カモカチュー
今話タイトルは「カモカチュー」です。
「お夕食は八時までにはできるそうです。すみません、音子さん。僕たちの母が勝手なことを……」
「八時? いま六時半だろう。どうやったらそんなに速く、カレーとシチューを作れるんだい? それに、二人とも市販のルウは使わないだろう?」
二人よりも料理が上手いと自負している遙にとっては、問題が山積している。
「祈裡のカレーはいつも違う味で面白かったし、イッツーのシチューも中々のものだった。どれだけ上達しているか楽しみだよ」
遙は独り言のように呟いたのだが、音子の耳にははっきりと聞こえた。
「永井さん、お二人のカレーとシチューはいったいどのようなものなのですか?」
「それは、いつも食べてる二人に聞くのがはやいいだろう」
「未来也くんのお母さんのカレーは、今まで食べてきたカレーで一番のカレーだったわ! あんなにおいしいものをいつも食べているなんて、羨ましいったらこの上ないわ!」
なぜか呉葉が遮った。
過大評価だ、と未来也は思った。
なんだかんだ話しているうちに、七時半。テーブルに二つの鍋が運ばれた。
「ん? なんだい、このにおいは? 昼間に同時進行で作ってたときには、こんなにおいじゃなかったよ」
「当たり前よ。これは私たち二人のオリジナルなんだから!」
「カレーでもシチューでもないのかい?」
「それじゃあリベンジにならないじゃない。両方よ」
「森一樹と」
「加古祈裡の合作」
「「カモカチューよ!」」
未来也と美樹以外の頭の上には、不可視のハテナマークが盛大に踊っていることだろう。
「カモカチュー?」
悠が声をあげた。
「カチュー、とはなんですか?」
音子が尋ねた。
「え、えーと、加古の『カ』と森の『モ』、そしてカレーとシチューで『カチュー』だそうです」
「てっきり鴨南みたいなもんだと思ってしまったよ」
「み、美樹さん? それは私達の台詞よ……。そして遙! まんまと引っ掛かったわね!」
台詞を取られた祈裡と一樹は、すこしがっかりしたが、『引っ掛かったわね!』と言って満足したようだ。
「ごめんなさい、小母様」
美樹は少しうつむいてしまったが、未来也が手を取ってなにやら言うと、頬を赤くして目を潤ませ、未来也を見つめた。
「それでカチュー……」
音子は名前に納得してうなずいた。
「なんだい、その滅茶苦茶なネーミングは」
遙は、滅茶苦茶なネーミングに苦笑している。二人の思考パターンは子供の頃から変わっていないようだ。
「ジャーン! これでどうだ!」
「あんたら、よくその速さでこぼさないもんだね。それと、片つける前に何をどうやって作ったのか、キッチンを見てみたいよ」
鍋から皿へよそう速さに、遙が感心している。
「残念ね、ハル。もう洗うものはこの二つのお鍋とお玉と食器しかないわよ」
これには全員が感心している。
「見た目の色は、カレーとシチューを混ぜただけのような気もするが、問題は味か」
「そうよ、問題は味よ。これはハルへのリベンジなんだから。みんなも、おかわりはあるからたくさん食べていいのよ」
食べていいと言われて、音子が表情を変えた。
「い、いただきます」
音子の一言で、みんなで食べ始める。
「なにこれ……? 不思議な味。美味しい!」
音子は気に入ったようである。
「こんなものを考え付くとは……。私の負けだよ」
遙も気に入ったようである。
美樹と未来也はそれを見て普通に食べ始めた。
それをみた呉葉、夕日、悠は恐る恐る一口食べてみた。
「おいしい……」
悠は勢いよく食べ始めた。
「…………」
夕日は黙々と食べている。
「カチュー……。私にも作れるかしら?」
一人だけ不穏なことを考えてはいるが、呉葉も黙々と食べている。
全員が食べ始めたのを見て、満足げに頷きあって祈裡と一樹も食べ始めた。
遙、呉葉、悠、音子がおかわりしたことで鍋は空になり、作った二人は洗い物に勤しんだ。
今話はちょっと長めでしたね。
カチュー……本当に美味しいのでしょうかね? まあ、二人が作るんだから美味しいんでしょうね。うん。
どなたかそれらしきものを作った方がいらっしゃいましたら(以下略
次話(予定)タイトルは「握手」です。
幼い頃の約束を、律儀に守り続けている音子なのでした。
そろそろ最終回が近いです。来月……いくらかかっても再来月には終わると思います。そう考えるとちょっと寂しいかな……。




