第11話 神林葛葉は混乱する。
ああもう、何なんだ今の私はっ!?
後輩君から離れ、ソファーに座る私は先ほどから感じる胸のドキドキとした高鳴りに物凄い違和感を感じていた。
研究を行っている時に最高にハイになっていた時とは違う感覚。
心臓を患っている者が陥る動悸とも違うであろうこの感覚。
初めて感じる感覚、けれどとても心地良く……それでいて何というか色々と手がつけれそうになくなる感覚。
ああもう、いったい何なのだこの感覚はぁ!!
「それで先輩を家に送るために……先輩?」
「くずねえ、どうしたの? やっぱり足が痛いの?」
「ふぇうあ!? な、なな、なんでもないっ!! ――っ~~~~っ!!」
心配そうに顔を近づけてきた後輩君と諸葉に驚きながら、私はソファーから飛び退きそうになったけれど足が床に付いた瞬間、ビキッと痛みが走りソファーに蹲った。
そんな私を心配しているのか、驚いた声が2人の口から出た。
「ちょっ!? 先輩、何してるですか!!」
「うわわ、くずねえ!! 冷却スプレー持って来る!!」
ドタドタという音が響き、諸葉が救急箱を取りに行ったのだろうと思いつつ、蹲りながらチラリと正面を見ると心配そうに私を見る後輩君の姿が見えた。
その後輩君の顔を見た瞬間、先ほどと同じように胸がドキドキとし始め顔も熱くなって来るのを感じた。
ああもう、いったい何なのだ!?
「先輩? ……ちょっと失礼しますね」
「ふぁ!? こ、ここ、こうはいくん!?」
現在の自分の状態に戸惑って考えがまったく纏まらない私をまるでからかっているとでも言うように後輩君は私の顔、具体的にいうと額に手を伸ばしてきた。
突然の事で私は普段では出さないような声を口から上げてしまい、更にどもりながら後輩君に何をするのかと言おうとするけれどうまく言葉が出ない。
そんな私の様子に気づいていないのか、後輩君は私の額へと手を置いてしばらくしてから離した。
「うーーん…………」
「こここ、後輩きゅん! にゃ、にゃにをするかねっ!?」
バクバク、バクバクと胸の鼓動が激しく鳴り響き、頭がグルグルとし始める。
ああもう、へんだ! 本当に今の私はへんだぁ!!
「くずねえ! 冷却スプレー持ってきたよ!! ……って、どうしたの?」
「あ、諸葉ちゃん? えっと、先輩……なんだか熱あると思うんだけど」
「え!? ちょっとごめんね、くずねえ」
戻ってきた諸葉だったけれど、後輩君の言葉に驚き私に近付くと同じように額に手を当てた。
あ、諸葉の手、ひんやりとして気持ち良い……。
そしてしばらくして……。
「あー……うん、これちょっと熱出てるね」
「やっぱり、足の怪我が原因で」
「ああ違う違う、くずねえには良くあるんだよ。色々研究の事を考えすぎちゃうと」
暗い顔をする後輩君へと諸葉はすぐに否定してくれた。そのお陰で後輩君がホッと安堵したのが見えた。
そんな彼の様子を見て、私も少しだけ冷静になれたのか笑みを彼へと向けた。
「そうなんだ……。良かった」
「ふふっ、後輩君はあわてんぼうだなぁ。私は大丈夫だよ」
「そう……みたいですね。でも、熱を出してる女性の前で居るのもどうかと思うので今日はもう帰ります」
私の様子を見て少し安心してくれたようで、後輩君は立ち上がり帰ろうとする。
そんな彼を見て、少し寂しく思ってしまった。
「あ……」
「先輩? どうかしましたか?」
「あ、い、いや……なんでも無い。なんでも、また学校で会おう」
伸ばしかけた腕を引っ込めながら、後輩君を見送る。
そんな後輩君を玄関まで送ると言って諸葉も部屋から出て行ってから、私は息をハァと吐いた。
「ああもう、いったいどうしてしまったんだ私は?! 後輩君を見てると何だか苦しくなるし、胸がドキドキ高鳴ってしまうし……はっ、まさか病気なのか!?」
それともやっぱり考え事をしすぎて知恵熱が出てしまったのだろうか?
足の挫きからももしかしたら熱が来てるかも知れないけれど、後輩君が落ち込むからその原因は違うだろう。
「くずねえ、シュンヤさんの見送り終わったよ」
「ああ、ありがとう諸葉」
うんうん悩んでいると諸葉が後輩君の見送りから戻り、私に声をかけながら近くの座布団に座った。
そして私をジーッとしばらく見つめ、ニヤーッと笑みを浮かべた。
「な、なんだい諸葉? その笑みは少し奇妙だよ?」
「べっつにー? ただくずねえにも遂に春が来たのかなーってねー♪」
「春? 諸葉、もうすぐ夏だぞ、春はまだ来年で」
諸葉が何を言いたいのか良く分からない。
そんな私を諸葉は呆れたように見てくる。
「あー、うん、まだ分かんなくても良いよ。くずねえはくずねえだしね」
「なんだいその言い方は? 妙な含みを感じるねぇ」
「はいはい、妙な含みはありますよー。まあ、とりあえず今日は眠ろうねくずねえ」
そう言って諸葉は私の肩を抱き、立ち上がらせると部屋へと連れて行った。
別タイトル:神林葛葉はこの感情が何か理解出来ない。




