電話(3/3) 呉葉
今話タイトルは「電話(3/3) 呉葉」です。
午後四時三十分。
「初めまして。私は納葵呉葉といいます。森さんでしょうか?」
呉葉の声は明るかった。悪く取ると馴れ馴れしい。
「ええ。こちらは森です。美樹ちゃんのお友達ね? ちょっと待ってて、すぐに読んでくるわ」
およそ五分後。
「ごめんなさい呉葉ちゃん。待った?」
一応聞いてみた。
「ええ。意外に待ったわね。あなたのお家はそんなに広いのかしら」
「ええ、広いわよ。今度遊びに来る? 悠くんは迷子になりかけたわ」
美樹はありのままを伝えた。……余分な情報も含まれてはいるが。
「え……、本当に広いの……? 冗談のつもりだったのに……」
本当に冗談のつもりだったのだ。
「でも、呉葉ちゃんが電話してくれるなんて始めてね。なんだか嬉しいわ」
前回は夕日がかけて呉葉に代わったのである。
「未来也くん以外に何かを言われて、嬉しいと感じることがあったのね。よかった。あたしたちとは、人として、何か決定的に違うんじゃないかって思ってたところよ。
じゃなくて、うちに招待する件なのだけど、こっちの都合で悪いとは思うんだけど、今度の月曜でどうかしら?」
本題を忘れかけていた呉葉だった。
「分かったわ。母さんに聞いてくるから少し……いえ、だいぶ待っていてちょうだい」
二十分くらいして。
「お待たせ呉葉ちゃん。月曜日で大丈夫よ。母さんも楽しみにしているわ。よろしくと伝えておいてね」
「そう。よかったわ。それよりも美樹ちゃん、長話をしても大丈夫かしら。あたしとしては、こっちが本題なのよ」
呉葉にとって、決定事項の連絡は大して重要ではなかった。
「ええ、大丈夫よ。一体どうしたの?」
「あたしと夕日は、それこそ四六時中一緒にいるわ」
「そうね、双子だものね。羨ましいわ。大好きな人といつも一緒にいられて」
美樹は、それについては本当に羨ましいと思っている。
「美樹ちゃんたちは、あたしたちみたいにいつも一緒、というわけにはいかないわよね」
「そうね」
「なのに、なんで貴女たちはそんなに……」
「仲が良いのかって?」
呉葉のセリフを先に言う美樹。
「ただ仲が良いなんてもんじゃないわ。それ以上よ」
少しの間があって……。
「貴女は夕日くんに、何の引け目を感じているのかしら? もしくは、夕日くんが、かしらね?」
「少なくとも、あたしは何の引け目も感じていないわよ。ただ……」
「ただ、何? 姉弟だから? そんなことを言い訳にするの?」
少しきついことを言ってみた美樹だが、言ってから、さてどうしようか、と考え始めた。
「随分軽く言うのね。やっぱり他人事だもの、仕方がないわよね。でも、あたしにとっては、重大なことよ」
「他人事ね。確かにそうだわ。でも、軽く言ったつもりはないわよ。私は呉葉ちゃんとはお友達だと思ってるわ。でもね、呉葉ちゃん。私はそんなことは些細なことだと思うの」
軽く言ったつもりはないが、あまり深く考えないで言った言葉ではある。
「あなたたちは他人同士ですものね。あたしの思ってることなんか、分からないわよ」
美樹は、「他人の頭の中なんて分かるかー!」と叫びたくなった。
「呉葉ちゃんはなにを拘っているのかしら? 呉葉ちゃんは夕日くんが愛しい。夕日くんも呉葉ちゃんのことが愛しい。それがただの姉弟愛だというなら、一瞬でも羨ましいなんて思ったことを、今ここで自己嫌悪するわよ。いつかは親元を離れることになるのでしょう? 二人っきりで暮らせばいいのよ」
「今は理由を言えないけど、あたしたちはそれが許されない。親は、あたしたちよりも早く亡くなるでしょう。でも、ここを離れるのはダメなの」
「……何か理由があるのね? それを話すために、私たちを招いたということ?」
「なーんだ。美樹ちゃんも未来也くんと同じで、言わなくても分かってくれるのね」
「なんだとは失礼ね」
「そうね、ごめんなさい。実は、美樹ちゃんのほうが、未来也くんよりも成績が良かったのよね。なんか意外だわ」
夕日も悠も、実は同じ感想である。
「あら、呉葉さん。それ以上言うと怒るわよ」
「ご、ごめん。それより、この間は楽しかったわね。またみんなでどこかに行けたらいいわね」
「あら? 苦し紛れに話題転換? でも、そうね。私も楽しかったわ。未来也くんと片時も離れずに三十八時間は一緒にいられたんですもの」
「やっぱり、美樹ちゃんの基準って、未来也くんなのね」
ただ、呉葉が苦し紛れなのは、否定することができない。
「当たり前じゃない。ん? ごめんなさい、そろそろお夕食の時間なの。切ってもいいかしら?」
今日の夕食は、においからして、おそらく焼き魚だろう。
「あっ、そうね。あたしの家でも、そろそろお夕飯の時間だわ。じゃあ、うちに来る件だけど、詳細は明日の四時ごろに夕日が未来也くんに電話するから、そのあとにまた掛けるわね」
美樹は電話越しに、熱したフライパンに油を入れる音を聞いた。
「じゃあ、明日は未来也くんの家にいるわ。そうすれば、二度手間にならなくていいでしょう?」
「お母様にも伝えなければならないのに、一体どうするのよ?」
「母さんと一緒に行けばいいのよ」
「お父様は?」
当然の疑問だろう。
「父さんは、未来也くんのお父様と一緒に、会社の人たちと旅行中よ。来週の中ごろまでは帰ってこないわ」
美樹の父と未来也の父は、同じ会社の同じ部署に勤めているが、そこまでは言わなかった。
「それで、未来也くんの家に行ったときに、お父様がいらっしゃらなかったのね」
「いいえ。そのときは、父さんと一緒に日本海沖に釣りに行っていらしたはずよ」
「お母様同士が仲が良いのはこの前聞いたけど、お父様同士も仲が良いのね」
「そうでもなければ、家族ぐるみの付き合いなんてできないわよ、ってさらに話し込んでしまったわね。じゃあ、切るわね」
「ええ。それじゃあまた」
電話が切れた。
夕食を食べながら、美樹は先ほの電話のことを母に話した。
「そう。じゃあ、あとで私から電話してみるわ」
「ありがとうお母さん。これで、また未来也くんと一緒にいられる」
美樹の顔がにやけきっている。
夕食後。
「――ということなんだけど、いいかしら?」
「もちろん。どんな理由でも大歓迎よ。そうと決まれば、明日はあの計画を試してみましょう」
「ええ、そうね。私も準備しておくわ」
二人の大胆ないたずらが、幕を上げようとしていた。
長かったです。2,500文字を超えてしまいました。
美樹がちょっと過激なことを言っているような気もしますが、美樹の考えでは『周りの目が気になるなら、知っている人がいないところで二人きりで暮らせば関係ない』というものです。
未来也の父と美樹の父は、何かと一緒に出かけています。
次話(予定)タイトルは「二人のいたずら 昼食編」です。
そろそろ例の注意書きを書かなければならない部分に近づいてきました。もうちょっとです。2013.12.3 21:40




