到達者
「今の爆発なら1キロ範囲くらいは消滅してたな。威力が落ちていてそれだ。最初の状態では倍以上の被害になっていただろう。キミたちよくやった!」
そうは言っても、それはそれは凄まじい爆発だった。
その余波もかなりのもので、こうしてあたしたちは全員地面に倒れているのに、姉だけは普通に立っている。
そういえば。この姉も鋼鉄の女だった。
鉄ということは土の属性。
志乃ちゃんも、ふわふわも土の属性だったし、多いな土。
しかし、ミヤビちゃんは風なんだから、土のやつらに勝てないとおかしいんだけど、勝てないと思う。
きっと、効果はいまひとつの判定になるんだ。バグってるんだ。
「げほっ、げほっ……。それで、なんでいんの?」
「あの子……名前をミヤヒちゃんに言っても伝わないか。猪子ちゃんが教えてくれた」
「猪子が?」
確か、姉は猪子に黒い魔法の話を聞くと言っていたな。実際会ったんだろうし、その時に連絡先を交換していても不思議はない。
「また、動画が出ていた……。ボスキャラとの戦闘ばかりな。聞いたそれを観て、ウチから歩いてきた。みんなが心配で! 居ても立っても居られなかったんだ!」
「「「…………」」」
そんなのもあったね。確かにタワーマンションの屋上は、この裏東京に繋がっていたね。ただ、あそこから外へは出られないと聞いていたけどね。あれは嘘だったんだね。
「用は済んだんだろ? 帰ろう。そして早く、お昼を作ってくれ。今日は肉がいいな。もうお昼の時間はとっくに過ぎているんだぞ」
「自分で用意して食べなさいよ。いや、まさかとは思うけど……そのために来たんじゃないよね?」
「流石にそれはないだろう。なあ?」
あると思う。この姉ならば。
現に誰もフォローしないじゃん。
「まあ、終わったのも確かだし帰ろう。最後に砂まみれになってしまった。なんか口の中もジャリジャリするからね」
「そうですわね。雅さんは正直際どい格好ですし、手早く近いゲートを探して帰りましょう」
亜李栖ちゃんに指摘されて気づいたが、制服がかなりボロボロになっている。これ冬服なのに……。
夏服もボロボロ。洗濯機で洗濯されてる。あと、血の跡が消えない。なのに。
「また制服がボロボロになってしまった……」
ユッキーは私服の上からドレスという魔法。汚れているのかは分からないけど、あたし以上ではないだろう。
志乃ちゃんと亜李栖ちゃんも暴れたはずなのに、あたしほど酷くはない。この差は何? どうしてあたしだけボロボロなの?
「帰りのゲートですが、渋谷の駅が一番近いです。しかし、歩くとなると結構な距離ですね」
「馬鹿正直に歩く必要はないだろう。その辺の車を使おう。窓割って、エンジン動かして」
この大人はなんて事を言うんだろう。
電車動いていたし車も動くんだろうけど、窓割ってという時点でダメだと思う。あと鍵は? 付いてんの?
「とても大人の発言とは思えないね」
「ああ、この人は何を言ってんだ。そんなのダメに決まってんだろ。そして何よりだ。雲母さん。雅が真似するから余計な知識を与えないでください。すぐ真似するからな」
「えぇーっ、志乃ちゃんに言われなくてもやんないよー」
「いや、──お前はやる! やり方を見たらそれを覚えて、そしたら試したくなる。お前はそういうヤツだ!」
やんないよ? …………たぶん。
本当だよ? …………たぶん。
自分でも自信なくなってきた。
これは、いざとなったらやるかもしれない。
ワクワクが止まらなくなったら絶対とは言い切れない! ワクワク。
「しかしな。このゲームを続けるなら、そういうのも必要だと思うぞ? 移動が必要になったらいちいち歩くのか? 都内だけでもかなりの広さだぞ。電車が時間通りに動いてないとなれば、いずれ足は必要になる。だから、覚えておきたまえ!」
姉が志乃ちゃんを説得するつもりらしい。ワクワク。
他の3人は比較的ルールとか守らないやつだと思っているらしい。裏東京でなら否定はしない。
「交通ルールがあるだろうが! 無免許で運転なんて犯罪だ!」
流石は志乃ちゃん。
そういうところが嫌いじゃない。でも、ワクワク。
「シノ。そんなことは私だって分かってる。表ならそんなことは言いはしない。だが、ここにルールはない。あれはダメ、これはダメと言っている良い子ちゃんではダメだ。何事も経験だ」
これで言いくるめられるか?
「──ダメなものはダメだ! 運転が必要なら雲母さんがやってくれ。それなら運転技術なんて必要ないからな」
「諦めなよ。こうなったら志乃ちゃんは駄目だ。絶対に『うん』とは言わないよ。ワクワクが止まらなくなりそうだったけど、あたしも今なら諦めるから」
「なら仕方あるまい。じゃあ、私が一台動かしてくるからここで待ってなさい。それで駅まで行こう」
「うん……んっ?」
あたしは気づいてしまった……。
今の話。途中から内容がすり替わってた!
あたしたちが運転するのはダメのままだけど、最終的に姉が車を動かすというところは合法の判定になっている!
……やつは悪い大人だ。
志乃ちゃんは気づいてないし。
気をつけよう。姉は口が上手い。
「その必要はございません!」
そして……なんか嫌なヤツの声がした。
黒ウサギにシメられて死んだと思っていたのに、生きていたらしい。しぶといなクソピエロ。
「これから裏東京全域はメンテナンスとなりますので、フィールドに残るプレイヤーの皆様には、強制的に退出していただきます! 皆さんはワタクシがご案内いたしますので」
ふわふわのように突然、クソピエロが現れた。
音も気配もなく、フッと湧いで出た。
これが出来たら車は必要なさそうだ。ただ……。
「──チェンジで。ウサギにチェンジで!」
こいつである必要性はない! 他の人にしてもらわないと。
「そのようなサービスは行なっておりません。まだまだ、ウジャウジャといるんですから、ごねないでさっさと帰ってください!」
「貴様の言うことなど聞かん! 黒ウサギがふわふわを出せ!」
意地でもこいつの言うことなど聞くつもりはない。
なんとしても譲らない。折れるつもりもない!
「ワタクシだって好きでやっているんじゃないんです! しかし、1日に2度もやらかせば命が危ういのです! だから、さっさと──」
「ほぅ、良い事を聞いた。つまり、あたしたちがゴネてメンテナンスの開始時間が遅くなれば、貴様は黒ウサギに殺される。そういうわけだね?」
「……チガイマスヨ?」
「──決定だ! よし逃げよう!」
こいつは前に、強制的に移動させられると言っていた。だが、それは無限にではないと見た。
それが無限に出来るなら、回数を重ねてでもあたしを追い出せるはずだから。そして、おそらく一番最初にここに来た。
あたしが一番厄介そうだから。
回数がかさまない内に片付けるために。
まあ、そんな思惑どおりに動くあたしではない!
「鬼ごっこ。第3ラウンド開始!」
いつぞやの鬼ごっこの仕返しだ。
あたしが全力で逃げてやる。
「──やめなさい。帰りますよ」
「ユッキー。何をする……痛いよ……?」
ユッキーに背後から手を掴まれた。ぎゅーってされた。手は爆発を防ごうとして、あちこち裂けていて、ちょう痛いかったのを思い出した。
「これを見なさい」
あたしの前に差し出されたのは亜李栖ちゃんのスマホ。そこから聞こえてくるのは、レベルが上がった時の音だ。
「また騒ぎになります。退出させてくれるというなら帰りましょう」
誰かのレベルが上がったらしい。
また亜李栖ちゃんだろうか? それとも志乃ちゃん?
♢57.5♢
ゲート運営よりプレイヤーの皆様へ。
不具合は現時刻をもって完全に解消されました。
プレイヤーの皆様には、大変なご不便をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます。
不具合の内容等につきましては、後日改めて公表されていただきます。
しかし、現在。新たな問題がゲート内に発生しております。それに伴いフィールドのメンテナンスを、緊急に実施する運びになりました。度重なるご不便をおかけいたしますことを、繰り返しお詫び申し上げます。
そんなトラブルの最中に起きたことではありますが、プレイヤーの皆様に重大なご報告があります。
それも2つ。どちらもゲームに関する重要な報告となります。
まず1つ目は、なんと東京フィールドのボスキャラが、ついに倒されました! 半端諦めていたボスキャラ討伐が成されたのです!
これは運営側としては、これ以上ないタイミングのことであり、プレイヤーの皆様におかれましても、大変喜ぶべきことかと思われます。
何故なら、ご報告の2つ目は、来たる8月1日より新フィールドが2ヶ所追加されるという事だからです。
この新フィールドには、どちらのフィールドも共に、ボスキャラは最初から配置されております。3体ものボスキャラをプレイヤーの皆様に押し付けることにならず、私達は安堵したしております。
新フィールドの案内につきましては、こちら、からご覧いただけます。
ゲートの世界はますます加速していきます。これからもご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。




