第5話
「ねえ」
アーデハルト王国、王都アーデンヴェルク。
王都の片隅にある馴染みの酒場。
アルルは、葡萄酒の入ったグラスをテーブルへ置き、申し訳なさそうにちょこんと座る仲間たちを見回した。
「こないだの件、ちゃんと説明してもらえるかしら?」
アルルは、レゼリアへと目を移す。
「いや…… 私たちはアルルのことが心配でだな」
「で、私の婚活をみんなして妨害した、って言うわけね?」
「妨害って、人聞きの悪い……」
「そうですよ、アルル! レゼリア様はアルルの身を案じて……!」
ローナがフォローを入れようとしたその刹那——
アルルの目がぎろりと、今度はローナへと向く。
「ひぃ!」
「でもよお、結局うめえもんは食えなかったし……」
「アンタらのせいでね」
「でも、アルルが振られたのは私たちのせいじゃ……」
ローナがそこまで言いかけたところで、再びアルルのぎろりとした視線がローナへと向けられ——
「ひぃ!」
「だいたい、あの婚活は派手に失敗したけれど、またモーリスとご飯に行くことにはなったのよ!」
「なんだってご飯!?」
と、ニトが反応する。
「まあ、とりあえずは、ね。それよりも、あんたたちよ! 私はまだ次があるからいいけど、アンタたちは結局どうするのよ!」
「そのことなんだが……」
と、神妙な面持ちでレゼリアが口を開いた。
「王子からの話があったと言っただろう?」
「ええ」
「一度、王子と話してみようかと思うんだ」
レゼリアがそう言った瞬間、アルルとローナが同時に、「えっ!」と声をあげ立ち上がる。
「レゼリア様! どうして!? このローナを裏切るのですか!?」
「どういうつもり? あんた前、断るとか……」
「いや、この前のアルルとモーリス殿の件を振り返ってな。まあ、話をするくらいならいいかもなって」
「あれのどこにいいと思う要素があったのか、はなはだ疑問だけれど……」
とアルルが引いた様子で呟く。
「ふむ。アルルも、モーリス殿との食事に向けてすごく準備していただろう? 王子だってもしかしたら私との食事を楽しみにしてくれているかもしれない。だったらせめて、断るとしても、一度直接話をするのが筋なんじゃないかって、そう思ってな」
レゼリアの台詞にむすーっと、あきらかに不満げな表情を浮かべるローナ。
一方のアルルは、冷静にレゼリアに告げる。
「それはそうかもしれないけど、だからといって、王子相手にこないだみたいなことになったら、いくら勇者とは言っても、最悪、打ち首だってあり得るわよ。幸いにもこないだは出禁で済んだけど」
「そうだな。しかし、どうすれば……」
悩むレゼリア。ローナが、ぼそりと、「やめればいいのでは」と呟くも、すぐさまアルルが閃いたように続ける。
「そうだわ、みんなもやればいいのよ! で、レゼリアはそれを見て、婚活を学ぶといいわ!」
「え!? 私もですか!?」
ローナが反応する。
「そうよ、アンタもやるのよ」
言い放ったアルル。
ローナはちらっとレゼリアの方を見た後に、アルルの耳元に近づき小声でささやいた。
「しかし、私は神に誓いを立てた身。それにレゼリア様の婚活を望んでいないのに、どうして協力を……」
「そりゃ、断るにも作法が必要でしょ?」
「へ!?」
「レゼリアは『断るにも』と言っていたわ。で、相手は王子。つまり、男相手にメンツをつぶさず断る方法を学ばなきゃならないのよ」
熱弁するアルル。
「うー…… でしたら、仕方ありませんわね」
「アルル、ローナ。さっきからこそこそと何を話しているんだ?」
レゼリアが問いかける。
「あ、いえ! たいしたことではないですのよ!」
「ローナも婚活に興味を持ったってさ」
「ほう! しかし、そんなこそこそしなくても」
「神に誓ったからって…… そういうところはローナは律儀なのよ。レゼリア、アンタだってよくわかってるでしょ!」
アルルがフォローするように言う。
「ところで、婚活すると言っても相手はいるのか? 一人では婚活もできないだろう? ローナ、知り合いで心当たりはあるのか?」
と、レゼリアが問いかける。
「当然、いませんわね」
と、冷静にローナが返す。
「というかよ、知り合いにあてがあるんだったら、そもそも婚活をする必要がないじゃない」
アルルも冷静に続ける。
「……それもそうだ」
「残念なことに、私もぜんぜん候補はいなくてね。まあ、モーリスとはまた会うつもりだし、もう一人、話が来ていた人だったら、紹介できるけれど……」
「しかし、ならばどうするというのだ? 心当たりはあと一人しかいないんだろう?」
「そうね。新たに誰かに紹介してもらうか…… 結婚相談所に相談するのよ」
アルルが葡萄酒を飲みながら言う。
「結婚相談所? そんなものがあるのか?」
「ええ。そこに名前を書けば、私たちならたくさん集まってくるでしょうね。まあ、ろくでもない奴らもたくさん来るだろうけれど。じゃあそれはローナ担当ということで」
「え!? わたくしが!? どうしてですの!?」
「だって、その方が面白そうだし……」
「アルル! あなた人をなんだと思っているの!」
「でも、ニトが人を見抜ける目があると思う? 私が紹介できるのは一人しかいないし……」
アルルが苦笑いしながら、ニトを見る。
みんなの会話中も一人、肉に食らいついていたニト。
「ん? なんだ? 美味いもんの話か?」
「……そうですわね」
「だから、ニトには私に話を来ていたもう一人の人を紹介することにするわ。んで、ローナは結婚相談所に登録して、相手を見つけるのよ。大丈夫よ、ローナなら、変な男も見分けられるでしょ?」
「え!? 俺もやるのか!? その婚活とやら!」
「アンタ、全然話聞いていないのね」
アルルがため息を吐く。
「んで、そいつはつええのか?」
「強いかどうかはわからないけれど…… その人は料理人らしいわ。だから、旨い料理は作ってくれるわよ。きっと……」
「え! じゃあ、やる! 飯!」
「本当に大丈夫なのか? その相手の人、そもそもアルルとお話ししたかったのでは?」
レゼリアが問いかける。
「まあ、少なくとも相手だって結婚に興味があるわけで、真剣に将来を考えているんだから、別にニトだってかまわないでしょ? もちろん、事情はちゃんと話すわよ」
「おい! んで、俺はどうすればいいんだ!」
と、ニトが葡萄酒を流し込みながら無邪気に言う。
「ああ。まあ、そこら辺のセッティングは私がするわ。とりあえず、アンタは待っときなさい。あ、ローナもとりあえず明日にでも登録しに行くわよ」




