第10話
「魔物!? なんで!?」
「こんな王都の真ん中に!?」
「逃げないと!」
そんなパニックの中、ニトが立ちあがり、
「魔物!? どこだ!」
ニトは真っ先に出口へと向かう。
「ニト様、私も!」
ロドリゴも付いていこうとするが、
「ロドリゴ、危ねえから中にいろ!」
「いえ! 私も行きます!」
ニトに続いてロドリゴも外に出る。
「おい、私たちも行くぞ!」
「ええ!」「はい!」
連れてレゼリアたちも外へと向かう。
レゼリアたちが外に出ると、通りは大パニックになっており、空には一体の黒い影があった。長いスピアを持った紫色の悪魔。ガーゴイルである。
その姿を見るなり、ローナが叫ぶ。
「ガーゴイル!? こんな王都の真ん中に!?」
「魔王軍の生き残りか!?」
「ちょっと、こんなフラグ回収はしなくていいのよ!」
アルルもまた焦ったように叫ぶ。
一足先に外に出ていたニトとロドリゴはガーゴイルと相対していたが、
「おい、ロドリゴ足が震えてるぞ」
「ええ。やはり、私は怖いようですな」
「まあ、大丈夫だ。俺がいるからな。この斧があれば……」
と、ニトが背中に手を伸ばすも——
「あれ? ねえ! 俺の斧がねえぞ! ってそうだった! 今日は『でえと』だから、もってねえんだ!」
一人ニトがパニックに陥っている間に——
道では泣きながら歩いている小さな少女がいて——
「うわあああああん! おがあさん! どこ!」
「けけけ! 美味そうなガキがいるなあ!」
と、ガーゴイルが少女に気づいたようだった。
「ニト! 馬鹿! 何やっているのよ!」
「ここからではさすがに間に合わないぞ!? アルル、魔法は!?」
「無理よ! こんな街中で魔法なんて放ったら、それこそ死人が数百人出るわ!」
アルルやレゼリアが動こうとするも、少女まではだいぶ距離があり——
「ニトは!?」
「こけてるわ! 慣れない靴のせいで!」
ガーゴイルに向かおうとしたのだろうが、慣れないハイヒールのせいか、ニトは地面に転んでおり、ピンクのワンピースは土まみれになっていた。
「だめ! 間に合わない!」
アルルが声をあげた瞬間——
「いや、まだだ!」
レゼリアが声をあげる。
視線の先。
少女の前には、ロドリゴが仁王立ちしており——
「ああ!? てめえはなんだ!?」
ガーゴイルがロドリゴに向かって言う。
「この子に手を出すな!」
ロドリゴが声を張り上げるも、両の脚はぶるぶると小刻みに震えており、
「きゃははは! なんだてめえ、足が震えているぞ!」
ガーゴイルがスピアを構え、ロドリゴへと迫る。
「くっ、ここまでか……」
だが——
次の瞬間、ロドリゴは気がついた。
自らの身へと迫るガーゴイルの背後——空中に、もう一人の影があることを。
それは、歯をむき出しにしながら、笑みを浮かべ飛びかかってくる一人の女。
ピンク色のかれんなワンピースだけでなく、ヒールを脱ぎ捨てた足をも、砂まみれにし、彼女はなお笑顔で飛び込んできた。
「……ニト様」
目を見開いて、固まるロドリゴ。
ガーゴイルがその影に気がついた時には、時すでに遅し。
「がぶっ!」
ニトの歯が、ガーゴイルの右肩付近へと突き刺さった直後——
ニトが噛みついた部分が破裂し、ガーゴイルの右腕がちぎれ、血しぶきがあがる。
「き、貴様! なにも……」
右腕を抑えながら膝をついたガーゴイル。
ガーゴイルを見下すニトは、血しぶきを浴び、笑っていた。
「かっこよかったぞ、ロドリゴ。ここからは俺に任せろ!」
ニトが一気にガーゴイルとの間合いを詰め、まるで猿のように飛びかかり、そのまま再び食らいつく。
「ぐぎゃあああああああああああ!」
ガーゴイルの叫び声が響き渡った直後——
辺りは血の海に変わり——
その中央で、全身に真っ赤な血しぶきを浴びたニトが立っていた。
「なかなかうまかったぞ、ガーゴイルも!」
血まみれになり赤く染まったワンピースを着ていたニトは、無邪気に笑っていた。




