54話 試練が終わり、車輪が回り始めた
「いつから、門番ってのはその国のトップがするようになったんだ?」
「確かに私が門番をするのは不適切だろうね。けれど門番というのは、国の門を守るものの事だ。つまりは入るに足るかその資格を問うというのならば、私ほど適任の者はそういまい」
門の前には羽を完全に広げたルシファーが立っていた。
馬車を止め、俺だけが降りて奴と話している。
どうせすぐに動かす馬車だ。用があるものだけが下りればいいだろう。そう考えていた。
「つまり?」
「君は試練を受けるもので、私は試練を課すもの。そしてその試練というのは今ここで行われる。これ以上説明が必要かい?」
そんな時間はあるのか、他の奴らはいつ来るのか、いろいろ疑問はあるが……いい。
どうせすぐにわかることだし、関係のないことだろう。
「一つだけ聞かせろ。何があった」
「タイムリミットだ。時間が来た。明日太陽が昇り鴉が鳴く頃、君の友人はもはや人ではなくなる。君はそれを阻止するために旅をしてきたんだろう」
「……そうか」
「完全に私の力を借りる、つまりは最大の試練を。相違ないね?」
「ない」
頭痛がする。鐘が鳴るように痛みが響いている。
俺の友人がもう十数時間もすれば人ではなくなる。
頭が痛い。遠い何かを見ているかのように、金縛りで俺自身をじっと上から見ているかのような感覚だ。
時間がない。
頭がかき回されているようで。
「大罪が一つ、傲慢のルシファー。最終試練を開始する」
奴に生えた翼が光り輝いて影になる。奴に生えた翼が影になり、逆説的に辺りを光らせる。
四対の翼が質量をもった光と闇を放射していた。
光は皮膚を焦がし、闇は俺の動きを止めるだろう。
「早く、時間が無いんだ」
それを剣で斬って排除した。斬られた濃い闇と眩しい光は均衡が崩れ、流れがぶつかり消え去るように消えていく。
ルシファーの翼から八人の騎士が飛び出す。そして飛び出した彼らが翼だったかのようにルシファーの背中から翼が消えていた。
発光しているのかと思うほどの曇りなき白銀の鎧と、傷一つ無いカラスの羽のように艶やかな漆黒の鎧を身にまとっている。
「早く」
四つの剣を剣で受け止める。
四つの剣が体に突き刺さる。
八つの彼らの剣はそれで止まった。
「動かな……」
「爆発しろ」
舌で口蓋に炎の魔術文字を描いていた。
魔術文字は火、効果は爆発。魔力はありったけ。
周りの影響は考えていない。だが、ルシファーがやっているだろう。コレは彼の試練なのだから。
「自爆とは」
「自爆ってのは己の身を傷つけてやるもんだろ?」
目の前に八人の騎士が転がっている。天衣無縫のような美しき鎧を着ていても、鎧でしかない。大罪人や枢機卿のような面倒な硬さはしていない。
俺は無傷だった。猛烈な爆発を間近で受け止めても傷一つ付いていなかった。
「よろしい。……この剣はこの世界で一番固い物質よりも固いモノで構成されたものだ。そう作られている。絶対になるための試練にも使うモノを更に鍛えて作り上げた一品だ。コレを破壊するか、僕の手から弾き飛ばして見せてくれ」
八人の体が光球になると、ルシファーの羽に戻っていった。
ルシファーは二つの翼、白と黒の翼だけになり一つの黒い剣を持っている。
「あのうざったらしい前髪みたいな羽はどうしたんだ?」
「休んでるのさ。彼らは多対一の試練だからね。いくよ」
ルシファーは足で跳んで間合いを詰めた、というよりはスライドしたようにこちらに飛んできた。
ジェット機かてめぇは。飛び方的に羽から噴射して前に移動してるな。
魔力か魔力を変換した何かなのかは知らんが。
人間としてはありえないスピードだ。人間がやれば背骨が折れて、バルーンのような動きになってしまうだろう。
だが、見える範囲内だ。
「避けないんだね」
「避ける必要がないからな」
「その剣でこの剣に勝てるとでも?」
「硬さだけが武器の強さじゃない。魔力がある世界で生きるのなら分かるだろうに」
頭ががんがんと叩かれているように痛む。俺がしゃべっているのか、俺がしゃべっているのを聞いているのか分からなくなってくる。
痛みで思考が狭まったとしても、俺の技が錆びつくことはない。
「終わらせる」
「な」
斬った。
「首が斬れても、お前なら死なないだろう。これで……良いのか」
首を斬られてもルシファーは倒れる事は無かった。落ちる自分の頸を受け止めて、すぐに切断面をくっつける。そして斬られていなかったかのように全てが元通りになった。
「この剣を斬るとはね。魔法も使わずに」
「それで結果は?」
「うん。合格だよ。私は君に全力をもって手を貸すと約束する。その権利を君は勝ち取った」
「そうか」
ひと先ず第一関門突破だ。
剣を収めて、体の力を抜く。
……頭が割れそうだった。
「……それで何時出発できる?」
「すぐに来るよ」
「色欲は?」
「手紙を出しておいたからもう平等教の国の近くにいるんじゃないかな。もしかしたらもう始めてるかも」
「わかった」
「あぁ、そうだ。頭痛が酷そうだけど、大丈夫かい?」
それほどまでに俺は酷い顔をしているのだろうか。
確かに頭の痛みがひどく、思考が散乱している。自分の顔がどうなっているのか分からないほどには。
「何故分かった?」
「最終試練の報酬のおまけで教えてあげよう。それは君の業だ。これから君はそれに向き合うことになるだろう」
「意味が分からん」
「予言というものは総じてそうさ。まぁ、頑張ると良い。そして覚悟をするんだ」
「……ご忠告ありがとうよ」
ルシファーの予言はさっぱりわからない。心当たりが少しもない。
だが、おそらく真なのだろう。彼が言うのだから、なんて盲目に信じはしないが妙な説得力があった。それとも無意識的にその通りだと理解しているから納得してしまったのか。
そしてその時は近いのだろう、と痛む頭に顔を歪ませながら思った。
試練の剣
ルシファーの作り出したこの世で最も硬い物質の剣。
傷つきにくく、砕けにくい。この世の物質では乗り越える事の出来ない試練だ。
だが、試練というモノはおしなべて可能であるものである。
道理をねじ伏せ、踏破するものにこそ祝福は与えられる。




