23話 瞬きで、わかる
僕は、ノートを見ながら説明を始めた。
「まず、順番通りに説明します。表では、淳子さんが一番上で、最初なんだけど、あえて順番通りにいきます」
そして、ちらっと彼女の横顔を確認する。
瞬きをするのを見て、僕は話を進めた。
「初めてこの世界の異変に気づいた人は、1993年。名前は別の紙だから覚えてないけど、最初の四周期目の人だったと思うんだ」
「はいはい」
彼女は手を上げる。
「なに?」
「なんで四周期目なの? 三や五周期じゃダメだったの?」
「うん、やっぱり気になるよね。じゃあ、先にそこから説明するよ」
僕は、1989年と書いた。そして、11月31日。
「毎年、一日多い繰り返しをする。すると、二年で二日、三年で三日と続き、四周期目で四日多く日々を過ごしていることになる。ここで質問です。四という数字の意味は?」
「四に意味なんてあるの?」
「あるよ。偶数だし、僕の好きな数字の一つだから」
「知らないわよ、太郎の好きな数字なんて。さっさと教えなさい!」
僕は慌てて、話しだした。
「四は、一巡りなんだ。例えば、四季は、春・夏・秋・冬で四つ。変わったところだと、東西南北も四つ。そしてうるう年もそうなんだ。一日、0.25日が積み重なって、小さな誤差が、ちょうど四年で一日になる節目なんだ」
「へー、知らなかった」
僕はテーブルを指さす。
「これもそうだよ。テーブルも椅子も、四本の足で立っている。四は構造的に安定を示す数字でもあるんだ」
「なるほど。だから四年目の人が、異変に気づいたんだ」
僕はそこで首を横に振った。
「はじめは僕もそう思った。異変に気づく人だって。そして、歪な世界をどうにかしようって。でもそれは違ったんだ。さっきも言ったように四は安定を示す数字でもあるんだ」
「あ! わかった。気づく人は、世界を壊そうとしたんじゃなくて、守ろうとした」
僕は大きく頷いた。
「いつの日か、爪で作る絵を、辞めるという人が現れるんじゃないかって。だから、四周期目の人は、
継承を守ろうとしたんだ。四年に一度、継承が守られているかどうかを確かめる」
「監視してたってこと?」
「うーん。そこまではじゃないと思うけど。継承を守るために、色々考えたんだと思う。絵の制作だけじゃなく、爪切りも継承させようって。これは僕の考えだけどね」
「そういうことか。うん、続けて」
「うん。爪切りの存在に気づいた四周期の人は、続けようとしない人。辞めたいと言い出す人。他にも理由はあったと思う。でも、その人たちを納得させるには、爪切りを継承させて爪を切る。だから、爪切りの秘密に気づいた。もしくは、願ったのかもしれない」
彼女はしばらくの間、僕の話を咀嚼し飲み込むように、ノートをじっと見ていた。
「そっか。そんなことが……」
吐息のような声だった。
自分が起点だとしても、ここまで広がるとは想像もしていなかったのだろう。
だからこそ僕は、彼女は幸せになるべきなんだ。
僕はそう強く思い、再び話を続けた。
「じゃあ、話は最初に戻るね。爪切りの役割。そして、爪切り暖簾が出来た理由を」
視線は自然と廊下へ向いた。




