第8話
約束の日。
繁華街の一角、レストラン『デルフィーノ』の前では、ピンク色のワンピース姿のニトを中心に、レゼリアたちが円陣を組んでいた。
最初に言葉を発したのはアルル。
「いい? ニト。相手と約束しているのは、このレストランよ。あと三〇分だから、ここでおしとやかに待ってなさい」
「俺、おしとやかに待つ!」
「いいわ。相手の名前は『ロドリゴ』よ。いい? ロドリゴ」
「俺、覚えた。『ロドリゴ』!」
「オッケーね! 今日は斧も鎧も持ってない!」
「持ってない。だけどショートナイフはある!」
と、懐からニトはショートナイフを取り出すも——
「そんなもんいらないわ。はい、没収」
「あー! 返せ! 俺の武器!」
「武器なんていらないわ! デートなのよ!」
「でも、ガーゴイルが襲ってきたらどうするんだ」
不安げに呟くニトに向かって、レゼリアがあっけらかんと言う。
「大丈夫だ、ニト。ニトなら素手でも倒せるだろう?」
「まあ、それはそっか! 噛みつけばいいんだな!」
「ニト、噛みつきは禁止よ」
「えー…… じゃあどうしたら……」
「大丈夫。もし、ガーゴイルが来ても、レゼリアがいるわ。だから、今日は安心して淑女になるのよ」
「……しかたねえ。レゼリア、頼んだぞ」
「ああ、任せておけ」
「で、レゼリアとローナは事前の作戦通り、陰で待機。わかっているわね」
今度はアルルがレゼリアとローナに向かって声をかける。
「ああ、準備万端だ」
「私も、オッケーですわ」
「いい!? これが私たちの初陣よ! 後悔のないように、みんなが全力で取り組むこと!」
アルルが高らかに叫んだところで、レゼリアが冷静に突っ込む。
「いや、ちょっと待て。初陣はこの前アルルがやったのでは」
「そうですわ。二戦目です」
「それは…… 細かいことはいいのよ! とにかく、全員が全力を尽くすこと、いいわね! えいおー!」
「「「えいおー!」」」
なんて叫ぶ四人。
「何かしら? 昼間っから」
「おかーさん、なんか変な人たちがいるよ」
「しっ、見てはいけません」
行き交う人たちは、そんな冷たい視線を、円陣を組む四人に向けていた。
◆
物陰からニトを見守る三人。
「そろそろかしら」
約束の時間も間近へと迫った頃、アルルが口を開く。
「しかし、こう陰でこそこそとするのも楽しいものだな」
「そうですわね。なんだか悪いことをしているようで……」
「あ、来たわよ!」
とアルルが言う。
店の前で待つニトのもとに、黒い短髪に、おしゃれなあご髭が特徴的な、少しダンディーな男性が近づいていき——
「あなたが大戦士ニト様ですか?」
ピンク色のワンピースに身を包んだニトに向かって話しかける。
そんな様子を陰から見ていたアルルが、
「お願い。ちゃんと練習通り……」
祈るように呟きながら見つめていると——
「はい。初めまして、ロドリゴさま。わたくしがニトでございますわ」
ぺこりと小さく一礼をするニト。
陰で見ていた三人が歓喜に湧く。
「おお、アルルどうやったんだ!? あのニトが敬語を使っているぞ!」
「ふふ。たくさん練習したから当然よ」
「驚きましたわ。いまのところ完璧ですわね!」
さらに三人の注目がニトへと注がれる。
「ニト様初めまして。私はロドリゴ。本日はどうぞよろしくお願いいたします」
「ええ、わたくし、ロドリゴさまとお会いできるのを心より楽しみにしておりましたのですわ」
「ははっ、それは大変うれしゅうございます。しかし、ニト様。どうか今日は緊張なさらず、お話しいただけると嬉しいです」
なんて、ロドリゴが笑う。
「そ、そうか…… いや、ちがう…… そう…… ですか?」
なんて、ニトが戸惑っているようだった。
「おい、もうぼろが出そうだぞ!」
「仕方ないじゃない。アドリブまでさすがに無理だったのよ!」
「ニト…… なんとか我慢してください……」
必死に祈るローナをよそに、ロドリゴはニトをほほえましく見て——
「ははっ、まあ最初は緊張して当然です。私も緊張していますし、どうでしょう? さっそく食事でも? 話題も広がるでしょうし」
と、ロドリゴが店内へとエスコートする。
「おお、じゃあ、よろしくお願いする!」
店内に入っていくロドリゴとニト。
「もう、無理そうだが……」
「仕方ないわ。あとはもう出たとこ勝負よ! さあ、私たちも行くわよ」
「そうですわね。突撃ですわ!」
ニトたちに遅れて、レゼリアたちも店へと入る。




