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第25話


「……学園長。あんた、自分の欲望に素直すぎるだろ」


王立聖女学院が所有する、王都近郊の山中にある『霊泉合宿所』。

俺は脱衣所の前で、頭を抱えていた。


事の発端は数日前。俺の作ったニンニクスタミナ男飯で更なる若返り(とマッスル化)を体験した学園長が、「女神様の放つ聖気で、この合宿所の温泉を究極のアンチエイジング霊泉に変えるのです!」と、全校生徒を巻き込んだ二泊三日の『霊泉強化合宿』を強行したのだ。


「さあヴァル嬢! いや女神様! どうか一番風呂に! そしてその神聖なるエキスを湯船にたっぷりと注ぎ込んでくださいませ!」

見た目は二十代美女の学園長が、鼻息を荒くして迫ってくる。


「キャアキャア! ヴァル様と一緒にお風呂なんて、夢みたいですわ!」

「私、ヴァル様のお背中を流させていただきます!」

アリアをはじめとするクラスメイトたちも、すでに純白のバスタオル一枚という(オッサンにとっては刺激が強すぎる)姿で、目を輝かせている。


(冗談じゃねえ!!)


俺の心の中で、三十八歳のオッサンの理性が悲鳴を上げた。

いくら外見が絶世の美少女(聖女)になっていようと、中身はれっきとしたアラフォーの元・平騎士である。うら若き乙女たちと裸の付き合いなど、倫理的に、そして俺のオッサンとしてのプライド的に、絶対に越えてはならない一線だった。


「えっと……俺、ちょっと体調が……」

「あら! ならば尚更、霊泉で体を温めなければ!」

逃げ場はない。女子たちが俺のネグリジェのボタンに手を掛けようとした、その時。


「……甘い!!」

俺は脱衣所に響き渡る大声を上げた。


「えっ?」

「お、温泉に入るだけで身が清められると思っているのか!? 真の浄化とは、自らの肉体を極限まで追い込み、大自然と一体化することで初めて成し遂げられるものだ!」

俺は女子たちの手を振り払い、バスタオルを頭に巻いて、脱衣所の窓から外へと飛び出した。

「ヴァル様!?」


俺が向かったのは、合宿所の裏手にある山林だった。

(よし、これで風呂には入らなくて済む。適当に体を動かして、皆が上がるのを待つぞ)


俺は手頃な丸太を見つけると、合宿所の裏口にあった斧を引っ掴み、無心で薪割りを始めた。

スパーン! スパーン!

三十八年間で培った完璧なフォーム。オッサンの腰の入った一撃が、次々と丸太を両断していく。

さらに、近くに流れていた冷たい山の滝を見つけると、バスタオルを巻いたまま滝壺に入り、冷水に打たれながら目を閉じた。


(うおおお……冷てえ! けど、あの女子の園に放り込まれるよりはマシだ……!)


一方、その頃。

風呂場から俺の様子を覗き見た令嬢たちと学園長は、その光景に言葉を失っていた。


「み、見てください皆様……。ヴァル様が、冷たい滝に打たれながら、瞑想を……」

「その前には、ご自身で割った薪が山のように……。ああっ、なんという神々しいお姿!」

アリアが涙ぐみながら両手を組んだ。

「分かりましたわ。女神様は、私たちが安易に霊泉の効果に甘えようとしたことを、身を挺して戒めてくださっているのです! 真の美しさは、厳しい修行の末に得られるものだと!」


「「「女神様ぁぁぁぁっ!!(崇拝)」」」


俺のオッサン丸出しの『逃避行動(薪割りと滝行)』は、またしても聖女ボディの美しさと相まって『気高き聖女の禁欲的な修行』へと神格化されてしまった。

しかも、俺が滝行の寒さでガタガタ震えながら無意識に放っていた【超・浄化】のオーラが、地脈を通じて合宿所の温泉に流れ込み、ただの温泉を『浸かるだけで全ステータスが回復し、肌年齢が五歳若返る究極の神聖湯』へと変異させていたのだ。


「ああ……お湯が光り輝いていますわ!」

「なんて素晴らしい肌ツヤ! これが女神様の恩恵!」

学園長と令嬢たちは、光り輝く湯船の中で狂喜乱舞していた。


数時間後。


「へっくしゅんっ!」

完全に湯冷めし、風邪を引きかけた俺は、ホカホカに温まって肌ツヤが限界突破した令嬢たちから「女神様の尊き自己犠牲に感謝を!」と崇められながら、一人震える夜を過ごすことになった。


「誰か……俺に、普通の温かいお湯をくれ……」


最強の聖女の貞操防衛戦は、物理的な寒さと引き換えに、なんとかギリギリのところで守り抜かれたのだった。

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