47話 鮮烈な再会が旅を彩る。
「妙に視線が集まってるな」
「原因は俺だろうな」
「なーにやらかしたんだお前は」
ラオの故郷に着いた俺たちは彼の案内を受けるままに里の中を歩いているのだが、妙に視線が纏わりついていた。
だが話しかけるというわけでもなく、家々の影からこちらを見ている、という風だ。
影から見える体には角という特徴的なものが見え、ラオの故郷であるという事を再確認する。
そしてラオの言葉通り俺たちを見ている、という訳でもなくラオを見ているというのが正しいだろう。
その証拠に俺たちの視線を避けようとしない。だがラオの視線には逃げるようにして避けている。
微かに聞こえてくる話し声は決して心地よいものではないが。
「それも含めて後で説明する」
「そういえば聞いてなかったけど、どこに向かっているの?」
「俺の兄貴の所だ。同じ所に住んでいるかはわからないが……それならそれで聞くだけだ。そこの奴らにな」
ラオの言葉は刺々しかった。やはりラオからはここの住人への敵意を感じる。
過去に何かあったのか、それを俺たちは知らない。といってもそれを含め説明するとラオは言っているのだから俺たちは待つしかない。
つまりは俺たちはとりあえずの所ラオについていくしかないという事だ。
ファセスと目を合わせるとどうやら彼女も同じように思っていたようで、先導する彼についていった。
「……ここ? 随分立派なお屋敷だね」
「記憶の、限り……は。ノックしてみる」
たどり着いたのは大きな屋敷だった。
これまで大きな城を見たことはあったがこう、大きな屋敷を見るのは初めてだった。屋敷の前に立っているとどれだけの広さなのかもわからない。
扉に近づいてラオがノックをする。乾いた音が響いていく。
そして数分待った。
「おや? おやおや? 懐かしい顔を見るものだねぇ。また会えてうれしいよ、ラオ」
朗らかな顔をした男が出てきた。寝起きのように頭をかきながらぼんやりとした焦点をラオに合わせると、喜びに顔を綻ばせる。
どうにも優しそうという印象が抜けない彼は満面の笑みを浮かべている。ラオの肩を何度か叩きながら久しぶりの再会を喜んでいる。
もし彼が詐欺師ならば俺は尊敬すらするだろう、という風には人を安心させる男だった。
たった一つの点を除いて。
「兄貴……?」
「そうさ、兄さんだよ。どうしたんだい? そんな険しい顔で」
ラオは何も言わずに顔を強張らせていた、
俺はその気持ちがわかる。俺も何も言わずに目を見張っているからだ。
久しぶりの再会だというのだから少しは二人だけに、なんて気遣いは吹き飛んでいた。
「なんで」
「ん?」
「なんで裸なんだ……!?」
「……あ」
彼は裸だった。
裸であるという事を知らぬかのように彼は外に出てきた。
朗らかで、急に肩を組まれてもびっくりはするだろうが、警戒はしないほどの男であるというのに。
彼は裸だった。
現代日本で出歩けば即通報されるだろう恰好をしていた。
「あー、俺は分かんねぇんだけどこれって……鬼族ジョーク?」
「鬼族の為にも服を着てくれ兄貴!」
恐らく悪い人間ではないだろう。
そう俺は思った。ファセスも、多分? ちょっと頬を赤らめているがそう思っているに違いない。
「いやぁ、すまないねぇ。ラオの友達クン達。気付かなかったんだよ? 本当に」
ラオに怒鳴りつけられたラオの兄は中に戻り、きちんと服を着て歓迎をやり直してくれた。
中へ通され、客室らしきところに案内される。
屋敷の中も立派なもので、床材もしっかりしているし、埃も散見することはなくよく掃除されていた。
だが、そんな手入れの為されているのというのにラオの兄以外の人間を見ることはなかった。
客室は畳ではないが、椅子でなく座布団のような何かに座る様式だった。少し爺さんの和室を思い出して懐かしい気持ちを味わった。
「弁明は良いから訳を教えてくれないか、兄貴。こんな屋敷に住んでいて着る服がないというわけではないんだろう?」
「そうか、ラオが出て行った後だったな。僕はスキルが発現してね。そのスキルが……見た方が早いな」
彼は机に手を付き、持ち上げた。
そしてその机から彼が手を離した瞬間、机は重力を見失った。
昔テレビで見たような無重力の動き、それを机がしていた。落ちることもなく、ただ手から離された場所に浮遊している。
「魔力で手形をつけた物の重さをなくせるんだ。便利だから服も軽くしてるんだけど……全く重さを感じないからたまに服を着ることを忘れてしまうんだよねぇ」
「確かに重さを感じない。言ってることは本当のようだな」
「兄の言葉を疑わないでくれよー」
ラオが机を持つと、どうにも手ごたえがない様子でそう言った。
机は大人一人分ほどの長さをしており、そう片手で持てる重さをしているようには見えない。
ラオの兄は彼に疑われたことが心外のような事を言っているが、笑みを浮かべている事からじゃれ合いのようなものなのだろう。
「久しぶりの再会が真っ裸だった弟の気持ちを考えてくれ。ファセスだっているんだぞ」
「あー……うん、それはすまなかった。大丈夫だったかな、僕目の前から消えた方が良い?」
「いえ、大丈夫です。少し驚きましたが」
「気をつけなきゃいけないなぁ、里の人間ならまだしも客人なら無礼になっちゃう」
無礼とかそういう問題か? あと里の人間でも駄目じゃね?
思わずそう思ったが、まぁ確かに無礼で交流が根絶なんぞしたら後悔してもしきれんな。しかもうっかりの全裸が原因なんて。
「おっと、自己紹介を忘れていたね。僕はグラド。ラオの兄で、角無しなのに鬼族の長をやっている稀有な男さ。自分で言うのもなんだが、ね」
そう言ってグラドさんはウインクをした。
真っ裸の印象が強すぎて今の今まで気が付かなかったが、彼の額には角がない。
鬼族の長という肩書が似合うほどの屋敷、そして角無しという情報。
どうやらラオもまたいろいろ過去に何かあったという事だろう。そして全て終わっている。
今から俺たちが知るのは過去の事なのだから。
果たしてラオの中で本当に終わった事なのかは、俺には図れぬことだが。
鬼
額に角を持っている種族。力が強い事や、感情が激しい傾向の者が多いと言われている。
天を突く角は骨に近く、感覚器官のように周囲を認知することが出来る。
角に汚れが付くだけでも彼らは多大なストレスに晒されるらしい。
故に角無しの子は忌み子と呼ばれ嫌われているという。




