24話 上から目線で、ホッとする
爪切り暖簾。
初見だと普通、誰もが嫌悪を抱くだろう。
僕もそうだった。
「だから、見る角度を変えてみたんだ。四周期目の人は守る人。だったら、嫌悪するんじゃなくて、象徴にしようと思った。そのためには、絵の作成に使われた爪切りを毎年飾る。そして、ずっと続いているんです。これは文化なんです、って」
「なんだか、ホラー染みてきたわね」
僕は、ははっと笑う。
「うん。ホラーだよ。守る側はきっと、恐怖を使ってでも、守りたかった。そんな感じではじまったんだと思う。暖簾に爪切りが吊るされていれば、誰だって驚くから。そうやって毎年、絵の制作で使った爪切りを飾っていった」
僕は、廊下の方を指さした。
「で? 赤の爪切りはどうやって生まれたの?」
「よく考えてみて。僕ら側からしたら、気持ち悪いもの。でも、それが逆だとしたら?」
「逆ね……。うーん、気持ち悪い?」
「半分正解。彼らは気持ち悪くなかった。だから『神聖』化したんだよ」
「 ええっ! なにそれ!」
正常な反応に僕はほっとする。
「そう考えれば、守るべき象徴として、『磨き上げるため』に捧げられるようになった。これは完全な僕の妄想だけど、四周期目の人が使った爪切りは偶然、赤色だった。自分の使った爪切りを神聖化しようとした。だから、赤の爪切りを使えば、過去の記憶が戻るという現象を引き起こした」
「わかったわ……。記憶が戻って、過去の継承を続けさせるのね」
「うん。でも、僕たちみたいに、過去の記憶がなかったり、正常な人にとってはむしろ、継承自体を否定しているんだから、目が覚める」
僕は、そこまで話してから、笠井淳子さんを見る。
彼女が、正常、こちら側の人であることを、今一度確認したかったから。
「よし。赤の爪切り誕生秘話は納得した。途中ちょっとホラーだったけど、許す」
「あ、ありがとう」
かなり上から目線だけど、ホッとした。
「次は、簡単だよ。神聖化の次はどうする?」
「ち、ちょっと待ってよ。今考えるから、急かさないで!」
彼女は、赤縁のメガネを指先で押し上げた。
ふと思い出す。
朽木先輩流で行くのをすっかり忘れた。
悩む彼女の影で、僕はひっそりと笑顔を作った。
「わかった! わかったわよ!」
手を大きく上げて、声を張り上げる。
「お、うん。言ってみて」
「白の爪切りは現在だから。今の文化を持続させるためのものじゃない?」
「うん、正解」
「なによ、もっと喜びなさいよ」
「あ、すごいすごい」
「棒読みなんだけど」
目が吊り上がり、猫の威嚇を連想させた。
それも、子猫の。
笑いを堪えつつ、
「ごめんごめん。ちょっとだけ補足するね。次の四周期目の人。分かりやすいように二代目とするね。その二代目は、過去を振り返るだけ足りないって考えた。守るためには、神聖な爪切りを広めようとしたんだと思うんだ」
「ちょっとちょっと。ホラーを越えて、宗教になってんじゃん!」
僕は頷いて、赤と白の爪切りを、テーブルの脇に移動させた。
残るは二つ。
次からが、ちょっとしんどい。
神経をすり減らすだろう。
僕は、いつの間にか彼女を見る目が変わりつつあることに気づいた。




