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アラサー勇者パーティ、全員独身。~世界を救ったので、私たちそろそろ婚活しようと思います。  作者: 依那 瑞希
第2章 大戦士ニトの場合

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第9話


 一足先に店に入っていたニトとロドリゴはすでに座席に座っており、


「しかし、予想外でした。ニト様と言えば、世界最強の戦士。それがこんなに可憐なお方だったとは」

「まあなー! 今日のために美容院とやらも言ったし」


 ニトがにかっと笑う。


「ありゃー、もう練習の意味はないわね」

「いや、しかし。逆にいいんじゃないか。お互いリラックスしてそうだぞ」


 レゼリアたちは、無事近くの席へと陣取り、ニトの様子を伺う。


「ははは、私も嬉しいですな。ニト様が私如きのために、わざわざ美容院まで行ってくださるなんて」


 ロドリゴは謙虚に笑ったのちに、店員を呼びよせ問いかける。


「この店のおすすめはなんでしょう?」


 問いかけられた店員はメニューを示し、


「はい。本日は新鮮なトロナ肉が入っておりますので、ステーキがお勧めでございます」

「では、それを二つ。ニト様、お酒は大丈夫ですかな?」

「もちろん、行けるぞ」


 ニトが返すと、ロドリゴもにっこりと笑い、


「では、肉に合うお酒を二人分、お願いする」


 店員がかしこまりましたと、一礼し去っていくと同時に、再びロドリゴがニトに語りかける。


「では、改めて、自己紹介を。ロドリゴ・デ・フレトーニ。いまは小さなレストランをやっております」

「俺……じゃなかった、えーっとわたくしはニトでございます。えーっと、趣味は生け花とお茶を少々…… ですわ!」

「ははは、生け花とお茶ですか! ところで、ニト様、休みの日はどんなふうに過ごしているのでしょうか?」

「そりゃあ、みんなで飯に行ったり! だな!」

「それはいい。ニト様は、ご飯が好きなのですな?」

「ああ! 俺の生きがいは食べることだからな! そういえば、お前も料理得意って聞いたぞ!」


 ニトが食いつくように語りかける。


「ちょ、ちょっと、ニト! いきなりお前って!」

「まあまて、アルル。ロドリゴ殿も笑っているし、いいではないか」

「そうですわね。少なくともこないだのアルルよりはよっぽどいい感じですわよ」

「ちょっと、ローナどういうことよ」

「わたくしは事実を述べただけですわ」

「おい、二人とも。ここで争ってどうする」


 レゼリアが仲裁し、なんとか二人の言い争いも収まる。


「ははは! そうですな。まあ、人よりは少々、得意と言ってもいいかもしれません」

「俺、ロドリゴの料理も食べてみたいぞ!」

「それはまた次の機会にですな。今日はせっかくのトロナ肉がありますから。……っと、ちょうど来たようですぞ」


 店員が二人、ワゴンを押しながら、ニトのテーブルへと近づいてくる。

 テーブルのすぐ近くにワゴンを寄せ、直後、ワゴンを開けると同時に周囲に芳醇な油の香りが一気に広まる。


「こちらが、トロナ肉のステーキとなります」

「なんだこれ! こんなすげえ肉、はじめて見たぞ!」


 興奮を隠し切れないニト。

 店員が皿を差し出すと同時に、ニトは肉にかぶりつく。

 同時に、口から一気に肉汁がこぼれ出て——


「うんめええええ!」


 ニトの大きな声が響き渡る。


「ちょっと、ナイフとフォーク、せっかく練習したのに! それに、あれじゃマナーもへったくれもないじゃない!」


 思わず頭を抱えるアルル。

 だが、


「ははは。そこまでおいしそうに食べる女性を私ははじめて見ました」


 ロドリゴは、出された肉に手を付けず、相変わらず、穏やかに笑っていた。


「? ロドリゴ、食べないのか?」


 ニトが問いかける。


「食べますよ。ですが、まずは香りを楽しみたいのです」


 穏やかに笑みを浮かべたまま、ロドリゴは皿に顔を近づけ、


「これは…… なんの香りでしょうか? スパイスが深みを与えておりますね」

「……?」


 ニトが不思議がって見ていると、ロドリゴは一人深く頷き、


「では、私もいただきましょう」


 ロドリゴは、ナイフとフォークを手にし、トロナ肉を小さく切ったのちに、静かに口へと運ぶ。


「これは、味も深みがあり、非常においしいですね!」

「うめえよな! これ!」

「ええ、とても」


 ニトもロドリゴも目をキラキラとさせ、笑っていた。

 そんな様子を陰から見ていたレゼリアもまた、安堵したように笑い、


「どうやら、取り越し苦労だったようだな」

「……釈然としないわね」

「いいじゃないですか、アルル。うまくいっているのは」

「そうだけど、ちょっと納得がいかないって言うか」

「ははは、だがニトが楽しそうなのが一番だろうさ」


 こちらもまた穏やかなムードが漂っていた。


「ところでよ、ロドリゴ。ロドリゴは強いのか?」


 ニトが肉を食べていたロドリゴへと問いかける。

 ロドリゴは一瞬固まったように止まったが、再び笑みへと戻り、


「お戯れを。ニト様は世界最強の戦士。あなたよりも強い戦士なんておりませんよ。しかし、どうしてそのようなことをお尋ねに?」

「まあ、俺、強い奴が好きなんだ!」


 と、ニトが悪びれなくカラッと笑う。

 同時に、ロドリゴが少し複雑な表情へと変わる。


「俺の気のせいだったかな。なんか、ロドリゴからは強そうなにおいがしたんだけどな!」


 ニトが残念そうに言ったのち、ロドリゴは苦笑いを浮かべ、ゆっくりと語りだした。


「……ニト様には敵いませんな。ええ、かつてニト様が魔王を倒す前、私は王宮に使える兵士でした」

「やっぱりつええじゃねえか!」

「……恥ずかしながら、当時、私は自分の強さに自信がありました。周りの誰にも負けたことはなかったし、兵士の能力試験でもトップだったので」


 ロドリゴは自嘲するように笑う。


「ですが、いざ実戦を迎え、魔王軍を目の当たりにしたとき。私は自分が死に怯えていることを自覚してしまったのです。訓練でできていたはずのことが何一つできなかった。気がついたら私は、仲間を見捨て、一人逃げていました」


 ロドリゴは酒をグイっと飲み干し、さらに語る。


「……私はニト様と違って、仲間を見捨て一人生き残った、ただの臆病者だったのです。王都に帰ってきて、恥ずかしくて誰にも会うこともできず、一人外れでこっそりと小さな料理店をして…… 私は今日まで隠れて生きてきました」


 ロドリゴは自嘲するように笑いながらニトを見る。

 すると、ニトは、


「まー、逃げたのはよくないかもしれないけどよー! 別にもういいじゃねえか。世界は平和になったんだし。それにそりゃ魔物を前にしたらこえーだろ!」

「……確かにニト様たちのおかげで世界は平和になりました。ですが、私の背中には、ずっとあのとき見捨てた仲間たちが、とりついているのです」


 と、そんな様子を見ていたレゼリアたちは、


「おい、なんか雰囲気が変わって来たぞ! どうする!?」

「どうするったって! 逆にどうすればいいのよ!」

「ああ…… ロドリゴさまに、神の慈悲を…… 彼に罪はないのです…… 罪はすべて魔物が……」


 と言っていた時のことだった。

 急に店の外から悲鳴が聞こえてきて——


「キャー!!!! 魔物よ!」


 女性の声と同時に、一気に店の中がパニックへと変わった。



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