File.Final『明滅する画面と永遠の足音』
港のすぐそばに佇む、焦げた木造の廃屋。
半焼したまま放置されたその建物は、容赦ない潮風と湿った雨に晒されながら、今も静かにそこに在り続けていた。
かつてそこで何があったのか。どんな少女たちが足を踏み入れ、どんな絶望の中でその姿を消していったのか。それを知る者は、もうこの世界には誰ひとり存在しない。
学校の教室に残されていたはずの座席も、卒業アルバムの集合写真も、スマホのクラウドに刻まれていたはずの思い出のデータも。少女たちがこの世に生きていた証はすべて、世界の歴史から削り取られていた。名簿の隙間は不自然に詰められ、誰も彼女たちの名を呼ばない。誰も彼女たちの不在を悲しまない。
世界は最初から何事もなかったかのように、冷酷なまでの平穏を保って日常を回し続けている。
けれど——人々の記憶から彼女たちが抹消されても、「現象」だけは消えなかった。
ただひとつ、「理由のない恐怖」と「不気味な都市伝説」だけが形を変え、街の若者たちの間でひそやかに、しかし確実に囁かれ始めていたのだ。
放課後の教室で。夕暮れ時の誰もいない街角で。あるいは、深夜の暗い自室のベッドの中で。スマホの画面をスクロールする指先から指先へと、その毒は伝染していく。
実体を持たない噂は、面白半分の尾ひれをつけられ、好奇心という名の罠を張り巡らせながら、次の獲物を探して広がっていく。
噂を信じ、面白がり、そして心にほんのわずかな「秘密」や「歪み」を持った者を、底なしの暗闇へと引きずり込むために。
あの半焼した廃屋の中で、永遠に終わらない時間を孤独に彷徨いながら、ずっと誰かを待ち続けている——あの黒い影の少女のために。
◇
季節は巡り、春の柔らかな日差しが差し込む校庭の隅。
新たな生徒たちが何気ない日常を謳歌する中で、噂好きの少女がスマートフォンを片手に友人たちを振り返り、悪びれもしない不敵な微笑みを浮かべた。
「ねえねえ、みんな知ってる? 港のすぐそばにある廃屋を5秒見ると、呪われるんだって」
『群青の嘘 ~港の廃屋と消えた少女~』、本編を最後までお読みいただき本当にありがとうございました。
廃屋を巡る夏の悲劇、いかがでしたでしょうか。
誰もが救われない結末に見えたかもしれませんが、彼女たちの物語はまだ、少しだけ――『続き(裏側)』があります。
次回より、しぐれ、まつり、うい……それぞれの視点を描く【EX】を公開していきます。
少女たちのさらなる一面や、隠されたエピソードをもう少しだけお楽しみいただければ幸いです。
また、別作品の1分で読めるショートホラー『隙間奇談 ~日常の「すきま」に潜む、奇妙な短編集~』も連載中です。
『群青の嘘』とは一味違う、サクッと読めるホラーとなっておりますので、こちらもあわせてお楽しみいただけたら幸いです!
▼『隙間奇談』はこちらから
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