30話 明るさと笑顔と、温かさ
彼女にしては珍しく考え込んでいた。
一点だけを見つめ、ときより赤縁メガネを指で押さえる。
「あーもー、ギブ。ギブアップです!」
どっかとソファに倒れた。
「もう終わり?」
「なによ、太郎のくせに、生意気ね」
「太郎は関係ないだろう?」
「いいから、教えなさいよ」
僕は笑みを浮かべてから、
「朽木琴音は最初から居なかった、が正解!」
「うそ! だって、おねえちゃんの静香だっけ? ほら、ここにも書いてるじゃん。姉妹なんでしょ?」
ノートを指さす。
「うん。静香さんも双子じゃないか、って言ってた。でもね、それでも彼女は存在しない。笠井淳子の記憶を上書きして、朽木琴音にしただけだよ」
「じゃあ、本体っていえばいいの? 誰も私じゃない? ううん、違うわね。私は私で、名前と記憶の一部が朽木琴音になってる。……ことで、あってる?」
「大体それでいいんじゃないかな」
「なんか、スッキリしないわね。太郎、あんた何か隠してない?」
「隠してないよ。ゴスロリだって、姉の部屋には……」
僕は慌てて口を閉じた。
「ん? 姉がどうしたって?」
ぐぐっと体を擦り寄せ、僕を覗き込んできた。
僕は、慌てて体を仰け反らせて距離を取る。
「なんでもないよ。僕の勘違い」
「怪しいわね」
「まあ、いいんじゃないか。彼がやったことだし」
「あっ。もう一人の太郎のせいにした。やっぱり怪しい! 白状しろ!」
しばらく僕の部屋では、白状しろ! いやない! の繰り返しが続いたことは言うまでもない。
「つ、疲れたわね」
「追いかけるから」
「太郎が逃げるからでしょ」
「追われると、逃げるでしょう」
「うっさい。黙れ、もういい。ほんと、疲れた」
再び、二人でソファに倒れ込んだ。
いつまでも、笑い声が響いていた。
僕の部屋に、明るさと笑顔と、温かさが揃った瞬間だった。




