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20代最後のゲイのエッセイ  作者: 赤井獺京


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好きな風がみんなにもあるのか僕はそれが知りたい。

好きな色、好きな天気、好きな本、好きなアニメ……。好きな〇〇は沢山あって聞かれればたいていみんな答えられると思う。

 好きなラーメンは? とんこつ味。

 好きな言葉は? 論より証拠。

 

 僕が他人に何かを聞くのなら「好きな風は?」と聞きたい。僕には明確に好きな風がある。だけどその名前は分からない。

そんな風がみんなにも存在するのかを、それが知りたい。


僕の好きな風は気まぐれに吹いている。吹いていればすぐに分かる。好きな風だ、と風に身をゆだねる。


あの風に名前を付けるなら何と呼ぼうか。そもそもすべての風に名前があるのか、それすら分からない。

風が吹いた瞬間に写真を撮っても映らないから誰にも見せられない。あの風が吹いた瞬間に風学者がそばにいない限り、あの風を判断してくれる人はいない。


あの風が吹くと僕は幸せな気持ちになる。吹くと決まって蘇るのは昔好きだったカードの新弾を買いに行く朝の記憶だ。

 待ち焦がれていた朝、ドキドキの朝、あれ以上幸せな朝は無かった。その時の感情が鮮明に蘇る。


 忘れた頃にその風が吹いて、幸せの瞬間を思い出させる。あの風の正体は何なのだろうか。


 風なら何でもいいわけじゃない。いつも吹いている野良の風は浴びても何も感じない。そこら辺を歩く知らない通行人と同じだ。だけどあの風は昔の知り合い。偶然遭遇した知り合いだ。その顔を見た瞬間に過去の記憶が蘇る。


 となるとあの風は、僕がカードの新弾を買いに行く朝に吹いていたのかもしれない。僕の溢れでるドキドキをあの風が持ち去っていった。それが今になっても無くならなくて、たまに返してくれる。


 あの時の幸せな気持ちを忘れないように。


 そうであれば素敵な話だ。


 大人になった今、あの頃みたいに幸福な感覚は中々訪れない。3パックしか買えなかったカードも買う気になれば箱で3箱だって買える。


 あの時の純粋なドキドキは、大人になったら味わえない。味わう方法はあの風だけ。

あの風が吹いた瞬間だけ、その時の気持ちに入り込める。


 だけどもう出会えていない。ここ数年、下手したら10年は出会っていないかもしれない。


 あの風の感覚を忘れてしまう。忘れる前にあいつの正体を残しておきたい。


 僕だけが知る、あの風を。


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