牽制するように、議場をギロリとひと睨みして、公爵様は仰った。
「うちのデサロもヴィーナと都市同盟を結んで10年近くになるし、その間に鉄道路線の開通やら都市間の交易やら人材派遣やらイロイロとやって来たが……仮にヴィーナが大公家に対して反旗を翻すなら、もうとっくにやってるんじゃねえか?
俺もそれなりにグレーゾーンすれすれの商売で財を成してきたからよ、なんぞ腹の中に一物を抱えてるような奴は目を見りゃ大体の判別はつくもんでな。
……だがよ、あのヴィーナの領主夫人の姉ちゃんには、町をもっと発展させてデカくしようという野心こそあれ、それ以上のギラついたモノはこれまでの話し合いで俺は感じたコトがねえ。
感情論だと言われればそれまでだが、俺は海での仕事もやってる都合上、色んな奴と商売をしてきた……だからよ、自分の経験と直感は大事にしてる。
……その俺の直感が、あの姉ちゃんはシロだと言ってんだ。
それに、うちのデサロでもヴィーナの評判は上々だしな」
おお……デサロの公爵様はやっぱりナタリア様の味方をしてくださってる!
私がミア姉様の代理でエマちゃんの家庭教師を担当してから、もう10年近く経つのね……そのエマちゃんも、もう立派にお父様のお仕事をお手伝いしながら、自分の夢も叶えて……いやはや、時の流れって早いものね。
「し、しかしですな、デサロ公……!」
「しかしも、ケット・シーも、あるかよ。
……それに、そんなにヴィーナとブランディルが手を組んで何かよからぬコトを企んでると思ってんならよ……そこのヴィーナ領主夫人の言う通り、直に今度、シェリル女公爵に問いただせばいいだけの話じゃねえか。
鉄道路線開通の式典にあちらさんから参加するってんなら話が早えわな。
聞けばいいだろ、『テメー、本気でヴィーナと組んで俺等とドンパチやる気か?』って。
……問いただす度胸がねえならよ、最初から引っ込んでろ……っつてんだ、分かるか?」
「ぐぬ……っ!?」
デサロの公爵様の胆に気圧され、タロット議員はそのまま押し黙ってしまう。
うんうん、やっぱり蛇の道は蛇と言うかあ……モノホンの反社を長年従えて来てる人だけあって、こう、何と言うか……やたら言葉に説得力がある!
「(むう……老いたりとは言え、やはり城塞都市デサロの総督……!)」
「(言葉の重みと迫力がまるで違う……!)」
「(近々、娘に家督を譲って政界を引退するという噂もあったが……これはまだ分からんぞ……)」
他の議員達がデサロの公爵様に圧倒される中、
「ひとつ、私からもよろしいでしょうか♪」
「は、ハルバード公爵夫人……!」
「こ、今度は貴女か……!?」
これまでずっと、にこにこ笑顔で推移を見守っていたマリー様が、ここに来て口を開いた。
「以前にも申しましたが、私はブランディルにてシェリル女公爵と直に謁見した経験がございます。
公女殿下の此方に控えておられるスターレイム卿がヴィーナ夫人の出産に立ち会うため、ブランディルでの冬季休暇を過ごせなくなったため……代わりに私が卿の御息女達と私の娘を連れて、ブランディルに遊びに行った時のコトですが……」
「(またスターレイムかっ!!!)」
「(どうして毎度毎度、何か厄介事があると、あの女が絡んでいるんだ!?)」
……あー、うん。
議員のオジサンやオバサン達が一斉に私の方を見た瞬間、何を考えてるのか大体察しちゃったわあ……。
「……シェリル女公爵は強大な力の持ち主です。
恐らくアーメリアにおいては最強でしょう。
他の大陸にも相応の力を持った亜人種はおりましょうが……それでも、この星でも五指に入る使い手なのは、疑いようがありません。
その五指の中に私自身が入っていないのは、大変残念ではありますが♪」
ーーー私はおそらく、七指か八指といったトコロでしょうか♪
などと、ハルバード流の冗談を交えつつ。
「そのシェリル女公爵がその気になれば、ヴィーナと手を組まずともアーメリアなど数日で壊滅させられるはず。
残念ながら、我がハルバード家お抱えの魔術師団、大公家率いる騎士団や魔術師団、各ギルドの冒険者を総動員したとしても……あの女怪を討ち果たすのは不可能です。
……ですから、ヴィーナがブランディルと手を組んでアーメリアに謀反を抱こうなどと言うのは、私からしてもありえない話なのです♪
ーーー手を組む必要すらないのですから。
あの女公爵は、やるなら十中八九、一人で全てを成し得るでしょう」
歴戦の英雄魔術師のマリー様ならでの説得力のある言葉に、しばし、貴族連合の議会場には、重い沈黙が訪れたのだった。




