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勇者はまた眠る  作者: KURA


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48話 過去は消えず、追ってくる


「さてラオ、なんで今になって帰って来たのかな。君にとってここは忌むべき場所だろう?」

「用があるのは俺じゃない。友達がサタンに用があったからだ」

「ふむ」

「才賀です。友達を助けるために力が必要で。サタンに協力を仰ごうと」

「ふむふむふむ……いいね!」


グラドさんは親指を立てた。

そのサインこの世界にもあるんだ。


「友達を助けるためにこんな辺鄙なところに来るなんてすごいねぇ。」


俺の言葉を聞いて彼は二コリと笑う。

どうにもこそばゆい。親戚の叔父さんのような温和な笑みを浮かべている。


「おっと、そういう事ならゆっくりと話し込むわけにもいかないな。サタンは封印の祠にいるよ」

「祠に? 何かあったのか?」

「うん。ソレも含めて、ちょっと話そうか」


ラオの顔が険しくなった。

封印の祠、あまりいい響きじゃない。ゲームなら封印は解かれるものだ。

残念ながらお約束、というものだろう。


「ここ最近封印の様子がおかしくてね。いつもは彼も此処に住んでいたんだけど、僕が頼んで最近は祠にいてもらってるんだ。……これも運命なのかな」

「……兄貴、俺の過去について二人に話そうと思ってたんだ。頼んでいいか?」

「うん、いいよ」


ラオとグラドさんが目を合わせ無言の意思疎通が為される。

事情の分からない俺とファセスにはその一瞬の間を見てるだけしかできない。


「サイガ君に……えーと」

「ファセスです」

「ファセスちゃん。ちょっとお茶を持ってくるから、寛いで待っていてくれ」


そう言って彼は立った。

ラオの過去というものが、その封印の祠というものに関係があるのだろう。


うーん、気まずい。

空気を読まない質ではあるが、どうにも空気が重い。

速く帰ってきてくれないかな。

ラオの顔が怖いというか、暗すぎてどうにも声が喉で止まってしまう。

そんなに人との交流が得意なわけでもない俺には荷が重い。俺は手を引っ張られる側だった。いつも。


「すごいお兄さんだね」

「変わり者の兄貴だよ。すごいというのは……否定しないが」

「スキルについては知らなかったのか?」

「スキルというのは後天的に発現することもある。自覚していなかったりな。俺がこの里を出たのも大分昔の事だ、その間に発現したんだろう」


ファセスが言葉を発してくれたおかげで、氷のように固まっていた空気がほんの少し弛緩した。

感謝をするように視線を送ると、彼女は笑った。気まずそうにしていた俺に気を使ったのだろうか。

へぇ、じゃあ俺もスキルが発現することもあるのかな。

時間が止まるようなものだと良いな。時間が止まればいくらだって眠ることが出来るだろうに。



「さて、何の話だったか」


コトリと湯気の立つ茶を以てグラドさんは帰って来た。

呑むには少し熱いが、香りを嗅いでみると茶とは言っても日本の茶とは違い、少し香ばしい臭いがした。

息を吹きかけてほんの少し冷ましてから啜ってみると、美味い。夜は基本寝ている俺には温かい飲み物は久しぶりだった。


「俺の過去、そしてあの封印の祠について、だ」

「そうそうあの祠。まず初めに僕たちは双子でね。俗に言うなら忌み子という奴なんだけど……あ、人間だと違ったりする?」

「それは場所によるな。吉兆と見る場所もあれば俺たちのように忌み子として扱われている場所もあった」

「おお、流石だねラオ。見識が深い」

「伊達に旅をつづけたわけじゃないからな」

「いいねぇ。後で旅の話を聞かせてよ」

「分かった。一度帰ってしまえば、二度も変わらないだろう」


驚く事に二人は双子らしい。そう聞かされると二人の顔が似ているような気もする。ラオには角があり、グラドさんには角が無いから少し印象が変わって見えているのだ。

ラオはよく眉間に皴を寄せているからか、少し目元が違って見えるが、はっきりと違うと言えるのはそれくらいだった。

穏やかなグラドさんと険しいラオ、印象は違うがそれでも特徴に共通点を見出すことが出来る。

ラオは言葉から察するにこの里に帰るのを避けていたのだろうな。


「似ていると、思います。二人とも」

「そうかい? そうかぁ……なんか初めて言われたけどちょっと恥ずかしいね? お嬢ちゃんもなかなか非凡な人生を送っていそうだけど」

「鬼にとって双子というのは忌み嫌うべき存在だった。双子を生むと必ず角無しがいる。それが兄貴だ」

「昔はこれで苦労したねぇ。直接触るのすら疎まれてたんだよー。酷くない?」


グラドさんはそう明るく言っていた。

角の無い額をさすりながら笑う彼はなんとも思っていないのだろう。


「ラオは優しいから、溜めていたんだろうねぇ。それが決壊する事件が起きた」

「それで、出てくるのが封印の祠?」

「うん。その年は飢饉だった。昔、この里にはある風習があってね。封印の祠、その中にある井戸に食料を投げ入れる。その量十人分」


もう予想は付いた。

飢饉に起きることとと言えばどこも共通だろう。


「いやぁ、口減らしだったよ。肉は肉だ。僕を井戸に投げ入れようという話が出たんだ。なぜ僕かというと、同じ双子でも角無しの僕より角有りのラオを生かしたかったんだろうね」

「夜胸騒ぎがして起きたら、兄貴がいなかった。必死に兄貴を探して見つけた時、兄貴は手を縛り、足を縛り、罪人のように歩かされていた」

「僕としては、それでも良かったんだけどねぇ。ラオは生き残れるだろうし、別に彼らに恨みも無かったし。ラオの気持ちを考えていなかったと言われれば、そうだったんだろうね」

「そこからの記憶は俺にはない。気が付いた時にはすべてが終わっていた」


グラドさんは少し後悔するような愁いを持った顔を見せたが、すぐに笑みにかき消された。彼の笑みは軽薄なものではない。感情を隠すものでも、持たないものでもなく、多く含んでなお笑っている顔だった。

ラオの持つ大罪とは憤怒、つまりは怒りだ。生贄にされようとしていた兄の姿を見た大きな怒りが、彼を大罪に導いたのだろう。


「ラオは燃えていた。僕でさえもラオだと識別できないほどの大火を身に纏っていた。その大火は火をまき散らし、辺りが炎に埋め尽くされ、周りの鬼たちはその身を焼かれていた。だけど僕の身は全く焼かれていなかった。その時ようやく気付いたんだ。目の前の炎がラオなんだって」

「それからどうなったんですか。この里は滅んでいないようですが」


怠惰の大罪を宿している俺にはわかる。本気で憤怒が燃やそうとするならばこの里はとっくの昔になくなっているはずだと。

炎はそれだけ恐ろしいものだ。だが、里はまだ残っていた。里の鬼たちもラオの事を恐れていたが、生きている。


「そりゃ止めたさ。ラオを止められるのは僕だけだ。他の鬼は近づくだけで焼かれて灰になるだろうからね。数人はなってたし」

「グラドさんを虐げていた人たちでも、ですか」

「そりゃあそうさ。僕は彼らを殺すつもりもなかったし……まぁ助けるつもりも無かったけど。だけどラオを止めたのはラオの為さ。優しい子だからね、きっと後悔する。詰みあがった灰になった里できっと」

「正気を取り戻した時、俺の前には兄貴がいた。怯える奴らを背に隠し、俺を見ていた。俺の怒りは奴らを庇っている兄貴も焼こうとしていた。……それでやっと俺は正気を取り戻せたんだ」

「それは……」

「あぁ、察しているように憤怒の炎は俺を焼いた。背中を晒す、いいか?」


ラオが上半身を晒すからだろう、ファセスに確認をする。そして彼女は頷いた。

ラオが服を脱ぎ、背中を見せる。そこには焼け焦げた傷、というよりも先ほど炎によって巻かれた人間の背中という印象を抱くものだった。火傷の古傷ではない、今まさに火から出てきたような姿だった。肉は決して硬くなく、激しい熱を持っているようにすら思える。

赤くそして肉が崩れそうなほどにその強度を無くしていた。


「勘違いしないように言っておくけど、ラオの炎が全てこの傷跡になるわけじゃないよ? 僕が助けて手当てをした鬼の中には全く回復した者もいる。コレが特別なんだ」

「二人は、分かってると思うがコレは憤怒の性質のせいだ。恐らくは、俺自身が許せてないんだろう。……まぁ、俺の話はもういい。件の封印の祠だ。俺はその後すぐにここから出て行ったからよく知らないんだが、どうなったんだ?」


別に良くはないが……まぁこれを別に話し合ったところで彼の背中にある怒りが無くなることはないし、俺たちはここにきて抱いた疑問が解決した。

これですべて元通り、つまりは進展の時だ。


「ラオによって半分ほど死に、口減らしの必要もなくなった。だからここは安泰に戻った。それから……数か月前くらいかな、祠の地面にひびが入っていた。だからラオの後に此処に居ついたサタン君に見張りを頼んでいたんだ」

「サタンとここで会ったわけじゃなかったのか」

「旅の途中で頼んでおいたんだ。祠もあるし、兄貴は角無しであることに変わりはないからな。ま、来てみればこんなでっかい家に住んでてびっくりしたけどよ」

「あぁ、そうだったの。サタン君、事情を言ってくれなかったからなぁ。あの頃は人手も足りなかったし、助かったんだけど」


サタンはここの見張りを頼まれてたのか。

ふむ、ふむ、ふむ。……うん、やるかぁ。


「ラオ、俺は祠の事解決してから出発でもいいぜ?」

「それは、助かるが……良いのか? お前は……」

「いーんだよ」


困惑するラオの言葉を遮ってそう言った。肩をペシペシと叩く。

友達だと紹介してくれたからには、友達が困ってそうなら助けるのが筋だろうさ。

それに、もう覚悟は決めた。厄介事を俺が運んでくることはままあったのだから、俺もラオの厄介事を解決してやるというのが道理だ。


「ま、解決できなくとも調査くらいはして出発した方が気が楽だろ?」

「はは、ラオ。お前がこんな里に帰ってくるほどの友なんだろう? 甘えておくのもいいんじゃないか」

「一応この村にかかわることなのだから、俺と同じ当事者である兄貴がその他人事もどうかと思うが。……サイガ、良いのか。ファセスも」

「僕は別に急ぐ理由もないし。サイガについていっているだけだし」

「だとよ。この機会に心配事は全部無くして行こう。その方が楽だ」


心配事があれば睡眠の質は落ちる。

それだけなら俺以外は良いかもしれないが、戦いの質も落ちるかもしれない。

思考が濁るのはいけない。……ラオがそんな戦いの最中に濁るような男だとは思っちゃいないが、念には念を入れるのが戦いだ。

命がかかっているから、な。というのが一つの理由。


ここまでお世話になって仲良くなったラオを助けてやりたいというのが強いがな。


「さて、身の上話も終わったんだ。件の祠に行くとしようぜ。案内してくれ」

「案内しよう」

「おっとと、僕もいくよ。一応僕はこの里の長だから、ね」


グラドさんの行くとの言葉にラオが止めようとするが里の長であるからと言われ、負けた。

意外な事にラオはあまりグラドさんに勝てないようだ。見たことない顔をしている。ファセスと共に指さしてクスクス笑ってたら、ラオに頭にげんこつを落とされた。いってぇ。


ラオからすれば余計な危険に会わせたくないんだろうが、グラドさんの長というのはあまりにも正論だ。

ま、大丈夫だって。俺とファセスとラオが行って、更にサタンもすでにいる状態で全滅というのは……恐らくないだろう。多分。

最悪全滅しても、退却の時間くらいは稼げるって。



















角無しの忌み子


角が無いまま産まれてきた鬼。

角が無い為に空間把握能力は欠けているが、その膂力は健在。

他の鬼と比べて感情の起伏が穏やかという特徴がある。

鬼の歴史に忌み嫌われていた彼らの爪痕が無いのは、その温和な性格故なのだろうか。

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