File.EX -side:みと-『見咎(みとが)めの代償』
まつり、うい、ゆめ。
みんないなくなってしまった。
一体、何がいけなかったんだ?
目の前で仲間が次々と消えていく恐怖に、私の頭はとっくに狂いかけていた。どうにかしてこの連鎖を止めなくてはならない。
そうだ、しぐれだ。しぐれに相談しよう。私たちがこの悪夢から逃れるために、何か見落としている手がかりがないか確かめなければ。
図書室で、しぐれは泣きながらすべてを打ち明けてくれた。
「悪夢を見た。自分が怖くて隠していた」と。
あの日、しぐれが見たのは、仲間たちが折れ曲がって死んでいく光景だったという。
それを聞いて、私は内心で激しく動揺した。
——なぜなら、私にも同じような幻が見えていたからだ。自分が真ん中に立ち、仲間たちが血まみれで死に絶える光景が。そして、視界の端にチラつく、あの細長く不気味な黒い影の存在が……。
けれど、私はその恐怖を認めることができなかった。
「自分も狂っている」「幻覚を見ている」と認めてしまえば、この恐怖に完全に呑まれてしまう。みんなを引っ張る立場として、そんな弱音を吐けるわけがなかった。
だから、しぐれには「何も見ていない」と嘘をついた。
しぐれはすべてを話してくれたのに、私は恐怖とプライドから、自分の異常を隠し続けてしまった。
……それが、いけなかったのか?
私たちが「秘密」を作り、お互いに隠しごとをしたことが、あの女の呪いを強めるトリガーになってしまったのか?
気づいた時には、もう遅かった。
郷土史を調べている最中も、自分の部屋の暗がりでも、あの細長い黒い女は確実に私に付き纏っていた。タンスの陰から、窓の外から、じっと私を見つめ続けていた。
触られるのも時間の問題だ。
そう悟りながらも、私はしぐれの前で強がり続けた。
でも、しぐれは違った。
あの子は怖がりながらも、すべてを私に打ち明けた。隠しごとを捨て、私に真実を話した。
だから——しぐれは大丈夫だ。
しぐれは、私たちのような「隠しごと」というタブーを犯さなかった。あの忌々しいトリガーを、しぐれは無意識のうちに回避していたんだ。
もう私は間に合わない。もうあいつは私のすぐそばにいる。
私は恐怖とプライドから、自分に見えている幻影をしぐれに隠してしまったのだから。
「……しぐれ、喉が渇いたな。下に飲み物を取りに行ってくる」
「あ、私も行くよ! 一人にならないようにしようって——」
「いいんだ! すぐそこだから!」
私は思わず声を荒らげた。
しぐれを巻き込むわけにはいかない。
「……ごめん。ちょっと風に当たりたいだけなんだ。1分で戻る」
良かった……本当に、よかった。
私を頼ってくれたしぐれには、私たちのこと、私たちが一緒に過ごした思い出を、どうか忘れないでいてほしい。消えてしまうのは嫌だ。私たちの生きた証を、誰かに覚えていてほしかった。
私は最後のお別れ代わりに、震える手で小さなメモを机に残した。
『見えている』
『私にも見えている』
『怖い』
『しぐれには言えなかった。ごめん』
◇
部屋を出た私の目に、そしてしぐれの目に飛び込んできたのは、あまりにも残酷な現実だった。
「みと! なんで言わなかったの!? 見えてたんでしょ!? 私に話してよ!!」
しぐれが叫びながら近づこうとした、その時。
スマホが、低くブブッと震えた。
メッセージの受信音。
スマホを拾い上げ、画面を見つめた瞬間。
「……あはは」
乾いた自嘲の笑い声が漏れた。
「……送られてきたよ、しぐれ」
その画面には——今まさに台所に立っている私の後ろ姿と、その首筋に向かって、背後の闇からあの黒く細長い手がゆっくりと伸ばされている写真が映し出されていた。
「ダメ……! みと、逃げて!!」
しぐれが叫んで駆け出そうとした瞬間、私の背後の暗闇から漆黒の腕がにゅりと伸びた。
その細長い指先が、私の肩にそっと触れていた。
「……遅かったんだ」
涙をボロボロとこぼしながら、掠れた声で呟いた。
「言わなきゃ……全部打ち明けなきゃって……思ってたんだ……。でも……怖くて言えなくて……隠そうとしてる間に……もう私……あいつに触れられてしまっていたんだ……」
「みと……っ! やだ……やめて!!」
しぐれが必死で手を伸ばそうとすると、私はしぐれの目をまっすぐに見つめ、最後の力を振り絞るように叫んだ。
「来ちゃダメだ、しぐれ!! ……私みたいになるな!!」
「みと……!」
「私は……強がって……隠して……最低な奴だった……! でも……お前だけは……お前だけは絶対に生きてくれ!! 理由なんか分からなくてもいい……私たちが生きていた事を忘れないで欲しい……生き残ってくれ、しぐれーーっ!!」
しぐれは救われる。しぐれだけでも助かってくれてよかった……。
——そう思って引きちぎれるような暗闇に身を委ねかけた、その一瞬。
ゾワリと、背筋に凍てつくような冷たさが走った。
本当に、そうなのか?
本当に、それであっているのか?
あの女の、ぬめりとした嘲笑が耳奥で響いた気がした。
すべてを打ち明けたことが正解だったのか?
それとも、すべてを話したからこそ、しぐれは逃れられない別の残酷な役割へと引きずり込まれてしまうのではないか?
助かるためのきっかけなんかじゃなかった——?
むしろ、これはもっと恐ろしい、「次の主」へすり替えるためのトリガーだったのではないか……?
けれど、もう考える時間も、それを残されたしぐれに伝える術も残されていなかった。
視界が真っ黒な闇に塗り潰されていく中、私の存在そのものが、この世界から綺麗さっぱり削り取られていった——。
『群青の嘘 ~港の廃屋と消えた少女~』EXエピソード【みと編】まですべてのエピソードをお読みいただき、本当に、本当にありがとうございました!
あの子たちの別の側面や、語られなかった裏側まで描き切ることができて、作者としてもとても感慨深い気持ちです。
戯れに訪れたあの廃屋から始まった、少女たちの長い長い夏の終わりを、ここまで見届けてくださり感謝の気持ちでいっぱいです。
本作はこれにて完全完結となりますが、もし「この物語に出会えてよかった」「最後まで楽しかった」と思っていただけましたら、ぜひ画面下の【ブックマーク登録】や、評価【⭐⭐⭐⭐⭐】をポチッと残していただけると、この物語がずっと心に残る宝物になります……!
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また新しい恐怖や、ワクワクするような物語でお会いできる日を楽しみにしております。
本当にありがとうございました!




