第3話
「あの! 今日はモーリス様とお会いできるのを楽しみにしていました!」
席に着くなり、背筋をピンと伸ばし、アルルが言う。
「えーっと、僕も…… です。かの有名なアルルさんとご同席できるなんて、大変光栄ですから……」
「ええ! もう楽しみにしていて、服装も気合を入れてきましたので!」
おほほほ、と高笑いをするアルル。
「……おい、アルルがおほほなんて笑っているところ、見たことあるか?」
「ないですわね。あれは舞い上がっておりますわね」
と、二つ隣の席で小声でレゼリアとローナが会話する。
「しかし、なかなか純朴で素直な男ではないか。まあ、ニトに言わせれば弱いと切り捨てられるかもしれんがな」
「そうですわね。お優しそうですし、気の強いアルルには、ちょうどよさそうですわね」
こそこそと様子を伺いながら、レゼリアとローナが会話する。
その間にもアルルたちのテーブルにも食事が届いた。
「うわあ、なんて美味しそうなのですわ!」
レストラン中に響くような、アルルの大きな声が響く。
一斉に周りの客たちがアルルたちの方を見つめるが、当のアルルは気づいていないようで—— モーリスは注目されていることに気づいたのか、顔を真っ赤にしていた。
「あ、あの…… アルルさん、ちょっとお声が大きいというか」
「え…… あ、ああ! ごめんあそばせ! おほほ」
誤魔化すように笑うアルル。
そのまま、アルルはモーリスに向かって問いかける。
「ところで、モーリス様。お休みの日はどんなことをしていらっしゃりますの?」
「え、僕の休みですか? えーっと…… そんなに面白くないですよ。近所を散歩したり、読書したり…… ですかね」
「あら! 奇遇ですわね! わたくしも読書は好きですの! 世界魔法大全とか、闇魔法の書物とか、よく読みふけって朝になってしまうことも多いですのよ! モーリス様はどんな書物をお読みになられるの?」
「えーっと、特にこれといった好きな本とかはなくて…… その時の気分で適当に…… とか……」
「ま、まあ! 私も気分でいつもと違う本を読むことはありますから! あ、モーリス様。飲み物がもう空のようですが、何か追加で飲まれますか?」
モーリスの空になったグラスに気づいたアルルが、メニューを示しながら言う。
「あ、えっと…… 僕はなんでもいいので……」
「なんでも…… では、先ほどと同じ葡萄酒でよろしくて?」
「あ、ええ。じゃあそれで……お願いします」
そんな二人の会話を見ていたローナが呟く。
「ぜんぜん盛り上がっていませんわね」
「ああ、無理しているな。お互いに」
「大丈夫かしら、アルル短気ですから……」
「まあ、いざとなれば私が出よう」
「ですが、レゼリア様が出張ったら、余計ややこしいことになるのでは?」
なんて、こそこそとレゼリアとローナが会話をしている間にも、アルルのデートは続いていく。
「このレストランは、お肉と葡萄酒がおすすめですのよ! ところで、モーリス様はお好きな食べ物はありました?」
アルルが、葡萄酒片手に問いかける。
「好きな食べ物ですか? うーんと、なんだろう。あんまり意識したことがないので…… しいて言うならパンとか…… ですかね?」
「パンは私も好きですわ! どうでしょうか、モーリス様! せっかくですから、パンも追加でオーダーしませんこと?」
提案をしたアルル。モーリスはもごもごと小さな声で答える。
「あ…… 僕はどっちでも…… 大丈夫です」
アルルの表情が少し引き攣ったものへと変わり——
「……じゃ、じゃあ頼んでもいい、かしら?」
「あ…… ええと、アルルさんにお任せします」
ピキッと、アルルの額にしわが寄る。
「ちょ…… あんた、さっきから……」
アルルの表情が完全に凍り付いたところで——
様子を見守っていたレゼリアが言う。
「まずいな。このままだと、大惨事になるぞ」
「ええ、もうアルルの我慢の限界が近いですわね」
「仕方あるまい、ここは私が一肌脱ぐとしようか……」
と、レゼリアが席を立とうとしたところで、
「待ってください、レゼリア様! 見てください!」
ローナが、アルルたちのテーブルを指さし、そう告げた。




