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アラサー勇者パーティ、全員独身。~世界を救ったので、私たちそろそろ婚活しようと思います。  作者: 依那 瑞希
第1章 大魔法使いアルルの場合

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第6話


 翌日。

 アーデハルト王国、王都アーデンヴェルク。

 王都の片隅にある結婚相談所にて。


 世界を救った四人の英雄たちが受付に向かっていた。


「では…… 次のお方…… って、勇者様!?」


 レゼリアたちの姿を見るなり、受付の女性が驚きを示す。


「……ああ、わけあってな」

「今日は、ローナを登録しに来たのよ!」


 レゼリアの言葉にかぶせるように、アルルが声をあげる。


「大僧侶ローナさまをですか? しかし、ここで登録しなくてもローナさまなら、いくらでもお相手が……」

「いいえ! これは経験なのよ! ローナは自分で相手を探したいって!」


 アルルが強気に声をあげる。


「そんなこと言ってないんだけどなあ……」なんて、ローナのささやきもむなしく、受付の女性が、ローナへと一枚の紙を差し出す。


「わかりました。では、まずこちらを書いてください」

「なんでしょうか、これは?」


 ローナが問いかける。


「事前相談シートです。お相手の方を探するにも、ローナさまの情報や、どんな方を望まれているのかの情報を知る必要がありますので」

「……なるほどですわ」


 ローナは紙を受け取ると、さっそく羽ペンを手に記入をはじめた。


「えーっと。名前は…… ローナ・ファーエンド・ル・デルトナ。年齢は二七歳で…… 身長も必要ですの?」

「ええ、身長も重要な判断基準ですので、記入をお願いします」


 と、受付の女性が言う。


「しかし、身長なんてどうして重要なんだ?」


 レゼリアが小声で、隣にいたアルルへと問いかける。


「さあ。どうでもいいと思うけれど」


 そんなやりとりが聞こえたのか、受付の女性が補足してくれた。


「もちろん、好みというのもありますが…… それよりも、婚活をするということは、つまり結婚相手を探すということです。結婚すれば、いずれは子育ても考えることになります。そうなったときに、身長は子供の体格にも関わってくるらしいので…… 重視するお客様が多いのです」

「な…… 子どもですの!?」


 と、顔を真っ赤にするローナ。


「なるほど、でかい奴と結婚した方がつええ子供ができるってことか!?」


 ニトが笑顔で大声を放つ。


「ローナ、アンタなんでそんな顔を真っ赤にしてるのよ」


 アルルはローナの反応見るなり、呆れたように言う。


「アルル、あなた子供がどうやってできるのか知っているの!?」

「知ってるけど…… というか、当然じゃない?」


 平然と返すアルル。


「レゼリア様は!?」


 今度はローナがレゼリアに問いかける。


「え、フェニックスが運んできてくれると聞いたが……」

「はあ? レゼリア、二七にもなってそんな子供騙しの話を信じているの!?」


 アルルがため息をつく。


「いい!? 子どもはね、愛し合う二人が、××して、△△して、ピーするのよ!」

「アルル! こんな公衆の面前で、そんな大声で!」


 ローナが真っ赤になった顔を両手で覆い隠しながら、大声をあげる。


「ほう? ピーとはなんだ?」


 真顔でレゼリアが、尋ねるも——


「あ! ローナさま、記入の続きを!」


 顔を赤くした受付の女性が、ごまかすようにローナに声をかける。


「そ、そうですわね! では…… 職業は…… 僧侶と」

「待ってくれ! ピーってなんだ!」


 と、レゼリアが不満げに言うも——


「えーっと…… 次は、趣味ですね、ローナさま、ご趣味は?」

「はい、私、趣味は人間観察ですのよ、おほほほ」


 なんて、受付の女性とローナは二人でごまかすように会話を続ける。


「ピーってなんだ。気になるだろ! 教えてくれ!」

「それ、美味いのか? 食えるのか?」


 と、レゼリアとニトがローナの背後にまとわりつく。


「だから、言ってるでしょ! ピーは、〇〇して、~~して……」


 と、さらにアルルも恥じらいもなく大きい声をあげる。


「あーー! もう、うるさいですわ!」


 ついに我慢の限界を迎えたローナが、勢いよく立ちあがる。


「いいですこと!? 婚活をするにも、まずは奥ゆかしさが大事なんです! それをなんですか! こんな公衆の面前で! 大きな声で! ピーとか! 〇〇とか! ××とか! ピーとか! いい歳をした結婚を考えている女性が、ピーなんて、外で大きな声で言うもんじゃないです!」


 まくしたてるようにローナが言う。


「いや…… ローナが一番大きな声でピーって言ってる……」


 たじたじになったアルルが言いかけるも——


「何か言いましたか、アルル」

「いいえ、すいませんでした」


 アルルはそのままうつむき、何も言わなくなった。


◆


「で、次はお相手に求める条件になります。まずは、年齢から……」


 自分の情報を記入し終えた後、ローナに向かって受付の女性が案内する。


「年齢ですか? まあ、同じくらいの年齢がいいですが……」

「年上や年下の希望はありますか?」

「……特に。まあでもあまりに離れているのはちょっと……」

「わかりました。では、上下五歳くらいにしておきます。身長のご希望はありますか?」

「特にありませんわね」

「わかりました、希望なしと。では年収やお仕事は?」

「……特にありませんわね。生活には困っていませんので」

「わかりました。では、相手のご趣味は?」

「……特にありませんわね」

「……ローナさま。先ほどから『特にありません』ばかりですが、本当に大丈夫ですか?」


 心配した様子で受付の女性がローナへと問いかけるも、ローナもまた困惑した様子だった。


「そう言われましても…… 殿方に求める条件と言われても、いまひとつぴんと来ないのです。しいて言うなら性格が重要かとは思いますが」

「なるほど。どのような性格がよろしいのでしょうか?」

「お優しい方ですわ」

「わかりました。同じくらいの年齢で優しい方……」

「ちょっと、子供じゃないんだから…… 相手に求める条件が優しい、だけってどうなのよ」


 アルルが呆れたように呟く。


「で、ですが! 本当にわからないのです! だって、別に生活には困っていないし、そうなると優しいくらいしか私には!」

「ま、まあ。実際にお会いしてみないとわからない部分が多いですから! それにこの条件なら紹介できそうな男性はたくさんいますし」


 と、受付の女性がフォローするように声をかける。


「だが、そんな具体的な相手の顔も見えないのに、本当に見つかるものなんだろうか。それこそ広い海で金を探すような話だが」


 レゼリアがぽつりとこぼす。


「わ…… 私、駄目なんでしょうか…… やっぱり……」


 ローナが泣き出しそうな表情で声を漏らす。


「駄目ではありませんよ! ぜんぜん! 相手を絞らない方がいろいろなお方とお会いできるので! それに結婚について考えているうちに、相手に求める条件も変わっていくものですよ!」

「相手に求める条件が変わっていく?」

「ええ。きっと、まだローナさまは、具体的な結婚生活のイメージができていないだけだと思います。まずは考えてみてください。いまの生活の中で、誰かと一緒に暮らしているところを」

「わかりました。誰かと一緒に暮らす…… ですね」


 受付の女性の指示に従って、ローナが目を瞑って考えはじめた。


「そうなると、いろいろなことをその方と一緒に過ごすことになります。楽しいことも辛いこともあるでしょう。ご飯を作ったり作ってもらったり、一緒に食べたり、そういうところを想像してみてください」


 目を瞑ったままのローナ。

 すると、アルルがローナの耳元へと近寄っていき——


「一緒に〇〇して、ピーして」


 ローナの顔が一瞬で紅潮し、


「……アルル」

「大事なことじゃん!」


 誤魔化すように笑うアルルを尻目に——


「……そうですね。私、優しいだけではなく、激しいのがいいですわ。それも体力のある殿方で」


 ローナがぼそりと呟く。


「この俗物神官め」


 アルルもまた小さな声で呟いた。


◆


 無事にローナの手続きも終わり、結婚相談所を後にした四人。


「しかし、疲れましたわ。婚活とは大変なのですね」


 ローナが肩をなでおろしながら声を漏らした。


「そうね。まあ、でも登録はできたし、次はニトの話ね!」

「俺の話か? そういえば、婚活の話はどうなったんだ?」


 アルルへと問いかけるニト。


「昨日、さっそく返事をしたところなのよ。もう少し……」


 すると、アルルへと一羽の白い鳥が飛んできて。

 鳥の足には小さく丸められた紙が結ばれていた。


「あら、ちょうどお返事じゃない?」


 届けられた手紙に目を通し、アルルがニトに向かって告げる。


「よかったわね。一度お会いしましょうって」

「お! で、いつだ?」

「そうね。向こうからは五日後、六日後、七日後であれば都合がいいって書いてあるけど」

「俺はいつでもいいぞ! アルル決めてくれ!」


 と、ニトがにっかりと笑う。


「わかったわ。じゃあ六日後で返しておくわね」


 アルルは懐から小さな筆ペンを取り出すと、ささっと、紙に記入し、再び鳥の脚に手紙を結びなおす。その後、「じゃあ、よろしくね」と、鳥を空へと送り——


「そうと決まったら、ニトの準備ね」

「準備っていったって、何からするんだ?」


 ニトが言う。


「そりゃあ、せっかくのデートなんだから、服をどうするかとか、髪型をどうするのかとか! せっかくだから上品なドレスとか準備したり!?」

「しかし、アルル。ニトの場合、むしろ着飾らない方がいいのではないか?」


 レゼリアが言う。


「どういうことかしら?」

「いや、こないだアルルの婚活を見ていて思ったんだが、結局その人の素を見なければ、何も進まないのではないかと思ってな」

「……そうかもしれないけれど、でも第一印象って重要じゃない?」

「もちろん。だが、じゃあ今後ニトが仮に相手と交友を深めるとして、毎回そんなドレスを着たりするだろうか? それよりも自然体の、ありのままのニトを受け入れてくれる相手の方がいいのでは?」

「そうだな、俺もありのままの方がいいな!」

「だけど、いくらありのままって言っても、さすがにデートに斧とか持ってこられたら、相手だってたまったもんじゃないわよ」

「そうだな。言われてみれば、私もデートの作法とか知らないし…… だから、どうだろうか? 服の準備とかも大事かもしれないが、まずはデートとはどんなものか、というのを教えてくれないか、アルル?」

「ですが、レゼリア様。私もその考えには賛成ですが、教わるのがアルルで本当に大丈夫なんでしょうか?」


 ローナが不安げに言う。


「なによ、私に文句あるわけ?」

「だって…… 私たち、結局みんな恋愛経験なんてないわけで……」

「しかし、こないだは失敗こそしたが、結局モーリス殿との縁もできたのだし、やはりアルルが一番経験があるのではないだろうか?」

「それはそうですが……」

「まあ、そういうことね。大船に乗ったつもりで聞きなさい。すべてうまくいくわよ」

「自信満々だな」

「それが不安なんですよ」

「ほら、そうと決まったら、さっそく行くわよ。レッスンスタートよ!」


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