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26話 手を繋ぐ

 

 手を繋ぐ。

 横に並んで歩き、手を繋ぐ。


 初めてだと思う。

 一度、制服の袖を引かれて歩いたことはあった。

 あの頃は、いつも彼女が前を歩き、その背姿を見て、ついて行くだけだった。


 あの日から僕たちの距離は、変わったようで変わっていない。

 いま、こうして手を繋いでいても、彼女の存在を遠くに感じる。

 一緒に暮らし、一緒にご飯を食べ、一緒に……。


 涙を我慢する。


 結末は分かっている。


 それでも僕は、違っていて欲しいと心のどこかで願っていた。

 矛盾したこの気持ちを吐き出せば、きっとわがままだと笑われるだろう。

 それでもいい。

 今すぐ、逃げ出したい。

 二人で誰も知らない場所に、逃げ出したい。


「ねえ……」


「ねえ、太郎」


 呼ばれていることに気づいて、横を見る。


「あ、ごめん。なに?」

「歩くの速いし、手も痛い」

「ごめん」


 すぐに謝って、手を離す。


「……痛いって言っただけ」

「え?」

「馬鹿、気づけ!」


 え? え?

 困惑する僕の手を、彼女が握り返した。


「え、え、え?」

「エ、が多いし、うるさい」

「ごめん」


 最後のごめんは笑顔で言えた気がする。

 そんな僕を見て、彼女も笑う。


 ずっとこんな日々が続けば良いと、心の底から思った。


 二人が行き着いた場所。

 笠井ばあちゃんの定食屋。


「ここに居る。話は僕がするから、黙って聞いていてくれる?」

「……うん」


 互いに頷き合い、手を握ったまま古い引き戸を開けた。


 並んで入る。

 温かい空気と、安心する匂いに包まれる。

 色褪せ古ぼけた水着姿のポスターと目があった。


 いつもと同じ。ここは何も変わらない。


「いらっしゃい」


 テレビを見ていた笠井ばあちゃんが振り向いた。


「あら、太郎ちゃんに、彼女も一緒なのね」

「うん」


 あの世界では、否定したが、今は違う。


「ばあちゃん、ちょっと話があるんだ」

「私に? なに?」


 僕は視線をズラし、首を横に振った。


「ちょっとだけでいいから、席を外してもらっていい?」

「……うん。別にいいけど」


 少し不安そうな表情を浮かべながら、厨房の奥に入っていった。


 僕は、一息ついて振り返る。

 入り口近くに男の人がひとりで座っていた。


 あの世界でも、彼はひとりで座っていた。

 そして、この世界でもひとりだった。


 変わらない定食屋の中で、彼も変わらない。

 ずっとここにいる。

 それはなぜか。


 変わらないことを望んだ人物。

 そして、未来の爪切りを使っても、変わらない意思をもつ者。


「はじめまして、朝霧めぐみさん。いや、朝霧めぐみくん」


 彼はゆっくりと顔を上げる。

 息を止めて、待つ。

 僕は知っている。


 その顔は、僕にそっくりだった。


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