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28話 その後に、

 

 団地に戻ると、二人してソファに座り込んだ。

 気疲れというやつだろう。


 体の芯が重い。


 それを更に重くさせるものが、目の前にあるからかもしれない。


 テーブルの上に乗った、真鍮の爪切り。

 使い方は、分かっている。


 どう使うかではなく、どう壊すかだ。


「ねえ、この爪切り、使い方を知ってるふうだったけど。聞かなくてよかったの?」

「あ、うん」


 短く答えた。

 今は考えたくなかった。

 色々、頭を使いすぎて、脳みそがパニックだ。


「うん、じゃなくて」

「わかってるって。あ、そうそう。どうして僕が奢らないといけなかったの? 間違えたら奢るって約束じゃなかった?」

「そうだよ」

「そ、そうだよって。どこで間違えた?」


 赤縁のメガネの奥が細くなる。

 え、そんな目をされても。


 じっと僕を見て、


「身に覚えはないってわけね」

「ああ」

「じゃあいい。また奢ってもらうから」

「なんでそうなるんだよ。説明してよ」

「い・や・だ。気づいてない罪が、一番始末に負えないのよ。気づくまで、奢ってもらうから」


 それ、ひどくない。

 あと、僕は間違えであって、罪じゃないと思うんだけど。


 なんだか、少し軽くなった気がして、体を起こした。


 真鍮の爪切り。


 五つ目。

 また奇数だ。

 本当に嫌になる。

 彼は、どこまで僕に気づかせればいいんだ。

 僕って信用ないのかな。


「なにブツブツ言ってるの?」

「あ、ちょっと考え事してて」

「そう。で、私の正体? 行けば分かるって言ったけど、私はわかんない」


 つい彼との会話で熱くなり、忘れていた。

 取り繕うように、背筋を伸ばし、彼女に向き直る。


「それじゃ、説明する。知恵の輪みたいに、グルグルするけど、わからなかったら言ってね」

「うん」

「まず、君は誰か。答えから先に言うと、笠井淳子さん。朽木琴音でも静香でもない」

「うん。どうして?」


 ちょっと待ってと言って、ノートを取り出した。

 さっきまで見ていたページをめくり、消しゴムとペンを走らせた。


1989年 笠井淳子         鋼鉄の爪切り(リスポーン)


1993年 奇数の四周期       赤の爪切り 過去

1997年   〃          白の爪切り 現在


2002年 偶数の四周期 加藤健太

2006年   〃    木村朱里 

2012年   〃    前川結衣

2016年   〃    山田紗倉


2022年 偶数の四周期 朝霧めぐみ 金属の爪切り 未来

                   (真鍮の爪切り)  


2023年   継承   朽木静香

2024年   継承   朽木琴音

2025年   継承    〃


2026年 偶数の四周期 相沢太郎



 2023年から2025年までを表に書き加えた。


「四周期以外は書かなかったけど、本来はこうなっているはずなんだ」

「うん。爪切りも追加した?」

「分かっていることだからね」


 ペンを置いて、続けた。


「もう分かったでしょ?」

「なーんにも」

「ちょっとは考えてよ」

「太郎が考えなさいよ。私は聞き役なんだから」

「あ、はい……」


 軽く咳払いをして、話し進める。


「僕たちは、朝霧くんが未来から来たと思っていた。でもほら、違うでしょ? 彼は未来じゃない。過去から来たんだ。朝霧くんから見たら、僕たちが未来の人になる。これが、真相だよ」


 彼女はノートを食い入るように見る。

 二重瞼の瞳が、徐々に開かれる。


「ほんとだ。朝霧は過去の人だ。で、私たちが未来人?」

「もちろん、誰の目線で話すかによるけど。客観的に見ればそうなる」

「なるほどね。過去の人か……って、じゃあ太郎は?」

「僕? 僕は過去から見れば未来の相沢太郎。でも、2022年では、朝霧めぐみ」

「は、はぃ? わけわかんないんですけど」


 彼女の期待に応えるように、ゆっくりと言葉にした。


「彼は、過去から未来に来た。未来の爪切りを使って。現に、朽木静香も僕の家で暮らしていた。それを過去の彼がどうやって、未来の事実の確証を得たのか。彼に出会って気づいたよ。彼も奇数が嫌い。そして四周期目の自分が奇数であること。継承は偶数しか選ばれない。なぜ選ばれた? 行き着いた答えは、自分は特別なんじゃないのか」

「太郎もそう思ってた、ってこと?」

「うーん。どうかな? そんなことはないけど、どこかで感じているかも」

「どっちも自惚れやさん、ってことね」

「あ、はい」


 ちょっと恥ずかしい。


「未来を、継承するのは難しいんだよ。まだ起きてないことだからね。簡単に言うと、これから起きるであろう未来で、爪で作った絵を継承していくように守る、ってことだから。無理難題だよ。でも、それを可能にする爪切りを彼は、見つけたんだ」

「それが、この真鍮の爪切りなのね?」


 彼女はそう言って、ノートから爪切りに視線を移した。

 僕も一緒に、見る。


「うん」

「大まかにだけど、理解はできた。それで、私は?」

「彼は僕と同じで、奇数が嫌いな人だ。というか、彼が嫌いだったから、僕も嫌いだった。という方が、ここでは合ってる。それで、過去から未来を見て、継承が途切れるかもしれないと思った」


 はいはい、と手を上げる。


「ちょっと分かりにくい。過去から見て、未来の継承が終わる? それ、誰が終わらすかを知ってたってこと?」


 僕は小さく頷いて、彼女の目を見た。


「僕が終わらすんだよ」


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