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勇者はまた眠る  作者: KURA


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06話 緑のゴブリンと薬草

鳥の鳴き声と風、つまりは朝の気配だ。

軽く冷たい空気が脳にしみこんでいくのを感じる。

指先に上手く血が回っておらず、動かすのがすごく億劫だ。

数秒ほど目を瞑ったまま横に立っていると、少しは血行も良くったのか体を起こすことが出来た。


「あー、うん。ちょっと寝不足感がある。が、まぁいいだろう。椅子は所詮椅子、座るためのモノであって眠るためのモノじゃない。よく眠れただけ百点満点だ。残念な事に今日も今日でやることがたくさんある。動かねぇと」


そのままもう一度横になり目を瞑ってしまいたい誘惑を断ち切るべく、あえてすべて口に出して動かなければならないと再確認した。

立ち上がると寝起きに急に動いたものだから鋭い眩暈が俺を襲った。倒れるほどのモノではないが少しよろける。

気怠く、地面に吸い付くような体に思いっきり伸ばして鞭を入れる。


えーっと、今日やらなきゃいけない事は……森に行ってみる事、そして薬草を探す事と……あとは戦闘訓練位か。

森で少し植物を見たいというのがある。命があふれた森だからこそ此処は違う世界なのだという確信を持てる事だろう。

そして薬草を探すことだが、これはこの世界の薬草というものがどういうモノなのか確認することそしてどういう場所に生えているのか把握しておきたいというところだ。

薬草と言えばゲームで言う回復アイテムのようなイメージを持ってしまうが実際にそう言った物は現実ではなかった。だがこの世界ではあるかもしれない、異世界なのだから。確認しておいて損はないだろう。


ゴブリンと戦う事だがこれはこの世界の世界観を確認したい意図がある。

地球では妖精の堕ちた姿とかだったか? いや妖精自体がろくでもない存在だったろうか? 眠気に染まった記憶は酷くぼやけてしまっている。

創作なんかじゃ雑魚扱いされるゴブリンだがこいつの強さは作品によってまちまちだ。

そして掲示板の絵を見る限りゴブリンらしき魔物はここにもいるようだ。

このゴブリンがとても強いのならこの世界への警戒度を一段買い上げることになる。

脅威足りうる存在が闊歩しているというのならこの教会でずっと寝泊まりするわけにもいかないかもしれないしな。流石に寝ている間に武器を振りかぶられてはどうしようもない。


そして俺の覚悟を再確認するという意味もある。

俺は昔爺から山に置き去りにされて狩りをしたこともあったが相当前の話になる。

あの時も爺に強制的にされたことで必死だった。生きるためならば生き物は何だってできる。

だから俺は生きている存在を殺すことが出来るのかという疑問がある。躊躇しないか、心理的ショックに立ち竦んでしまわないか。

ゴブリンは恐らく人型であるが俺は殺せるのだろうか。

今の俺の考えでは殺すことが出来る。だが口では何とでも言える。実際にやってみないとわからない。

何かあってからでは遅い。人を殺せるという確信をもって俺はこの世界に備えたいという考えがあるのだ。

眠るのは好きだが、死にたくはない。そしてどこかで俺が野垂れ死にしてしまえば一緒にこの世界に来たであろう友二人に大きな傷を作ってしまうだろう。死ぬわけにはいかないのだ。


「ま、ごちゃごちゃ考えるよりも動くとするか。日が暮れて眠くなっちまったら困るしな」


俺は立ち上がると教会から出て近くの国に向かう。

日はまだ真上ではなく鳥が鳴いてたこと、気温が昨日よりも低いことから時計なんて持ってはいないが、朝なのだろう

今日はまだ始まったばかりだ。



教会から反対側に森がある、つまりは最短距離を通りたいなら国の中を通る事になる。

といっても国の中を通ることに対して忌避感などはないのだが。

それに人を観察することが出来る。この国の特色を確認できるのだ。

怪しまれない範囲で辺りを見ていると活気や人間の笑みというものが見れる。

人間が笑っていて陰気の少ない国というの印象を覚えた。慌ただしく人が行き来しているが、強迫観念等は感じられず良い意味で忙しさを感じる。

宗教色もそこまで目につくことはない。

俺の友人二人はそこまで悪い待遇は受けていないだろう。

……だが恐らくこれは俺の願いも入っている。

動ける人間はいた方が良い、つまり合流はしない。だからこそそう願うしかないのだ。

一つ、懸念点があるとすれば何故この国は俺たちを呼んだのかという点があまりにも不明な事だ。

二人が居るとはいえ俺を解放し、歩き回っている感覚では明確な敵も見当たらない。

目的が見えない。


「おい! あんちゃん、ここらで見ない顔だな。やるよソレ」


考え込んでいるとそう声をかけられた。

その声の方向を向くと赤い玉のようなものががこちらに飛んできていた。

それをキャッチして見てみると果実のようだ。声の主は果実がたくさんある店でいかついおっさんで、こちらを笑顔で見ていた。

俺が知り合うのいかちぃのばっかだな、おい。

だが決して怖いものじゃない。子どもなんかは泣くかもしれないが、誤解を受けるにはあまりにも人当たりが良すぎるおっさんだ。


「いいのか? 今手持ちが無いから買う事は出来ないぞ」

「おう! なんか浮かない顔してっからさ。これでも食って頑張んな」

「ありがとう」


良い人だ。

我ながら単純だとは思うのだがこういう町は良いと思う。

このような小規模の国であると俺という新参者はすぐわかる。

だがそれに対して警戒するわけでもなく、果実を分けるというのはなかなかないと思う。

いや小規模だからこそ、なのか?


赤い果実を一口かじる。口の中に味というモノが広がる。美味いというにはとげとげしい味だが、これ位が良いのだ。

現代社会の感覚で言うとこれはまずいの範囲だろう。

酸いし、甘みもない。筋が強く口に結構残る。

まぁたまにがこんな野性的なものも良いさ。生きていると感じるくらいの酸っぱさが。



国から出る。

門を出ると左半分の地平線が森で隠されていた。

そりゃわかるわ。だがあまりにも近い。壁も堅牢には見えないが、寄ってくることはないのだろうか?

しかし結構な規模の森だな。ここからじゃどれほどの大きさなのか窺い知る事は出来ない。

クソ爺に追い掛け回されたのを思い出す。

アイツ真剣もって追い回すからな。修羅だよ修羅。

山姥に追い掛け回される子供の気持ちはこう言った物なのだろうと思った記憶がある。


国と森の距離は教会ほど離れておらずすぐに森へと着いた。

木や草を見てみるが、どう足掻こうとも見覚えがない。

ここは異世界のようだ。


「さーてまずは薬草探しだ」


掲示板で見た薬草の絵を思い出しながら森を歩いているとそれらしき草が木のそばに生えているのに気が付いた。

一応右目で情報を引き出して確認するが、やはり薬草で間違いない。

んで木の近くに生えてると思ったらコレ、木の根っこにも生えている。

なるほどなぁ。面白い生態をしている。生命力が強いところに生えているのか?


次にやることとなればゴブリン探しだ。

耳を澄ましてみると遠くにやたらうるさいのがいる。動物にしてはあまりにもうるさすぎる、人にしては知性を感じない声だ。

恐らくソレだろう。剣を抜き鞘をベルトに付けてはいたが、辺りのツタのような植物で軽く縛っておく。

動いている時に外れそうだが無視だ無視。最悪あとで取ればいい。

こうなると剣を持ち運ぶためのベルトでも買えばよかった。

剣を持ち歩いたことが無かったために忘れていた。


しばらく音の方向に歩いていると枯れた葉を踏む音が聞こえ体をかがませて身をひそめる。

木の隙間から見ると緑の体で毛皮で体の急所、つまりは頭と胸と股間を隠しているゴブリンらしきものが見えた。それも二体。

ん……臭いが強いな。クマのような強い獣臭ほどじゃないが……風呂に長い間入っていないおっさんとクマの中間のような酷い臭いだ。

長く嗅いでいれば気分が悪くなる。さっさと終わらせよう。


ゴブリン一体が俺から反対の方向を見た時駆ける、首めがけて剣を振る。

……浅い。剣重いなぁやっぱ。首を落とす気で振るったのだが首の骨で引っかかった。

血が噴き出る前に蹴る。良かった、筋肉量はそうでもないようだ。筋肉が厚いと剣が抜けない可能性があった。


「んー。ま、お前は死んどけよ」


そのまましっかりと剣の重みを感じながら二撃目を間髪を入れずにもう一体のゴブリンに振る。

こちらは剣の重みを認識した上で放った一撃であったためゴブリンの頸が飛んだ。

しくった。やっぱ鈍ってるな。今度は飛ばすつもりはなかったのだが。

おっとっと、うえ…避けはしたが服に血が付いた。


バディを失ったゴブリンは小うるさく鳴いている。首を半ば切断したのに元気な事だ。もしかしたらこちらの世界の生き物の方が生命力が強いのかもしれない。

もしかしたら言語があるのかもしれないが俺にはわからんし、知らん。

頸に手を当て流れ出る血を止めようとしているゴブリンの胸に剣を突き立てる。


その時音が聞こえた。

これは……弓か! 


突き立てていた剣のグリップを足場にしてその場で縦に一回転をする。

回転中に下を見ると目の前に居たゴブリンではなく地面に矢が刺さっていた。

足を狙ってきやがった。

弓が弾む音を聞いて間に合ったって事は少し距離があるな。


ゴブリンの腹を貫通している剣を地面から引き抜き、振り返ると三体のゴブリンが走ってきている。

弓を持っているゴブリンが二体。小さな頭蓋骨の首飾りをつけているゴブリンが一体。

首飾りを持ったゴブリン一声鳴くと弓を持ったゴブリンが俺の周りに離散した。

恐らくあのゴブリンがリーダーなのだろう。


「やばそうだな。よし、先にお前から飛ばす」


弓を持っているゴブリンはまだ矢を掴んでいない、多対一まではまだ少し時間があるな。

首飾りのゴブリンに肉薄し剣を振る。

残念な事にこのゴブリンは剣を抜き放ち俺の剣を受けた。

その剣は錆びが多くそして血を帯びていた。

ゴブリンは俺より少し小さい、つまりは小柄だ。だがこの剣は大人用だ。


「よいしょ。大層な獲物使ってっからそうなるんだぜ」


このゴブリンは明らかにこの剣の重さを扱えていない。少し強く剣を叩いてやるとすぐに取り落とした。

剣を落としたゴブリンは慌てたように拾おうとしゃがむ。

だがそれを許すほど俺はぼんやりしてない。

首飾りを掴みゴブリンの姿勢を崩す。

後ろで弓の音が聞こえた為に横に跳ぶと姿勢を崩していたゴブリンの頭に命中した。

良い狙いしてやがる。

思い切り引っ張った為にゴブリンの首飾りが壊れた。


「あん? この頭蓋骨……子供の骨か」


しかもこの形、地球で知ってる人間の頭蓋骨じゃねぇ。

額にほんの少し突起がある。

頭に矢を受けて倒れているゴブリンの頭には見えにくいが小さな突起が見えた。

ゴブリンが小柄とはいえこの大きさは子供に違いはなかった。


「あーあ。胸糞悪いもん見せやがって」


事情なんざ知らん。コレが戦いの勲章だろうと感傷の結果だろうと。

だが気付いてしまった。いらん事に。


「最悪だ。目覚めが悪い」


倒れ伏すゴブリンに首飾りの骨を返す。

それが例え勲章だったとしてもあの世へ持って行け。


木を盾にリーダー格を失い混乱している二体のゴブリンたちに近づく。

痩せてっから骨の位置が分かりやすくて助かるよ。

心臓を突いて、足を半分ほど斬って動きを止める。


一体無力化すると危険に気付いたのかすぐに俺に弓を向けてきた。

でも弓って近づかれた時点で負けなんだよな。剣も持ってないお前は特に。


「近接武器持ってなかったことを恨め」


弓を切られ、武器を失ったゴブリンは心臓に刃が刺さり、崩れ落ちた。

戦闘終了。

いつの間にかついていたのか血が手に付着していた。

その手をじっと見る。俺はどう感じているのだろうか。戦闘で脳内に蔓延していたアドレナリンが冷めた今そう思う。

命を殺した今俺何を思っている?


「さてゴブリン討伐の証拠は耳だったか」


二体の耳を切り取り、首飾りのゴブリンに近づく。

壊したのは悪いとは思うが……まぁ、俺の睡眠の質も悪くしたんだからトントンな。


首飾りのゴブリン、最初の二体の耳も切り終え俺は今日の目的を終えた。

日も天辺を超えて少しずつ落ちてきている。

早く帰るとしよう。この森で眠りに落ちたら確実に死ぬことになるだろう。



「今日の探索はおーわりおわり」


森を出て今まで張っていた気を緩ませる。木々で遮られていた陽の光が温かく感じる。気分的なものかもしれないが、やはり森の中と外では感じる温度が違うように感じた。

あのゴブリンたちとの戦闘を終えて俺は気を緩ませて森を歩くという事は出来なかった。

彼らはちゃんと殺意を以てこちらを攻撃している。一撃良いものを貰ってしまえば俺はこの森から出る事は出来なくなるだろう。


後はギルドで報告するだけだが……少し剣も振りたいな。昔爺の元で武器を振らされていた時もあったが、どうしても筋力というモノは落ちているものだという事が今日分かった。筋トレというものが必要になるだろう。

だが、少しだけだが眠たくなってきた。それを終わらせるまでは頑張ることにしよう。



国に戻りギルドへと行く。

掲示板にてゴブリンの証拠が耳であったか確認しているとギルドマスターが近寄ってきた。


「よう。森帰りか?」

「うん。薬草採取とゴブリンを数体倒したよ」

「ルーキーにしちゃいい成果だ。だが調子に乗るなよ? 調子に乗った奴はすぐに死ぬ。そうだ、あの爺さんがさっき来てたが五日ほど過ぎたら来いだとさ」

「意外に早いな。数か月は覚悟していたが」

「あの爺さんが異常なんだよ。腕は一級なのさ」


どこもかしこも爺は化け物ばかりか。

あのくそ爺も職人の爺さんも長い時間を生き残った奴らは恐ろしくてかなわんな。


「じゃあ受付に行ってくる」

「おー、困ったら俺を呼んでも良いぞ」

「助かるよ。ギルドマスター」


受付に行きゴブリンと薬草の納品の旨を伝えると対応してくれた。

耳と薬草を渡すと受付の人が退席をし、少し時間を置くと貨幣を持って帰ってきた。

今回稼げたお金は銅の硬貨二枚、銀の硬貨六枚だった。

確か昼に貰った果実が銅貨二枚ほどだった気がする。

銀貨はちらっと見かけた干し肉一つで銀貨一枚であった。

まぁ数日細々と生きるには十分な金だ。


「お、意外と稼いでんな」

「うっかり遭遇しちゃってさ。そんなにしっかり戦う予定じゃなかったんだが」

「それでも生きて帰って来たお前は将来有望って事だ。それ、ルーキーの死因ナンバーワンだぜ」

「だろうな。ありゃやられる」

「ま、その金で贅沢でもするといい。食える時にいいもん食っておくのが冒険者流だ。死んだら食えるもんも食えなくなっちまうからな」

「ギルドマスター。そのようなことを吹き込むのはどうかと」

「怒られた」


静かに俺らの話を聞いていた受付の人からの冷静な言葉にギルドマスターが困ったように笑う。

理屈はわかるがさすがに早死にしそうなことを吹き込まれているのを無視はできないわな。

といっても受付の人の表情から察するにいつも言っているのだろうと思う。半分冗談半分本気の彼が良く使うジョークなのだろう。

ま、食も酒も興味なんてこれぽっちもない俺は贅沢なんてうまくできないんだが。

良い武器は欲しいが頼んでるものがあるし。


「じゃ、俺はこれで帰るよ」

「おう。じゃあな」


ギルドマスターに別れを告げ、受付の人に一礼をしてギルドから出た。

太陽の高度はどんどん低くなっているが未だ夕方というにはまだ早いだろう。



教会につく頃には日は地平線に半分ほど沈み夕陽が差している。

俺の瞼にかかる眠気という重みが指数関数的に増えている。

修行をしようと思っていたのだが、これでは時間が足りない。

それにこんな状態で剣を振るえば怪我をする。いや、きっと剣を抜けばある程度は目が冴えるとは思うが、集中が切れた瞬間に眠気に支配され怪我をするなんて事故が起こってしまえば目も当てられない。

あと眠たい状態で修業したくない。だりぃ。

つーかもう寝たい。


「今日はもう寝よう。そうしよう」


少しばかり長い付き合いになってきた長椅子に横になる。

日本にいた頃よりかは眠気は穏やかになっている。……が、俺の生まれ持った宿命ともいえるこの強烈な眠気はそれでも未だ俺を捕まえて放すことはない。常人というにはあまりにも俺の人生は眠り中心すぎる。

数秒、目を閉じると俺の意識はゆっくりと吸い込まれるように闇に溶けていった。
















ゴブリン


光合成をすることができる魔物の一種。劣悪な環境下でも生き残ることができる。だが曇り空が続くと餓死するという致命的な欠点を持つ。

植物を食べて光合成をする力を得る為幼体は緑色の体色をしていない。

魔力を多く持つ個体の方が知能が高いという傾向があるが、コレは悪食故に食べ物の魔力を分解するために体力を消費する為だ。




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