到達者 ③
『雅。お前……レベル9になってるぞ』
ユッキーに見せられた志乃ちゃんのスマホ。
画面にはゲートのアプリが立ち上がっていて、そこには近くのプレイヤーのレベルアップが表示されていた。
レベル9とある。
プレイヤーの認識機能を見ると、レベルが上がったのはスマホの持ち主の志乃ちゃんではないことが分かる。アイコンの色が違う、フレンドの亜李栖ちゃんでもない。ユッキーはプレイヤーですらないからレベルすらない。姉とクソピエロも同じく。
だとすると。このマップにある他のプレイヤーと違う、見た目から強そうなアイコンは、あたしという事になるね。でも、レベル9と言われてもねー。
『ふーん。これが何?』
こんな反応しかしようがなかった。
9と言われても大したことない。そう思っていたからだ。進化もしないし、技も覚えない。そんな認識だったから。
『お、お前。このゲームのレベル上限はいくつか分かってるのか?』
『100じゃないの? ──はっ、もしかして9999というクソゲー……』
やり込まないとレベル上限は絶対に不可能なやつなのかとも思った。でも、それも違った。
『──10だ! レベル10が上限だ! そうだよな?』
近くにいた運営の人に志乃ちゃんは尋ね、あたしは返ってきた返答に激怒した!
『えぇ、最大値は10。到達者と呼ばれるモノになりますね。しかし、風神のお嬢さんが9。冗談でしょうwwww』
『よーし、そのレベル9の力を貴様に身をもって教えてやる! あたしにやられて無様に泣いて許しを乞え! クソピエロ!』
何の実感もない。
レベル10の内9だと言われても。
今のあたしがそこまでだとは思えなかった。
『そもそも、ボスキャラはユウキが倒したのに、何で雅のレベルが上がるんだよ?』
『そうですわよね』
ユッキーがレベル9だと、最大値より1つ下だと言うのなら納得できる。
間違いなくあたしはユッキーに勝てないから。
それにあたしがレベル9だと言うなら、他の人は?
姉とか、ふわふわとか、黒ウサギとかは?
レベルに換算したら絶対に10を超えてるよね。
『1番ダメージを与えたプレイヤーに経験値が入る仕組みとなっております。ユッキーさんはプレイヤーではないので……いえ、新宿の時点で風神のお嬢さんが1番でしょう。ボスキャラへの今日のダメージなど、先日と比べたら無いに等しいですから。あの日に決着はついていた。ということでしょう。しかし、くっくっく……──おっと失礼!』
『お前、褒めてるのか馬鹿にしているのかどっちだ!? 返答によってはぶっころす!』
『こう見えて意外と評価していますよ? ただ、そのレベルの表記がおかしいというか、笑えるだけで』
評価している。まさか、クソピエロにそんなふうに言われるのは予想外だった。
『むー、微妙なところだな。褒めてもいるなら、一方的にぶっころすのはやり過ぎだしな。やはりバトって決着をつける他ないか!』
『……今日はやめましょう。時間が迫っていますし、お嬢さんに手に入った力が馴染んでいない。それでは勝負になりませんよ? 自らの力をきちんと使えるようになってから、ケンカはふっかけるべきです』
『馴染んでない?』
『実感がないでしょう? あるのかないのかも分からない。そんな感じでしょう? 風神のお嬢さんは一度にエッグを使い過ぎた。身体はそれについてこれてないのです。馴染むには1日2日は必要かと思います。ですから、今日はやめましょう。では、また今度──』
他と違うアイコンは強者の証であると同時に、最も狙われる対象にもなる。ユッキーが帰ろうと言ったのはそういうことだ。
今日以上にプレイヤーたちか狙われるのは明らかだから。その価値はボスキャラと変わらないものだから。
『つまり、今のクソピエロの話をまとめると、ミヤビちゃん最強! そういうことでしょう?!』
『大分、張りぼてだがな。中身が肩書きに見合ってないぞ。それにだ……』
『えー、ミヤビちゃん最強でいいでしょう? レベルがあるのはあたしだけだし。それに最強とか興味ないよね』
『まぁな。興味はない。と、くだらないこと話してないで帰るか。誰かタクシー呼んで』
くだらないだろうが、くだらなくないだろうが関係ない。ミヤビちゃんが最強となったのだから!
だが、その最強が空気となっている……。なんとかしてみんなに最強だと認めさせ、最強特権を──。
♢
「──バカ、雅! 伏せろ!」
急に志乃ちゃんに頭を押さえつけられた。
ぼんやりと、いかにして最強を認めさせるかを考えていたから驚いた。場所もいつの間にかヘリポートになっている。
「何、なに?! て、敵襲!」
──ザン
直後そんな音がして、パラパラと何かが下に落ちた。それを見て、3センチくらいの髪の毛であると気づいた。おそらくあたしの髪の毛。襟足の部分だ。
「ごめんなさい。まだ上手く使いこなせなくて!」
「亜李栖! お前は何をやってんだ!」
使いこなすとは?
あと、何か髪の毛が斬れたんだけど……。
別に長くなるわけじゃないので、斬れても構わないけどさ。
「雅、髪の毛はあとで揃えてあげますから」
「ユッキーはそんなことまで出来るの!」
「えぇ、フウの髪は私が切っていますから」
なんかユッキーに髪を切ってもらえることになった! それはいいとして。
「ところでさ。あの子は何をやって……いや、アレはなに?」
鞘が無かったはずの聖剣に鞘がある。
特に変わったところ……はない鞘が。
聖剣の刀身より濃い青色。
亜李栖ちゃんの水の属性の色をした鞘。
変わった装飾がある……というわけでもない。
「……あのトリガーはなんだろう。鞘にどうして銃に付いてる引き金があるの? また、嫌な予感……」
それだけ、ものすごーく違和感。
無ければ見事な鞘でした。で終わりだけど、あの違和感によって嫌な予感しかしない。
ちょうど剣を抜くときに指がかかる位置にトリガーはある。用途が不明。分かりたくはない。
「もう一度……」
「──バカ! やめろ!」
聖剣は鞘に収められ、志乃ちゃんの制止を無視して、亜李栖ちゃんはトリガーを引く。
──カチッ
という音がして、次いで水の音。
高圧洗浄機的な水の音がした。
ああ、あれはヤベーやつだ。そう理解した。
その勢いを抑えきれずに、亜李栖ちゃんが聖剣に引っ張られる。それと同時に、聖剣の刀身と同じ長さの水が発射される。
「水圧でしょうか?」
「──そうだね! 避けないと危ないね!」
あれは斬れるものだ。しかも、かなり鋭く。
そして、亜李栖ちゃんの力では剣を押さえられてない。
「危ないよ! 人のいないところで──」
「あっ──」
ほら、聖剣がすっぽ抜けた。
そんでこっちに飛んでくる! 避けないと刺さる!
「ぎゃああああああ……良かった。真横に刺さってた」
いや、刺さってることがすでに良くないけど、良かった。ミヤビちゃんに風穴が開くところだった。
それでだよ。志乃ちゃんの時も思ったんだけど、あれは何?
彼女たちはどっからあんな危ないものを思い付くの? 漫画? 聖剣使いはあんな危ないものを使っていたかい?
「こわい。あの鞘のようで鞘じゃないものがこわい……。また、新たな兵器が作り出されてしまった」
こわいから、もう最強はいいや。
水圧カッターで真っ二つにされそうだし。
諦めてそうめんを食べさせよう。




