第594話 領主夫人ナタリアVS貴族連合!!
「ーーーこのように、今後もヴィーナは鉄道を中心とした、アーメリアの流通の南の拠点としての機能を維持しつつ、国境の防衛に誠心誠意、当たってまいります。
また、既に国境外の草原地帯にも鉄道路線の敷設は開始されており、国外へのよりスムーズな行き来ができる日を目指しております。
鉄道関連の事業は職にあぶれた者達への救済も兼ねており、力と体力に自信があれば国籍を問わず採用し、労働力として事業への参加を認め、不法就労撲滅を少しでも減らすべく……」
ヴィーナの領主家を代表して、末席ながら貴族連合の会議への参加が認められたナタリア様。
公爵家だの侯爵家だの伯爵家だの……大公家に貢献してきた各地域のお歴々らがずらっと顔を揃えた中、一自治領の代表に過ぎない地方領主の夫人が発言を許されるなんて、とても光栄なコトなんでしょうけど……。
「(……そろそろ始まる頃合いか)」
ーーー私の読みが正しければ。
ナタリア様が現在のヴィーナの経済状況、周辺地域との都市同盟やインフラ強化の提携の説明を終えた辺りで……「出る杭は今のうちに打っておけ」と、仕掛けてくる輩が絶対いるはず。
とーーー
「ヴィーナ領主夫人、少しよろしいかな?」
お、早速……キタキタ!
貴族連合の重鎮の一人と思わしき、中年のオジサン公爵が「みなが言わないならワシが言ってやるわい」とばかりに、ナタリア様の発言が終わった直後、議会の場で口を開いた。
「ヴィーナが今現在、まさに飛ぶ鳥……否、飛ぶドラゴンを落とす勢いで、この首都トワシンに次ぐ発展を遂げているコト……まずは御領主家の素晴らしい手腕であると、心からの拍手を送りたい。
……だが、我ら中央の者からすると、ヴィーナに対し、些かの懸念があるのもまた事実だ」
「まあ……一体、どのような御懸念でしょうか」
飽くまでも、片田舎の自治領からやって来た、多忙な領主の代理を務める妻……のようなものの演技をし、すっとぼけるナタリア様。
ああ、うん……普段のナタリア様だったら、多分「は? ふざけたコト抜かすんじゃないわよ、そこまで言うなら領地戦で白黒つけようじゃないの!」とか言ってるんでしょうけども……えらい、よく耐えたわ……。
「(さーて、どんなイチャモンをつけて来るのやら……)」
中央の貴族様のお手並み拝見……ね。
「まず、女吸血鬼のシェリル女公爵が統治するブランディル自治領との都市同盟についてだ。
百歩譲って、特産品の交易やら鉄道路線を開通させての観光誘致ならばまだしも……都市同盟というコトは、有事の際はヴィーナとブランディルが手を組み、対処に当たるというコトであろう?」
「ええ、まさしく。
シェリル女公爵とも直々に、そうお約束しておりますので」
挑発的な物言いの貴族連合の公爵に対し、ナタリア様は淡々としていて、まさに「そうはいかんざき!」とばかりに、挑発には一切乗る様子を見せない……よしよし、さすがは商家のお嬢様……あんな見え透いたやり口は、ナタリア様には全然効いてないわね!
ーーーが、相手も負けていなくて、
「確かにヴィーナは我がアーメリアの南の防衛を古来より担って来た、重要な拠点であろう。
……が、片田舎の一自治領が、アーメリア最強の武力を誇る女公爵が支配する自治領と手を組むのは、単なる都市同士の利益を生む以上の目論見があると思われても、いたしかたないのではありませんかな?」
「と言うと……?
何を仰っしゃりたいのでしょうか?」
「つまりだ。
かつては国境警備の町に過ぎなかった片田舎のヴィーナが、今では必要以上の武力を有してしまっているというコトだ。
ブランディルだけではなく、アーメリアの西の守りを担う城塞都市デサロとも同盟を結んでおろう?
……まあ、これまで幾度も公国の侵略を図った夷狄どもを退けたデサロに限ってないとは思うが……ブランディルの女吸血鬼は、どうにも信用ならん!
深淵戦争の時こそ異界の軍勢を追い払った実績さえあれど……あの者が、この数百年で心変わりしておらぬと、何故に言い切れるのか!
……ヴィーナとブランディル、双方で手を組み、中央に対してよからぬコトを考えているのではないかと考える者が、少なからず居るコト、この場で申し上げておこう!!」
おお、ついに言っちゃったわね……!
やっぱり、ヴィーナとブランディルが都市同盟を結んだのを面白くないと思ってる人、居たのねえ……まあ、片田舎の自治領が急速に発展して、じゃんじゃんお金を儲けてインフラや交通手段も整備しているなんて、生意気だ! ……ってのが、本音なんでしょうけど。
「(……さて、ナタリア様はどう答えるのかしら?)」
ーーー返答次第では、初参加ながらヴィーナは完全に"詰む"でしょうね。
いわゆる「オメーの席ねーから!」をリアルでやられるのは、結構クるものがありそう……明日からの二日目の会議で、ナタリア様は発言権はおろか、席さえ用意してもらえないのは確実……!
「(こんな時のため、有力貴族の奥方達を通して根回しをしておいたけど……)」
……まだ誰も助け舟を出す様子もない。
「(これくらい、自力で切り抜けられなければ貴族連合に参加する資格なし……ってコトね)」
……試されてるわよ、ナタリア!
さあ、どうする……!?
「……では、直接シェリル女公爵とお会いして、お聞きになったらいかがでしょうか?」
「な、なに……!?」
瞬間。
予想外のナタリア様の反応に、中年貴族の顔が一気に強張ったのが理解った。
「夏の終わり頃、ヴィーナとブランディルの鉄道開通一周年を記念した式典に、シェリル女公爵がゲストで我が領地に参られます。
……その際、懇談の機会をこちらでセッティングさせていただきますので……どうぞ、お好きなだけシェリル女公爵とお話されるとよいかと存じます。
『あなた、本当にヴィーナと組んで、アーメリアの転覆を目論んでいるんですか?』
ってね。
……もっとも、それで女公爵の怒りを買い、そちらのお命と領地が失われても、我がヴィーナ家は一切関与いたしませんので、悪しからずお願いいたしますわ」
「な……な……!」
うわー……みんなが見てる前で、言っちゃったわあ……。




