第6話
翌日。
アーデハルト王国、王都アーデンヴェルク。
王都の片隅にある結婚相談所にて。
世界を救った四人の英雄たちが受付に向かっていた。
「では…… 次のお方…… って、勇者様!?」
レゼリアたちの姿を見るなり、受付の女性が驚きを示す。
「……ああ、わけあってな」
「今日は、ローナを登録しに来たのよ!」
レゼリアの言葉にかぶせるように、アルルが声をあげる。
「大僧侶ローナさまをですか? しかし、ここで登録しなくてもローナさまなら、いくらでもお相手が……」
「いいえ! これは経験なのよ! ローナは自分で相手を探したいって!」
アルルが強気に声をあげる。
「そんなこと言ってないんだけどなあ……」なんて、ローナのささやきもむなしく、受付の女性が、ローナへと一枚の紙を差し出す。
「わかりました。では、まずこちらを書いてください」
「なんでしょうか、これは?」
ローナが問いかける。
「事前相談シートです。お相手の方を探するにも、ローナさまの情報や、どんな方を望まれているのかの情報を知る必要がありますので」
「……なるほどですわ」
ローナは紙を受け取ると、さっそく羽ペンを手に記入をはじめた。
「えーっと。名前は…… ローナ・ファーエンド・ル・デルトナ。年齢は二七歳で…… 身長も必要ですの?」
「ええ、身長も重要な判断基準ですので、記入をお願いします」
と、受付の女性が言う。
「しかし、身長なんてどうして重要なんだ?」
レゼリアが小声で、隣にいたアルルへと問いかける。
「さあ。どうでもいいと思うけれど」
そんなやりとりが聞こえたのか、受付の女性が補足してくれた。
「もちろん、好みというのもありますが…… それよりも、婚活をするということは、つまり結婚相手を探すということです。結婚すれば、いずれは子育ても考えることになります。そうなったときに、身長は子供の体格にも関わってくるらしいので…… 重視するお客様が多いのです」
「な…… 子どもですの!?」
と、顔を真っ赤にするローナ。
「なるほど、でかい奴と結婚した方がつええ子供ができるってことか!?」
ニトが笑顔で大声を放つ。
「ローナ、アンタなんでそんな顔を真っ赤にしてるのよ」
アルルはローナの反応見るなり、呆れたように言う。
「アルル、あなた子供がどうやってできるのか知っているの!?」
「知ってるけど…… というか、当然じゃない?」
平然と返すアルル。
「レゼリア様は!?」
今度はローナがレゼリアに問いかける。
「え、フェニックスが運んできてくれると聞いたが……」
「はあ? レゼリア、二七にもなってそんな子供騙しの話を信じているの!?」
アルルがため息をつく。
「いい!? 子どもはね、愛し合う二人が、××して、△△して、ピーするのよ!」
「アルル! こんな公衆の面前で、そんな大声で!」
ローナが真っ赤になった顔を両手で覆い隠しながら、大声をあげる。
「ほう? ピーとはなんだ?」
真顔でレゼリアが、尋ねるも——
「あ! ローナさま、記入の続きを!」
顔を赤くした受付の女性が、ごまかすようにローナに声をかける。
「そ、そうですわね! では…… 職業は…… 僧侶と」
「待ってくれ! ピーってなんだ!」
と、レゼリアが不満げに言うも——
「えーっと…… 次は、趣味ですね、ローナさま、ご趣味は?」
「はい、私、趣味は人間観察ですのよ、おほほほ」
なんて、受付の女性とローナは二人でごまかすように会話を続ける。
「ピーってなんだ。気になるだろ! 教えてくれ!」
「それ、美味いのか? 食えるのか?」
と、レゼリアとニトがローナの背後にまとわりつく。
「だから、言ってるでしょ! ピーは、〇〇して、~~して……」
と、さらにアルルも恥じらいもなく大きい声をあげる。
「あーー! もう、うるさいですわ!」
ついに我慢の限界を迎えたローナが、勢いよく立ちあがる。
「いいですこと!? 婚活をするにも、まずは奥ゆかしさが大事なんです! それをなんですか! こんな公衆の面前で! 大きな声で! ピーとか! 〇〇とか! ××とか! ピーとか! いい歳をした結婚を考えている女性が、ピーなんて、外で大きな声で言うもんじゃないです!」
まくしたてるようにローナが言う。
「いや…… ローナが一番大きな声でピーって言ってる……」
たじたじになったアルルが言いかけるも——
「何か言いましたか、アルル」
「いいえ、すいませんでした」
アルルはそのままうつむき、何も言わなくなった。
◆
「で、次はお相手に求める条件になります。まずは、年齢から……」
自分の情報を記入し終えた後、ローナに向かって受付の女性が案内する。
「年齢ですか? まあ、同じくらいの年齢がいいですが……」
「年上や年下の希望はありますか?」
「……特に。まあでもあまりに離れているのはちょっと……」
「わかりました。では、上下五歳くらいにしておきます。身長のご希望はありますか?」
「特にありませんわね」
「わかりました、希望なしと。では年収やお仕事は?」
「……特にありませんわね。生活には困っていませんので」
「わかりました。では、相手のご趣味は?」
「……特にありませんわね」
「……ローナさま。先ほどから『特にありません』ばかりですが、本当に大丈夫ですか?」
心配した様子で受付の女性がローナへと問いかけるも、ローナもまた困惑した様子だった。
「そう言われましても…… 殿方に求める条件と言われても、いまひとつぴんと来ないのです。しいて言うなら性格が重要かとは思いますが」
「なるほど。どのような性格がよろしいのでしょうか?」
「お優しい方ですわ」
「わかりました。同じくらいの年齢で優しい方……」
「ちょっと、子供じゃないんだから…… 相手に求める条件が優しい、だけってどうなのよ」
アルルが呆れたように呟く。
「で、ですが! 本当にわからないのです! だって、別に生活には困っていないし、そうなると優しいくらいしか私には!」
「ま、まあ。実際にお会いしてみないとわからない部分が多いですから! それにこの条件なら紹介できそうな男性はたくさんいますし」
と、受付の女性がフォローするように声をかける。
「だが、そんな具体的な相手の顔も見えないのに、本当に見つかるものなんだろうか。それこそ広い海で金を探すような話だが」
レゼリアがぽつりとこぼす。
「わ…… 私、駄目なんでしょうか…… やっぱり……」
ローナが泣き出しそうな表情で声を漏らす。
「駄目ではありませんよ! ぜんぜん! 相手を絞らない方がいろいろなお方とお会いできるので! それに結婚について考えているうちに、相手に求める条件も変わっていくものですよ!」
「相手に求める条件が変わっていく?」
「ええ。きっと、まだローナさまは、具体的な結婚生活のイメージができていないだけだと思います。まずは考えてみてください。いまの生活の中で、誰かと一緒に暮らしているところを」
「わかりました。誰かと一緒に暮らす…… ですね」
受付の女性の指示に従って、ローナが目を瞑って考えはじめた。
「そうなると、いろいろなことをその方と一緒に過ごすことになります。楽しいことも辛いこともあるでしょう。ご飯を作ったり作ってもらったり、一緒に食べたり、そういうところを想像してみてください」
目を瞑ったままのローナ。
すると、アルルがローナの耳元へと近寄っていき——
「一緒に〇〇して、ピーして」
ローナの顔が一瞬で紅潮し、
「……アルル」
「大事なことじゃん!」
誤魔化すように笑うアルルを尻目に——
「……そうですね。私、優しいだけではなく、激しいのがいいですわ。それも体力のある殿方で」
ローナがぼそりと呟く。
「この俗物神官め」
アルルもまた小さな声で呟いた。
◆
無事にローナの手続きも終わり、結婚相談所を後にした四人。
「しかし、疲れましたわ。婚活とは大変なのですね」
ローナが肩をなでおろしながら声を漏らした。
「そうね。まあ、でも登録はできたし、次はニトの話ね!」
「俺の話か? そういえば、婚活の話はどうなったんだ?」
アルルへと問いかけるニト。
「昨日、さっそく返事をしたところなのよ。もう少し……」
すると、アルルへと一羽の白い鳥が飛んできて。
鳥の足には小さく丸められた紙が結ばれていた。
「あら、ちょうどお返事じゃない?」
届けられた手紙に目を通し、アルルがニトに向かって告げる。
「よかったわね。一度お会いしましょうって」
「お! で、いつだ?」
「そうね。向こうからは五日後、六日後、七日後であれば都合がいいって書いてあるけど」
「俺はいつでもいいぞ! アルル決めてくれ!」
と、ニトがにっかりと笑う。
「わかったわ。じゃあ六日後で返しておくわね」
アルルは懐から小さな筆ペンを取り出すと、ささっと、紙に記入し、再び鳥の脚に手紙を結びなおす。その後、「じゃあ、よろしくね」と、鳥を空へと送り——
「そうと決まったら、ニトの準備ね」
「準備っていったって、何からするんだ?」
ニトが言う。
「そりゃあ、せっかくのデートなんだから、服をどうするかとか、髪型をどうするのかとか! せっかくだから上品なドレスとか準備したり!?」
「しかし、アルル。ニトの場合、むしろ着飾らない方がいいのではないか?」
レゼリアが言う。
「どういうことかしら?」
「いや、こないだアルルの婚活を見ていて思ったんだが、結局その人の素を見なければ、何も進まないのではないかと思ってな」
「……そうかもしれないけれど、でも第一印象って重要じゃない?」
「もちろん。だが、じゃあ今後ニトが仮に相手と交友を深めるとして、毎回そんなドレスを着たりするだろうか? それよりも自然体の、ありのままのニトを受け入れてくれる相手の方がいいのでは?」
「そうだな、俺もありのままの方がいいな!」
「だけど、いくらありのままって言っても、さすがにデートに斧とか持ってこられたら、相手だってたまったもんじゃないわよ」
「そうだな。言われてみれば、私もデートの作法とか知らないし…… だから、どうだろうか? 服の準備とかも大事かもしれないが、まずはデートとはどんなものか、というのを教えてくれないか、アルル?」
「ですが、レゼリア様。私もその考えには賛成ですが、教わるのがアルルで本当に大丈夫なんでしょうか?」
ローナが不安げに言う。
「なによ、私に文句あるわけ?」
「だって…… 私たち、結局みんな恋愛経験なんてないわけで……」
「しかし、こないだは失敗こそしたが、結局モーリス殿との縁もできたのだし、やはりアルルが一番経験があるのではないだろうか?」
「それはそうですが……」
「まあ、そういうことね。大船に乗ったつもりで聞きなさい。すべてうまくいくわよ」
「自信満々だな」
「それが不安なんですよ」
「ほら、そうと決まったら、さっそく行くわよ。レッスンスタートよ!」




