第2話
週末。
昼下がりの繁華街は、買い物客でにぎわっていた。
そんな中、王都の人気レストラン『クーロン』の前で、純白の立派なドレスに身を包んで立つ女性が一人。
まるで結婚式の新婦のドレスかと錯覚するような豪華な服装に、行きかう人皆がちらり、ちらりとアルルを見ていく。
同時に、その様子を物陰から見守る女性が三人。
「しかし、お相手の殿方、なかなか来ませんわね」
と、大きな丸い眼鏡を身につけ、キャスケット帽子をかぶったローナが小声で言う。
陽気が朗らかな、春の昼下がりにも関わらず、ローナは冬物のオーバーコートを着ており——
「ところで、私もずっと聞きたかったんだが、ローナ。その格好はなんだ? 季節外れというか、それ冬用のコートだろ? さすがに暑くないか?」
レゼリアがローナに問いかける。
「え? だって、今日はアルルにばれたらいけないでしょう? だから、私だとばれないように変装してきたのです。レゼリア様だってそうでしょう?」
と、ローナが無邪気に笑う。
一方の、レゼリアはというと、白いタキシード姿にハットで、鍛えた体も相まって、ぱっと見男性にしか見えないような服装であった。
「しかし、レゼリア様も、大変お似合いですわ。わたくし、最初王子様が来たのかと、ドキッとしてしまいましたわ」
とローナが顔を赤らめながら言う。
「しかたあるまい。さすがに普段の恰好だとバレバレだからな」
レゼリアは、鼻を鳴らし、誇らしげに答えた。
「あら、レゼリア様、いつもよりよっぽど目立っているように思いますが……」
「で、だ。問題はニトだ。その背中に背負っている大斧はなんだ? ベヒーモスの頭でも勝ち割るつもりか?」
今度は、レゼリアがニトへと問いかける。
全身、鎧に身を包んだニト。背中には、その身よりも大きな斧を背負っていて——
「だって、どんなつええ相手が来ても戦えるようにって思って」
「婚活とはそういうものじゃないと思うが……」
「だって、つええやつと出会うんだろ! 手合わせしてえよ!」
「あ! レゼリア様! ニト! 来たようですわよ!」
唐突にローナが声をあげる。同時にレゼリアとニトの視線も、アルルへと集中し——
純白のドレスを身に纏ったアルルのもとに一人の男性が近寄っていく。
「……たせ……あ……」
「ご……ま……」
さっそく、談笑をしている様子のアルルと男性。
だが——
「おい、なんかよく聞こえん!」
「しっ! レゼリア様。ばれてしまいますわ」
「おい、もう少し近くに寄ろうぜ」
と、アルルの近くへと寄っていく三人。
だんだんとアルルに近づくにつれ、アルルの表情もよく見えるようになり——
アルルはいつも以上に、可愛らしい笑顔で男性に微笑みかけていた。
「しかし、なんだかいつもとぜんぜん違うぞ」
「あんな笑顔見たことねえ! いつものアルルじゃねえ!」
「しっ、お二人とも。アルルだって女なんです!」
そのまま、レゼリアはアルルの顔をじっと見ながら呟く。
「ふむ、あれは作っているな。よく見ると顔が引き攣っている」
「いいじゃないですか。初めてのデートなんてそんなもんです。アルルにとってそれほど重要なんですよ」
「そうなのか? というか、ローナ。やけにデートについて詳しいな」
レゼリアが言うと、ローナは一瞬目を見開き、あわあわと顔を真っ赤にする。
「……じつは今日のために恋愛指南書を読み漁ったので…… って私のことはどうでもいいんです!」
ローナとレゼリアは再びアルルと男性へと視線を戻す。
「モーリス……さま。 えっと、今日はお会いできて大変光栄でございますですわ」
純白のドレスのまま、もじもじと上目遣いで告げるアルル。
その様子を見てニトがたまらず吹き出す。
「ぷっ! なんだよ、あの言葉遣い。ございますですわなんて、聞いたことねえぞ!」
「しっ、ニト。静かに」
と物陰でこそこそ3人がやりとりをしている間にも——
「アルルさん。えーっと、かの四英雄のお一人とこうしてご一緒できること、大変光栄です……」
と、モーリスはもじもじと、顔を真っ赤にしながら、返す。
「あ、あ、あの! モーリス様! 早速、お食事でも!」
アルルもまた顔を真っ赤にしながら、慌てたように告げた。
ゆでだこのように、顔を真っ赤にしながらレストランへと入る二人。
「おい、私たちも行くぞ」
アルルとモーリスに続いて、レストラン『クーロン』に入ろうとしたレゼリア一行。
しかし。
「お客様、大変申し訳ございませんが、武器をお持ちの方や鎧を着用された方のご入店はご遠慮いただいておりますので……」
店に入った瞬間、さっそくニトが脱落した。




