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17話 デートだ、デート

 

 頭が痒くなってきた。

 今のままではだめだ。

 誰か、僕の頭をアップデートして欲しい。


 ん?

 アップデート?

 アップとデート。

 そうだ!


「デートだ!」


 声を張り上げた。


「きゅ、急になによ」

「うん」


 僕は目をつぶり、眉間に皺を寄せる。

 しばらくしてから目を開けて、彼女を見る。

 なぜか、頬が赤いが気にせず続ける。


「デートだ、デート!」

「わ、わかったよ。……急にそんなこと言われても」

「え?」


 顔を背けて、向こうを向く。

 何かおかしなことを言ったのだろうか?

 まあいい。


「それで、聞きたいんだ」

「な、なにを? 私にだって心の準備ってものが」

「うん。分かっている」

「……うん」


 僕は日付を考え直した。

 彼女が自殺した日。

 そして、次には教室にいた。


 日付がアップデートされた、と考えればどうなる?

 普通なら12月1日。

 でも、11月31日という在りえない日付になった。


 間違ったアップデート。


 そう考えれば、世界が歪むのも納得できる。

 そもそも、彼女は一度亡くなっているのだから、無理な考え方じゃないはずだ。


「聞きづらいんだけど、いいかな?」


 僕は彼女を見ながら話す。


「な、なに?」


 戸惑うのも無理はない。

 これはプライベートなことだから。


「最初の、名前は?」

「さ、最初もなにも……したことないわよ」

「え?」

「だから、デートしたことないの、悪かったわね! 馬鹿っ」

「はあ?」


 その後……。


 彼女の勘違いが分かり、僕の肩はサンドバッグのように叩かれた。

 痛い、痛すぎる。


「ごめん、僕の説明が下手すぎた。ごめん」

「ふん!」

「……それで、最初に戻ったときって、名前は笠井淳子だった?」

「そうよ!」

「その名前で繰り返した?」

「そうよ!」


 うっ、聞きづらい。


「他のクラスメイトは?」

「そうよ!」


 やば、完全に怒ってる。


「クラスメイトの名前は、変わってない?」

「そうよ!」


 やっぱりそうか。

 同じ世界を繰り返す。

 なのに、彼女の対応だけが違っている。


 もしかして、それって彼女自身が作った心象世界ってやつなのか?

 そうだとしたら、また話は変わってくる。

 僕はてっきり違う世界に迷い込んだと思っていた。


 うーん。

 一体どうなっている。


 ふと彼女を見ると、向こうを向いたままだった。


 今日は諦めよう。

 これ以上聞いたら、本気で怒りそうだ。


「今日はもう疲れたし、風呂入ってくるよ」


 彼女は僕の顔を、キッと睨みつけた。


「あなたも言いなさいよ!」

「なにを?」

「……デートよ! 馬鹿っ」


 なるほど。

 不公平は嫌い、だと。

 あの世界から続いてる、彼女の取説に、今度は赤文字で記載した。


「したことないよ」

「ふん」


 彼女は最後まで僕を睨みつけ、部屋に戻っていった。


 女の子って、難しいです。



 次の日。

 物音で目が覚めた。

 スウェット姿の彼女が、台所で何かをしていた。


「おはようー」

「おはよう」


 まだ怒っているらしい。


「なにしているの?」

「パン焼いている」

「そ、そっか」


 僕は起き上がり、洗面台で顔を洗い、戻ってくると。


「これは?」


 テーブルに朝食があった。

 焼いたパンと、ホットミルク。

 その横に、焼いたウィンナーがあった。


「黙って食べなさい。一言でも口を聞いたらもう作ってあげないから」

「はい……」


 ソファには座れない。

 彼女の正面に、僕の分が置かれていたから。

 終始、見られながら食べるのは、すごく食べづらいです。


「それで」

「それで?」

「昨日の続き。なにかわかったの?」

「あ、うん。まだ全部じゃないけど」

「そう。まとまったら教えなさい」

「はい」


 そのためには、行かなくてはいけない場所がある。

 僕は、意を決して。


「今日、ちょっと出かけたいんだけど」

「いってらっしゃ」

「……あ、うん」


 皿とコップを洗い終え、着替えた。

 ダイニングから声を掛ける。


「行ってくるよ」

「……」


 僕はこの日ほど、爪切り暖簾が邪魔だと感じたことはなかった。



 自転車を漕いで、早朝の町を走る。

 三が日が過ぎても人は多かった。

 それが嬉しくもあった。


 あの世界では、ほとんど人と会わなかった。

 特定の人だけ。

 それが不思議とも思わなかった。


 今思えば、おかしなことだらけだ。

 部屋にいても近隣の声はもちろん、車の音一つしない。


 でも、今は違う。


 どこを見ても、活気にあふれ、動き、呼吸している。

 これが僕の知っている世界だ。


 いつものように、裏門に着いた。

 扉を開け、砂利道を歩く。


 旧校舎の正面に回り込むと、工事用バリケードがあった。

 横をすり抜け、中に入る。


 淀んだ臭い。


 二階には向かわず、下駄箱に目を向ける。

 彼女は一年生を繰り返していた。

 だったら、あるはずだ。


 一年生と書かれたプレートの下駄箱を順番に見ていく。

 古くて見えづらかったが、あった。


「笠井淳子。彼女はこの校舎にいた」


 なんで最初から気づかなかったのか。

 後悔と腹立たしさが同時に押し寄せ、胃がムカムカした。


 すぐに他の下駄箱を見に行った。


 明らかに違う。

 他のクラスの下駄箱は、何度も消された跡があり、見づらい。

 毎年、生徒が変わるのだから当たり前だ。


 だが、彼女のクラスだけは違った。

 繰り返さない。

 ずっと同じ。


 この矛盾が、世界を歪めている。


「次は、彼女が笠井淳子として繰り返したのに、どうして僕と出会ったのか。どうして、朽木琴音と名乗ったのか。それさえ分かれば……」


 声に出して確認する。

 意識することで、見えなかったことも見えてくるはずだ。


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